デビュー25周年目前にリリースされたaikoの新曲「ねがう夜」が頭からなかなか離れない。最も惹きつけられたのは、時には転調を伴いながら予測不能の展開を見せるメロディラインで、ポップだが一筋縄ではいかないトオミヨウのアレンジによるサウンドが、aikoの唄うメロディをさらに魅力的にさせている。この曲は、寝ている間に見た夢を、起きてからも詳細に覚えているというaikoの実体験からインスピレーションを受けてできたとのこと。〈だからもう夢に出なくていいんだよ〉としつつ、直後には〈たまに夢でと願う夜〉と真逆のことを唄うなど、主人公の心は揺れ続けている。そして、雪ではなく、みぞれ混じりの雪が降った時のガッカリする気持ちを恋心にかけて表現した〈かき氷の雨〉、かき氷のシロップは色と香りが違うだけで実は全部同じ味という俗説を想起させる〈勘違いの苺味〉をはじめ、aikoならではの歌詞表現も見られる。私たちの心の中にある感覚を、私たちが思いつきもしなかった表現で書き表せるaikoのひらめきが存分に発揮されている曲とも言えるだろう。
ライフステージが変わっても、25年間徹底してラヴソングを唄い続けているのはaikoの変わらないところだが、メロディやサウンド、言葉のチョイスは新鮮。42枚目のシングルにもかかわらず、まだ新しさが感じられるなんて!という驚きとともに、ミュージシャンとして進化し続けるaikoの姿を感じ取った。
一方、aikoはメロディよりも先に歌詞を書く詞先のソングライターだと公言しており、つまりメロディの複雑さとはそのまま歌詞に描かれている心情の複雑さでもある。特に今回は〈夢の中〉という自分には操作できない領域で起きた出来事が元になっているからなおさらくねくねの道を行くような曲になったのだろう。カップリングとして収録されている、ラヴソングをテーマにした「ゆあそん」には〈単純に理解できそう簡単なラインの上/歩いてるつもりでもいつも難しくて〉というフレーズがあるが、それはまさにaiko自身の感覚を言い当てた歌詞であるように感じる。恋する人の心はなかなか解き明かせないし、不思議はなくなるどころか湧いてくるばかりだとaiko自身が感じているからこそ、彼女は25年のキャリアを重ねてもなおラヴソングを唄い続けているのかもしれない。
〈喜楽孤独〉とはまさに、という感じで、私たちは日常をつつがなく過ごすため、〈怒〉や〈哀〉を他の人からは見えないところにしまい込んでいたりする。しまい込んでいるうちに〈怒〉や〈哀〉がなくなった気になり、ライフステージの変化とともに感情という爆弾を上手く取り扱えるようになった錯覚に陥る。人知れず誰もが抱えている違う形の爆弾――相手を思うがあまり自分ではコントロールできないほど大きくなってしまった感情や、涙とともに飲んだ寂しさや悲しみ、切なさ――を取り扱っているのがaikoの歌であり、〈可愛くて禍々しいもの〉という表現から感じられるのは、歪であることの肯定、そして愛だ。複雑な軌道を描くaikoのラヴソングとは、今恋をしている人はもちろん、かつて恋をしていた人やまだ恋を知らない人、恋をしない性質の人も含め、すべての人を抱きしめてくれるライフソングでもあるのだ。
文=蜂須賀ちなみ
NEW SINGLE「ねがう夜」
2022.04.27 RELEASE
■初回限定仕様盤(CD+Blu-ray)
■通常仕様盤(CD Only)
〈CD〉 ※初回盤、通常盤 共通
01 ねがう夜
02 友達になりたい
03 ゆあそん
04 ねがう夜(instrumental)
〈Blu-ray〉 ※初回盤のみ
『Love Like Pop vol.22 〜本当の初日 無観客ライブ〜』
01 片想い
02 メロンソーダ
03 ぬけがら
04 ボーイフレンド
05 シャワーとコンセント
06 ライン
07 4月の雨
08 ばいばーーい
09 Last
10 しらふの夢
11 ドライヤー
12 信号
13 青空
14 予告
15 磁石
16 相合傘
17 58cm
18 あたしの向こう
19 ハニーメモリー
20 エナジー
21 いつもいる
特典映像:LLP22 backstage
副音声:aiko Commentary