ほんとに僕は、知るよしもないのだろうか。
僕はなにかから
逃げ続けることを、ほんとに知らないんだろうか。
なにかに、誰かの目に、怯えてはいないんだろうか。
自分ではない自分をもっていないだなんて、本当に言い切れるかな。
(2012年06月05日 峯田和伸の★がぶがぶDIEアリー)
アルバム『ねえみんな大好きだよ』は、自分ではない自分をはっきり認識し、ロックの身体性に寄り添い、リアルよりリアリティを求めた結果として存在するアルバムである。
銀杏BOYZの音楽は、峯田の肉体性と切り離すことが難しい。童貞喪失したことを話したり、時には携帯のメールアドレスをライヴ中に晒すなどして、その楽曲も、発言も、立ちふるまいも、すべてが彼自身だった。峯田和伸の音楽にはずっとそれがついてまわる。あえて言うなら、それは峯田の〈夢〉みたいなものだった。それを見続けられればよかった。
しかし醒めない夢などない。
それが顕になったのが、2013年のオリジナル・メンバーの脱退だった。ここで峯田ははっきりと、現実と対峙することになる。
オリジナル・メンバーによる最後のアルバム『光のなかに立っていてね』から約6年半。この『ねえみんな大好きだよ』は、新体制による初めてのアルバムである。インタビューで語っているように、メンバーが「ああ、あれね」と言わずともわかる空気はもうない。どういう音が鳴らしたいか、どういう気持ちでいる曲なのか、それを一つ一つ説明しなくてはならない。ただそのリクエストに対して、音楽的に120%の内容で応えることのできるメンバーが揃っている。それはきっと、彼がミュージシャンとしてずっと求めていた形だ。でもそこには、なぜか喪失感がついてまわる。
そこで気づくのだ。自分ではない自分、がそこに居ることに。
もともと銀杏BOYZは、彼が理想とする世界を、そこに存分に展開できる場所だった。メンバーも、そして時にはファンや関係者すら、その夢に巻き込んで、大きなものにしていった。というか彼自身は、そんな大きくしたいという気持ちもなかっただろう。おそらくあの時のメンバーと、同じ夢を見ることができていればよかった。しかし同時に、大きくなっていった夢、そしてその期待に応えようとする気持ちは、バンドをこれまでどおりにはさせてくれなかった。自分ではない自分、がそこに居た。
冒頭に引用した2012年6月5日のブログは、元オウム真理教信者の菊地直子容疑者が、17年の逃亡の末に逮捕されたことについての一文だ。峯田は今回のアルバムについて、ウェブに「覚書」として解説文を寄せているが、その冒頭〈出発点〉という文の中でもこのことに触れている。東日本大震災、そしておそらくはメンバーとの関係がぎくしゃくし始めたこの時期、17年も逃亡した彼女はどこかで見つけてほしかったんじゃないか、とも記している。宗教から抜け出すことのできなくなった彼女の姿を、きっと、自分に置き換えたのだろう。
しかし彼を見つけて、自分のままでいいよ、と言ってくれる人は誰もいない。誰もが〈銀杏BOYZの峯田〉しか見ていない。もうバンド結成前の、内気でこもりがちだった彼を知らない。ただ、ロックだけは違った。ラモーンズもブルーハーツもオアシスも、君はそれでいいんだ、と優しく抱きしめてくれる。ロックが大好きで、この原稿まで読んでいるような君ならわかるだろう。自分の記憶から絶対に剥がれ落ちない、あの曲を聴いた時に思い出す、14歳のあの時の気持ちだ。
アルバム『ねえみんな大好きだよ』。恋も愛も、生も死もすべて、その言葉に内包されるようなタイトル。そして峯田はきっと、これからもずっと音楽に向き合っていくことにしたのだろう。破滅や絶望で終わりじゃない。ヒリついた表現は変わらないまま、あの頃に引き戻すロックの肉体性で、自分を見つけようとする旅だ。そしてそこに唄われているのはきっと、あの時の僕たち自身だ。
こんな時代。夢だけなど見ていられない。このアルバムは現実を生きている。
文=金光裕史
写真=柏田テツヲ_KiKi inc.
NEW ALBUM『ねえみんな大好きだよ』
2020.10.21 RELEASE
■初回盤(三方背スリーブ、36ページブックレット)
■通常盤(36ページブックレット ※初回盤出荷終了次第、通常盤に切り替わります)
01 DO YOU LIKE ME
02 SKOOL PILL
03 大人全滅
04 アーメン・ザーメン・メリーチェイン
05 骨
06 エンジェルベイビー
07 恋は永遠 feat.YUKI
08 いちごの唄 long long cake mix
09 生きたい
10 GOD SAVE THE わーるど
11 アレックス
『ねぇみんな大好きだよ』特設サイト https://gingnangboyz.com/newalbum/
銀杏BOYZ オフィシャルサイト https://gingnangboyz.com/