何のためにバンドやってるかって、空気の共有なんですよ。喜びも悔しさも、本気で共有しないと、何の意味もないから
そして1曲目に「Unite / Divide」、ラストに「仮面の国‐United‐」とインストが入ってます。
「これはまず、アルバムの曲が全部出揃って、最後に『Unite / Divide』ってタイトルが出てきたんですよ。で、全体通して共通のトーンがあるから、コンセプトを持たせたほうがいいな、と思ったんです。だから1曲目は、ミュージカルでいうオーバーチュアにしようと思って」
序曲、ってことですか?
「そうです。ミュージカルのオーバーチュアって、本編の中で唄われる曲のメロディを繋ぎ合わせた組曲になってることが多いんですよ。それをロックでやろうと思って。だからアルバムを何度か聴いてもらったらわかると思うんですけど、このアルバムの中のいろんな曲のサビメロやリフが散りばめられてるんです。テクニックがいりましたけど、こういうのはやり甲斐がありますね」
ちょっとしたコンセプトっぽさを感じさせます。あと「リメインズ」が名曲です。
「ありがとうございます。これはラヴソングなので、男女でいう『Unite / Divide』を唄ってます。恋人でも夫婦でもいいですけど、UniteするのかDivideするのか、気持ちが揺れ動く、微妙な瞬間を唄いました。こっちは好きなのに、相手にはもう気持ちがない、そんなシチュエーションも歌にはなるけど、どちらかに残された時間がもう少ない……だとしたら? 基本的には聴き手に委ねたいのでこのへんにしましょう(笑)」
これはグッときます。
「でもこのアルバムタイトルだと、8年ぶりに出すのに、バンドの状況を心配されそうだなって思いました(笑)。あくまで内容を反映したタイトルです。いろんなタイプの曲があって楽しいと思いますよ。ただ今回は、今までのアルバムの中で一番、怒りや皮肉、メッセージが入ってます」
だから珍しく生々しいんですよね。「いっそ分裂」の歌詞に出てきますけど、トライセラは〈苦悩とか闇とか 晒したくはない〉タイプで、そんな姿は極力見せず、ロックの持つ楽しさを表現してきてたのに、今回はそういう苦悩や闇、怒りや皮肉、がにじみでてますよね。
「ずっと一緒にやってきたプロデューサーがいたんですけど、彼の意見もあったと思うんですよ。僕がちょっと苦悩した、暗めの曲を書いてくると『唱くんこれ、ラヴソングにしたほうがいいんじゃない?』って」
生々しい言葉をもう少しオブラートに包んで?
「というより、『抽象的でわかりづらいんだけど』っていつも言われてました(笑)。僕も弱かったんですよ。『いやいや、僕はこう感じてるんですから、これで行きます』って言えればよかった。僕はね、ずっと歌詞に自信がなかったから、そう言われると、そのほうが正しいのかなって思っちゃって。もちろんその意見によって生まれ変わった曲もありますよ。でもどこかメロディとチグハグだったり、ストレート過ぎて恥ずかしいな、という結果になった歌詞もそれなりにあって。まぁ、最初から誰もが納得のいい歌詞持っていけよって話なんですが(笑)」
後悔してるわけではないけど、今は自分のやりたいことを、そのまま形にしたい、と。
「そう。純度100%。だから今、この25年でいちばん創作意欲にエンジンかかってます(笑)。もちろん濃くなり過ぎないように、シニカルになり過ぎないように気をつけてるけど、今、とにかく腹が立つことが多くて」
和田くんにしては珍しいですね。
「そう思うでしょ? 社会への怒りの衝動で曲を作るなんて(笑)。もともとロックバンドって、そこから始まるじゃないですか。たぶん僕は、不自由なく育ててもらって、家族も仲が良くて、怒りや絶望みたいなものは、学校と彼女とのケンカくらいでしたから(笑)。だからファーストアルバムは全曲ラヴソング」
でもそこが良かったところでもあるじゃないですか。
「でも当時、雑誌のライターさんから『メロディは良いけど、歌詞がついていけてない』とか、他にも傷つくわけわかんない批判されて、めちゃくちゃ腹が立ったわけですよ。ロックを怒りの衝動で書かなきゃいけないって、誰が言ったんだよ、って。だからサードアルバムは、そういう評論家への怒りが衝動となったんですけど、歌詞を書くテクニックがまだないから、ただ怒ってるだけで、まったく音楽に昇華してない。作文みたい(笑)」
それがようやく、コロナ禍の空気や、人間がお互い分断されていく様子を肌で感じて、自分が作る楽曲と合致したわけですね。
「今は怒りもちゃんと音楽に昇華する実力が付いたと思ってます。右に倣への世の中、自ら調べず情報鵜呑みの社会に対して、本気で落胆して、怒って、けどそれを音楽に昇華できたと思います。もちろんユーモアも忘れず。バンドサウンドって、怒りやフラストレーションを爆発させるのに合ってるんですよ。今回バンドの音と、言いたいメッセージが強く結びついた」
つまりは周囲への怒りですよね。なんでこうしないの、とか、こう考えないの、って。
「でも結局はみんな、それぞれが生きたい人生を、自分で選んで生きることしかできないから。人って、自分がいいと思ったり正しいって信じたものを、人にも同じ考えでいてほしくなっちゃうんですよ。夫婦や親子、母親なんて特にそうでしょ(笑)」
和田くんのご家族も?
「うちはみんな大人になって、そんなに干渉し合わなくなってきたけど、僕は小さい頃、母親にめちゃくちゃ心配されて育ってきたんですよ。でも本来、心配と愛情は違うんですよね。信頼してあげればいいんですよ。そうしたほうが子供は自信を持てると思う。僕は心配され過ぎたから、こんな心配される僕って……って思考になってました。だから自信を取り戻すまで、すごく時間がかかったんです。もちろん愛情ゆえの心配だったことは理解してるんですけど、でも、僕がもし親になるとしたら、なるべく信じてあげたいなって思うんですよ」
そうやってある種解放されて、バンドの楽しさや可能性も、その向き合い方も、取り戻すことができたんですね。
「やっぱり、みんなで集まって一緒にデモテープを作ったことが本当に良かった。バンドの良さってこういうことだなって、改めて思ったし。何のためにバンドやってるかって、空気の共有なんですよ。喜びも悔しさも、本気で共有しないと、何の意味もないから」
じゃあ次のアルバムのデモは、林くんの家に集まらないと。
「そうですよね(笑)。じゃないとバランス悪いもんな。林、家に上げてくれるかなぁ」
文=金光裕史
NEW ALBUM『Unite/Divide』
2022.04.20 RELEASE
01 Unite/Divide
02 マトリクスガール
03 CLUB ZOO
04 仮面の国
05 いっそ分裂
06 LOST
07 噴水
08 キミにひとつ地球
09 ROSIE
10 リメインズ
11 THE GREAT ESCAPE
12 仮面の国-United-