自分は正直に表現していくことが性に合ってるし、同じように悩んでいる人がいるなら救いたいっていう気持ちが勝るんです
猫の存在が作詞に影響を与えることはありますか?
「音楽に直接は関係しないんですけど、猫がいることで日常のモヤモヤがすっきり晴れて、リセットした状態で仕事に取り組めます」
猫を飼う前は、例えばモヤモヤした感情を引きずって、作詞に向き合えないこともありました?
「ありましたね。今も多少はあるんですけど、そういう時はいったん現実逃避するようにしてます。逃避しないと、私はそのことについてずーっと考えちゃって、ボンヤリしたまま2週間過ぎることも全然あって。なので、いったん別の作品――たとえば長編ドラマを一気見したり、漫画を読んだり、好きなだけ食べたり寝たり、制限を取っ払って好きなことをします」
私はLaura day romanceの作品にもそういう効果があると思っていて。嫌なこととか生きづらさに直面した時、そこから逃避させてくれるような、ファンタジックな要素が詰め込まれているというか。
「ありがたいです。自分たちも事実を書くというより、物語を作ってる感覚が強くて。その中で、どうしても自分のことを書いたり、内面の部分が滲み出てくるので、それによっていい具合にリアルとフィクションの間を漂うような曲ができてるのかなって思います」
歌詞は生々しさを感じる部分もありますよね。今作で言うと、「wake up call / 待つ夜、巡る朝」の〈他愛無い生活を続けていくの/ため息の街を僕は泳ぐ/たまに君が突然くれるような/wake up callを待ってる〉とか。時勢も相まって気疲れしてしまうこともあるけど、それを乗り越えて、他愛無い生活を守っていく決意が感じられました。
「まさにそうなんです。この歌詞は私と迅くんが半々で作詞したところで、自分も気に入ってるポイントなんですけど……他愛無い生活がどれだけ幸せなものかって、私だけじゃなくて皆さんが身に染みて感じてると思うんですよ。その思いを今書かなくてどうする?と思って書きました」
使命感に駆られたんですね。他にコロナ禍が作詞に影響した部分はありますか?
「あとは、コロナ禍で人と会わないとネットに触れる時間が増えると思うんですけど、ネットの比重が大きくなっちゃいけないと思って。今はネットで簡単に誰かの思いを知ることができるじゃないですか。それによって他者の存在を近くに感じられるのはいいと思うんですけど、自分の気持ちが二の次になるのは良くないなって。例えばですけど、ネットで悲惨なニュースとかを目にして気持ちが沈んでも、その後の自分の心のケアをちゃんとしてほしいんです。そういう思いも込めて作詞しました」
共感力が高いがゆえに、自分自身を苦しめてしまう人はたくさんいますよね。井上さん自身、そういう経験はありました?
「今でもよくあります。もともと心の不調が身体に出やすいタイプで、悩み事があるとお腹や頭が痛くなったり、声が出なくなってしまうこともあって。それが怖くてメンタルケアに必死だった時もあったんですけど……そういう時に自分を救ってくれたのが、日記や曲を通じて本音を発信してくれる人たちの存在だったんです」
今の井上さんが行っている活動ですね。
「そうなんです。なんか、自分の弱い部分もさらけ出してくれる人に出会うと嬉しいんですよね。自分も弱くていいんだとか、こんなふうに思っていいんだって、共感できることが救いになるというか。弱さって、別に出さなくてもいいものじゃないですか。自分の本音を隠すスタンスだってカッコいいし、そういうミステリアスな雰囲気に憧れたことは私もありましたし。でも自分は正直に表現していくことのほうが性に合ってるし、同じように悩んでる人がいるんだとしたら、どうにかして救いたいって気持ちのほうが勝るんですよね」
……やっぱり井上さんって、根っこの部分は体育会系ですよね。
「え、そうですか⁉︎」
前回のインタビューで、「Laura day romanceは学生時代に組んだバンドだけど、川島さん(川島健太朗/ギター&ヴォーカル)が就職を機にバンドを辞めようとした」ってお話をしていたじゃないですか。
「ああ、話しましたね」
その時、井上さんが川島さんを喫茶店に呼び出して、「どうすんの? うちらは本気なんだけど」って詰め寄ったエピソードが印象的で。
「あははははは! 懐かしい(笑)」
その時みたいに、窮地に立たされても、先へ進もうとする強さがブレずに井上さんの中にあるのがいいなと改めて思いました。
「ありがとうございます(笑)」
これからもブレずに進んでいただきたいですが、バンドしてはどう在りたいですか?
「バンドとして求められるものがあるなら、その期待にもちろん応えていきたいんですけど、何よりも自分たちのやりたいことを軸にしていきたいって思いが強くて。可能性を自ら狭めることはしたくないし、このバンドは飽き性の人が多いので、そのほうが合ってる気がします」
どんな時に飽き性だと思います?
「例えば、今回のアルバムも最初は全然違う作風をイメージしてたんです。去年3部作でシングルを出したんですけど、その曲を作ってる時はもっとダークというかオルタナティヴロック寄りで、今みたいな繊細さはなかったんです。でもシングル3曲でエモーショナル寄りのことをやったので、また逆の雰囲気の曲を作ってみたくなって……エモーショナルなものから落ち着いたサウンドへの気持ちの切り替わりって、たぶん時勢によって疲れてたのもあると思うんですけど。感情をドカーンとぶつけたり、攻撃的な感覚で毎日を過ごしていなかったので、自分の気分とか過ごし方に合ってるのは、このアルバムの曲たちなんです。なので、これからも自分たちの気持ちに正直に、曲作りにも向き合っていきたいです」
今日お話を聞いて、2年前と変わらないどころか、それ以上に井上さんが熱量持って音楽に向き合っていることが知れて安心しました。コロナが蔓延してから活休や解散のニュースが途絶えない中で、Laura day romanceはどうなんだろう?って少し心配だったので。
「私たち4人なら大丈夫です! この2年間で現実的なことに今まで以上に目を向けるようになって、そのぶん落ち込むこともあったんですけど……今はメンバー全員が、バンドとしてやるべきことを全うして誠実にやっていけば必ず道は拓けるってスタンスでいるので。これからも自分たちのペースで活動を続けていけたらなって思います」
文=宇佐美裕世
NEW ALBUM『roman candles / 憧憬蝋燭』
2022.03.16 RELEASE
01 花束を編む / making a bouquet
02 well well / ええと、うん
03 wake up call / 待つ夜、巡る朝
04 winona rider / ウィノナライダー
05 ether / 満ちる部屋
06 aching planning / 傷ましいやり方
07 little dancer / リトルダンサー
08 魔法は魔女に / magic belongs to witches
09 waltz / ワルツ
10 step alone / 孤独の足並み
11 happyend / 幸せな結末
12 fever(CD限定)
13 東京の夜(CD限定)
〈drive all over town / 望景蝋燭 tour〉
5月13日(金)東京・渋谷WWW
5月21日(土)大阪・Live House ANIMA
5月29日(日)名古屋・新栄RADSEVEN