大切なものがあるから自分が自分であることを維持できる。それを守らなきゃいけないって最近あらためて思いました
新しい生活様式とか、変わることを求められる場面が多い中で、自分の変わらない部分に気づけたことはとても大きな指針になったんじゃないですか。
「そうですね。だから今回は自分の好きなことをなんでもしちゃおう!って思えたんです。自分が影響受けてきた海外のロックバンドみたいなサウンドだと日本語には合わないと思って、今までは出すのを抑えてたんですけど、今回はそういうのも気にしなくていいかなって。何も怖くなくなって、素直になりました。日本語に寄り添ったサウンドにするんじゃなくて、自分がやりたいことを素直に混ぜちゃおうと」
「地獄」はまさにそういう曲ですよね。テンポは早めなのに、歌メロはゆったりしている。その違和感が気持ちよくて。
「自分で聴いた時も超カッコいい~って思いました(笑)。こんなに自信持ってカッコいいと思えたのは初めてかもしれないです。今までも素直に作ってはいたんですけど、どこかで人にどう思われるんだろうとか、考えながら作ってたんですよね。自分のやりたいことをやって受け入れられなかったらイヤだし、それが怖くて素直に作ることできなかった。でも音楽をはじめた高校生の頃から私は変わってないし、それを聴いてくれる人がいる。リーガルリリーの音楽は確立してるんだって思えたら自信が湧いてきて。人の目を気にしたり、これカッコ悪いかなとか考えずに、初めて好きなようにやった気がします」
このEPを聴いて、歌がすごく強くなったなと思ったんですけど、それも今話してくれたことと関係していますか?
「うん、かなりしています。電車の中で喋る時、気を遣って声を小さくするじゃないですか。ああいう感じで、これまでは唄う時にすごく気を遣ってんたです」
レコーディングの時に?
「はい。CDとして残るし、誰がどこで聴いても邪魔じゃないように、けっこう唄い方や声量を控えめにしてたんです。自分でもそんな気を遣うなんて変だとは思うんですけど、高校2年生ぐらいの時からやっていたから、無意識にそうなっちゃってたんですよね。今回の作品はどこで誰が聴くとか関係なしに、電車の中で普通に話しちゃおうみたいな感じで作りました(笑)。本当にライヴと一緒です。ライヴは誰にも気を遣わず暴れまわれる場所なんですけど、同じ感覚でレコーディングできましたね」
歌詞もとても素直ですよね。今まではどこかおとぎ話や現実逃避するようなところがあったけど、今回はすごくリアリティがあって、言葉もわかりやすい。
「今までパッと浮かんだものや見たものをそのまま書くことに抵抗があったんです。直接的すぎると恥ずかしいから言葉を装飾してたんですけど、どんなにダサいこと、女々しい歌詞でもメロディに乗せるとなんかカッコよくなるんだって今さら気づいて(笑)。何がいい悪いとかじゃなくて、気持ちいいものが正義なんだって」
「東京」っていうタイトルを聞いて、めちゃくちゃ構えたんですよ。
「いやぁ、すみません」
いやいや(笑)。リーガルリリーが描く東京ってどんなものだろうと思って聴いたら、〈ホタルイカの素干し〉って歌詞が飛び込んできて(笑)。
「ふふふ。解放されたんですかね? 脳みそが柔軟になった気がします。こういう歌詞を真顔で言ったりするのもカッコいいなと思えた。最近、真面目に面白いことを言ったりするのが好きなんです。そういうのを素直に面白いって感じられるようになってきて、うれしいんです」
そもそも、どうして「東京」という曲を作ろうと思ったんです?
「曲が全部できてから最後にタイトルをつけたんですけど。きのこ帝国の〈東京〉がすごく好きで、自分では〈東京〉って曲は絶対作んないだろうなとは思ってたんです。普通、好きな曲と同じ題名の曲は作らないじゃないですか。しかも、〈東京〉って曲は名曲になるみたいなことを知って、ますます作らないと思ってたんですけど、この曲を全部作り終えた時にすごいエネルギーを感じて。それで〈東京〉ってタイトルにしました」
どういうエネルギーでしょう。
「うーん、〈地獄〉を作った頃、すごく暗い考えがループしてた時期で。そのタイミングで友達と生田緑地に行ったんです。そこは東京を一望できる場所なんですけど、夜景の光が燃えてるように見えて、すごいエネルギーを感じたんですよね。近づけばゴミが落ちてたりするような街でも、遠くから見たらこんなに美しい景色が広がっている。こんなにも暗闇を光り輝かせている。それがすごく美しいなと思って」
それで〈山の頂から見下ろすイルミネーション〉と。本当に見た景色がそのまま歌詞になってるんですね。
「はい。けっこう都会嫌いなんです。都会にいると自分が小さく見えたりするんですけど、生田緑地の緑がいっぱいある中で東京の夜景を見下ろしたら、こんなに大自然が周りにあるなら大丈夫だって、なんか自信を持てて。それに、ゲームみたいだなと思ったんです。ビルを建てて、電飾を飾って、電車を走らせて、そこに人が集まってくる。東京っていう街にみんなでエネルギーを集めるゲームをしているような。自分もそのイルミネーションの一員なんだって思ったら、うれしかったんです」
自分はちっぽけじゃない、ちゃんとここで生きているし、居場所があると思えたと。
「はい。そしたら暗い考えのループからも抜け出せて」
でも前半は美しい景色やゲームとしてこの街を眺めている感じがあるけど、後半は雰囲気が変わりますよね。ギターのノイズが強くなって少し不穏さが出てくる。
「前半は山の上から見たきれいな景色で、後半はそこからズームした感じですね」
さっき言っていた、近づいたらゴミが見える、みたいな?
「はい。でもどんな世界であれ〈何にも問題ない〉っていうのをみんなにもわかってほしいと思って。正しいものなんて何もないと思うんです。間違いないことって、生まれたら死ぬっていうことだけなんですよね。生きていたら悩みとかがあると思うけれど、正解はないんだから自分を信じるしかない。〈何にも問題ない〉って唄うことで、みんなにそう伝えたかったんです」
だから最後に〈闇に撃ち放つ 僕の照明弾〉という言葉で締めくくっているんですね。いろんな人がいて、いろんな考えがあるけど、自分を信じて自分の道を照らしていくというか。
「自分が壊れにくくするためには、自分が自分でいられるものを何個持っているかが大事だと思うんです。大切なものがあるから自分が自分であることを維持できる。私にとってはそれが音楽だったり、家族やバンドメンバーなんです。そういう人たちがいるから、自分らしくいられるし、それを守らなきゃいけないとも最近あらためて思いました」
この曲に溢れるエネルギーは、そういう覚悟のようなものですよね。「東京」というタイトルだけど、街の歌ではなくて生き方が描かれている。この曲を聴いて、自分の大切なものを振り返ったり、自分のままでいいんだなって思う人、たくさんいると思います。
「そう思ってくれたらいいですね。そのままでいいんだって。無理に変わらなくても、ただ柔軟なだけでいい。重力に従うというか、川が流れるような感じ。言葉とかも自然体でいればいいんだなと思いました。私はこの曲を作れたことで自分に自信をつけられたのが一番大きくて。この感覚を信じていけば、ここから先は何も怖がらないで、いろんなことができると思うんです」
文=竹内陽香
写真=池野詩織
NEW EP「the World」
2021.04.07 RELEASE
■初回生産限定盤(CD+DVD)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回生産限定盤、通常盤共通
01 東京
02 地獄
03 天国
04 天使と悪魔 (SEKAI NO OWARI cover)
〈DVD〉※初回生産限定盤のみ
「1997の日」〜私は私の世界の実験台〜
2020.12.10 Live at Zepp Tokyo
01 ベッドタウン
02 GOLD TRAIN
03 the tokyo tower
04 トランジスタラジオ
05 林檎の花束
06 リッケンバッカー
07 1997
08 スターノイズ
09 はしるこども
10 Back Stage Movie
「the World」リリース記念の全国ツアー「the World Tour」ファイナルEX THEATER ROPPONGI公演のソールドアウトを受けて、東京限定で追加公演の開催が決定!
“東京”-リーガルリリー「the World Tour」追加公演&「海の日」3rd Anniversary-
日程 2021年7月5日(月)
会場 恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演 18:00/19:00
チケット代 ¥4,500-(D別/スタンディング予定)
リーガルリリー オフィシャルサイト https://www.office-augusta.com/regallily/