たぶん、世渡りはヘタなんだと思う。要領や器用さなんて持ち合わせてないし、飾ったり良く見せたりするのも苦手。そんな純粋さこそが歌に途方もない輝きを与え、音楽に奇跡の瞬間をもたらしている。そしてその純度が誰に対しても譲れない何かを内面に宿らせ、起死回生の革命への野望を燃やす原因になっているのだ。ただ、ひとたび現実の厳しさに直面すると、まっすぐで繊細な性格から生まれる不安感でドツボにハマる。長い間、そんな生き方をしてきたんじゃないだろうか。
以上が今回、ズーカラデルの吉田崇展(ギター&ヴォーカル)と初めて話した印象である。北海道で苦闘を続け、30歳で上京し、勇敢に踏み出そうとしている彼らの新作は『がらんどう』。磨き上げられたバンドサウンドは見事で、歌の世界は曇りも何もないほどまっさらだ。先のことなんてわからない。だからこそ今、このバンドは夜明けの歌を心から鳴らすのである。その未来に幸運が待っていますように……!
(これは『音楽と人』10月号に掲載された記事です)
今回メジャーデビューになるわけですけど――。
「あのー……そうですね。その……『メジャーデビューという言い方はしないでおこう』っていう話をしていて」
あ、そうなんですか?
「はい。というのも〈とっくにデビューしてる感覚だけどな〉というところがありまして。今までスペシャと一緒にやってきたこともそうだし、その前に自主では自分たちで発注をかけてCDを作ってましたし。その前にも手焼きのCD-Rを地元で作った時期もありました。なので、『メジャーリリースという表現をさせてください』とお願いして」
なるほど。あなた方の意志なんですね。
「そうです。とはいえ、〈うまくやっていければ俺はメジャー向きだろうな〉と思っていて。ライヴハウスで大きな支持を集めるより、広く聴いてもらえるように……〈いい曲を作って、それをいい形で伝えてくれる、仲介してくれる人がいたほうが僕の作る曲は生かされるだろう〉という気は昔からあったので」
ということは「俺は絶対いい曲書くから、たくさんの人に聴かれないのはおかしい」ぐらいの気概はあったんですか。
「それは、そうですね。とくに当時は売れてる曲が好きで。いわゆる日本のメインストリームとして聴かれる音楽の中でも強い音楽が好きだったし」
強い音楽? それはどういう意味ですか?
「……ちゃんと作られている音楽です……(笑)」
いや、えーと、もうちょっと具体的にお願いします。
「……バンドで言うと、BUMP OF CHICKENとか銀杏BOYZとかくるりが好きで。星野源さん、椎名林檎さん、奥田民生さん、エレファントカシマシとか。音楽のための音楽だけど、マスに向かっていく力がある曲にグッとくる部分があって。あと、言わないでおいたんですけど……スピッツも」
言っていいじゃないですか(笑)。事務所の大先輩ですね。
「(笑)……そういう音楽が僕は好きで。で、〈俺は自分が作った曲も好きなんだから、ということは、それをみんな好きになりうるはずだよね〉というのは思っていました」
わかりました(笑)。で、このアルバムですけど、たとえば「夢が覚めたら」には、これから違う段階に行こうとしている自分について描写をしているように感じたんです。
「この曲は、引っ越しの直前に北海道でラジオを1クールだけやらせてもらって、その時に作った曲なんです。メールのメッセージを紹介するのも面白かったし、ラジオ局の人にもすごくお世話になったので。そういう気持ちが入っていますね」
あ、では札幌をあとにするセンチな気持ちや不安感も?
「もちろんセンチな気持ちも不安感もあったと思います。でも、こういう表現になったのは、ひとえに性格の暗さかなと思ったりもします」
そうですか(笑)。あと、「ころがる」や「夜明けのうた」での〈夜〉や〈夜明け〉という表現がとくに印象深いです。
「そもそも夜が明けるっていう現象が好きで。何かネガティヴだったものがゼロになる瞬間とか、ゼロだったものが1になる瞬間とか、そういう気づきみたいなものがある音楽にグッとくるんですね。ただ、今回に関して言うと、全曲にわたって〈夜〉みたいな表現が出てくるので、やっちゃったなぁと」
(笑)その一貫性はありますね。では「夜明けのうた」の〈世界を変えてみたい あいつがそうしたみたいに〉という一節には、どんな気持ちが込められてるんですか?
「べつに何か具体的な対象物があるわけではないです。〈世界を変えてみたい あいつがそうしたみたいに/泣いてるあの子のこと笑わせてしまうような〉……この言葉以上でも以下でもない、っていう感覚があるんですけど」
そうですか。あえて野暮な質問しますけど、吉田さん自身は、できればこの世界を変えたいと思っていますか。
「そうですね……それは、そうです。はい」
どんなふうに変えられたらいいなと思います?
「……あのー……これ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの〈転がる岩、君に朝が降る〉という曲を受けてるみたいな歌詞だと思うんですけど」
ああ、はい。僕もその歌が頭を過りました。
「はい、実はこの歌詞って、学生時代、アジカンのリリースより前に作った曲が元になってるんです。その時〈すごくうまく言えた曲だな、でもこれで出せなくなっちゃったじゃん〉とずっと思ってたんですけど。でも〈もういいかな、今あらためてこれを言いたいしな〉と思って、歌にした次第です」
つまり10年も前、現実に対して自分の思うようにいかないことがあったから、そう思っていたわけですよね。
「うん……そういうことはもちろんあったとは思います。けど、ことさらにそれを言い立てることでもないかなと思っていて。ただ、〈何か足りないな〉と思う気持ちももちろん持ってたし。そう思った時にこういう歌詞が思い浮かんだんだろうし……」
今、当時の自分を振り返って、どう思いますか。
「うーん…………ダメだなぁと思います……(苦笑)」
どんなふうにですか。
「……普通に良くない奴だったんで。学校に行かないみたいな、〈親に迷惑をかけるんじゃない〉みたいなことは思います」
学校に行かなかったんですね。
「小樽の大学だったんですけど、なかなか行けなかったですね。これだという理由があるわけでもないんですけど。大学生ってそういうもんかなと思うし」