【LIVE REPORT】
ASIAN KUNG-FU GENERATION
〈25th Anniversary Tour 2021 Special Concert "More Than a Quarter-Century"〉
2022.03.13 at パシフィコ横浜 国立大ホール
最初は伊地知のゆったりしたビート。そこに絡む山田のベースと、喜多、後藤によるギター。サイケデリックな空気を孕むイントロは途中からどんどんBPMを上げていき……いざ始まるは「センスレス」! 続く「Re:Re:」、さらに「ループ&ループ」! でもって「リライト」ぉぉおお!!
このへんで燃え尽きた人がいても驚かない。ASIAN KUNG-FU GENERATION25周年アニヴァーサリー、現在アーカイヴ配信もされているバシフィコ横浜公演の2日目は、まさに惜しみない代表曲の大放出。「ソラニン」、「君という花」が続く頃になると、よくもまぁこれだけヒット曲があるものだと笑えてきた。最初は売れたことに戸惑いがあったし、本誌インタビューで後藤が語ったとおり、ロックかポップか論争で騒ぐアンチも相当いた。精神の削られ方は半端ではなかったと思う。それでも4人で肩を寄せ合い、なんとか崩れないよう足場を固めながら、これだけ強度ある楽曲を作り続けてきたのか。
アジカンが00年代のロックシーンを塗り替えたのは広く知られる事実で、それは、普通のヤツが普通の社会を唄っていいという常識人の主張でもあった。圧倒的スターが描くロマンじゃない。社会不適合者の捨て身の暴走でもない。めちゃくちゃな破壊願望など必要のない、社会のモブたる我々の生活。今日より明日が少しでもよくなればいいし、そのためには、弱りがちな心を少しでも強くする歌が必要。そういうファンの気持ちがバンドを支えたのか、あるいはそういうバンドだったから幅広いファン層を獲得できたのか。あらためて聴く初期のヒット曲は、当時の賛否両論を思えば意外なほどポップ&オープンに開かれている。悔しさ、腹立たしさ、怨みつらみ。そういうものを音にぶつけてこなかった精神の高さも、時間が経った今だから伝わってくる。
特別じゃない我々の歌。その理念は驚くほど変わらない。そして、この日のライヴが素晴らしかったのは、ヒット曲連発の前半がハイライトにならず、「我々=みんな」を具現化していった中盤以降がより深く胸に響いたところにある。
呼ばれたゲストは登場順に金澤ダイスケ(フジファブリック)、シモリョー(下村亮介/the chef cooks me/今やバンドの片腕である彼は後半ずっと5人目のメンバーだった)、デュエット曲「触れたい 確かめたい」「UCLA」でそれぞれ登場した塩塚モエカ(羊文学)と畳野彩加(Homecomings)。誰かが入ってくるごとにメンバーの表情はほころび、アイコンタクトの数は増え、演奏したあとには自然とハイタッチが行われる。バンドは4人いないと始まらないが、さらなる5人目、6人目の存在がどれほど空気をほぐしていくのか、その見本のような光景だ。そしてまた、人が増えることでいよいよ際立つのが「舞台上ライヴ参加型鑑賞席」の皆様なのだった。
説明が遅くなった。会場に入ってまず一番に目を引いたのは、ステージの後方、扇状に広がる雛壇の客席だ。基本はメンバーの後ろ姿を見ることになるが、広い客席を一望でき、バンドの視点を共有できるスペシャルシート。事前に白色系Tシャツ着用を指示されていたので、さながら白一色の合唱隊のようにも見える。その彼らが思い思いに右手を伸ばし、肩を揺らし、嬉しそうに音に呼応している様子は、どんな巨大セットよりも美しい背景になっていた。後藤いわく「一階も二階も三階もない。みんな同じ地べたにいて、楽しいって思う振動がこの場を満たすようにしたかった」そうだが、これは発想というより思想に近い。特別なキャラはいらない。みんな普通でいい。普通のまま「あなた」と「あなた」が喜びで繋がっていけるから音楽は特別なのだ。
ストリングスチームと井上陽介(Turntable Films)を加えた本編ラストも豪華だったし、アンコールには「遥か彼方」もあった。思い入れを加えればどの曲がベストかは人それぞれ。ただ、最大のハイライトは本編ラスト手前の「You To You」にあったと思う。三船雅也(ROTH BART BARON)が参加する最新アルバム収録曲、3月9日には配信シングルとしても公開された新曲だ。もともと柔和な三船の歌声が喜びの温度を上げていく。ブリッジでは喜多も唄い、三船がさらにコーラスを重ね、後藤はサビで〈想い描いて/君だって輪のなかに在って〉と力強く宣言する。思いがけず涙が出た。感動とは少し違う。誰も彼もが本当に求めているのはこの感覚だろうと気付いてしまい、その願いの儚さと切実さに全身が震えた感じ。アジカンは、まさに、人と人の社会を唄っているのだ。
一人ではままならないが、おそらくみんな「よくなればいい」と思っているもの。だけども問題は山積で、考えれば考えるほど多様で複雑で愛おしいもの。一曲でそれを描ききるのが今のアジカンだ。三船が去り際に後藤と強くハグしていたのも、なんだかとてもよかった。ライヴのワンシーンとしてよかったけれど、今の社会と音楽の関係性においても、とても重要なヒントになる気がする。「You To You」から幕を開けるアルバム『プラネットフォークス』は間もなく世に放たれる。ここから26年目に向かうアジカン。最後に肩をくんで深々とおじぎしていた4人は、とても社会的で友好的で建設的な……つまり、いい顔をしていた。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONを表紙巻頭で特集した音楽と人4月号が発売中。後藤正文ソロインタビューと、喜多建介、山田貴洋、伊地知潔の3人インタビュー。さらに楽曲をもとに25年の歩みを振り返るテキストも掲載しています。
文=石井恵梨子
写真=山川 哲矢
【SET LIST】
01 センスレス
02 Re:Re:
03 アフターダーク
04 荒野を歩け
05 ループ&ループ
06 リライト
07 ソラニン
08 君という花
09 シーサイドスリーピング
10 夕暮れの紅
11 ケモノノケモノ
12 夜を越えて
13 迷子犬と雨のビート
14 エンパシー
15 触れたい 確かめたい
16 UCLA
17 ダイアローグ
18 転がる岩、君に朝が降る
19 You To You
20 フラワーズ
21 海岸通り
ENCORE
01 遥か彼方
02 今を生きて
【アーカイヴ配信】
視聴チケット:¥2,800
チケット購入URL:https://asiankungfu.zaiko.io/
販売期間:2月25日(金)12:00~3月20日(日)21:00
視聴可能期間:3月13日(日)17:00~3月20日(日)23:59
NEW ALBUM『プラネットフォークス』
2022.03.30 RELEASE
■初回生産限定盤(CD+Blu-ray)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回盤、通常盤共通
01 You To You (feat. ROTH BART BARON)
02 解放区 / Liberation Zone
03 Dororo
04 エンパシー
05 ダイアローグ
06 De Arriba
07 フラワーズ
08 星の夜、ひかりの街 (feat. Rachel & OMSB)
09 触れたい 確かめたい (feat. 塩塚モエカ)
10 雨音
11 Gimme Hope
12 C’mon
13 再見
14 Be Alright
〈Blu-ray〉 ※初回盤のみ
2021年11月にBillboard Live TOKYOで開催されたライヴ〈ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 “Quarter-Century” at Billboard Live TOKYO〉の模様を全曲収録 ※メンバーによるオーディオコメンタリー付き