スリーピースのロックバンド。誰も欠けちゃいけない緊張感が鳴らすビート。衝動が胸を叩き、ヒリヒリした激情に心が騒ぎ出す曲。バンドのカッコよさを凝縮したスタイル。my funny hitchhikerはそんなバンドなのだが、このバンドを率いているのが近藤智洋。15年前に解散したPEALOUTのフロントマンだ。今年54歳となる彼が、なぜ今またこのような新バンドを始めたのか。その衝動はなぜPEALOUTではできないのか。そこにはロックバンドを諦めきれない、そして裏切れない、ひとりの男の浪漫があった。
素晴らしいファースト・アルバムでした。ロックバンドが持つ衝動をビシバシ感じました。
「よかった、ありがとうございます」
54歳が鳴らす音じゃないですよ(笑)。
「ははははは。よく言われます。もともとPEALOUTというバンドをやっていましたけど、解散して以降は、フォーキーでポップなソロが中心だったじゃないですか。その反動でいくつかバンドをやってたけど、GHEEEはメンバーそれぞれの活動があるから頻繁に活動できないし、The Everything Breaksは解散して、ここ最近はソロが中心になってたんだけど、バンドやりたい気持ちがムクムクと湧いてきて」
それはわかるんですが、なぜこの形に?
「今までにやってないことをやろうと思ったんですよ。PEALOUTではベース&ピアノ・ヴォーカル、GHEEEだとサイドギター。The Everything Breaksではピンヴォーカル。残されたのはスリーピースでギターヴォーカルじゃないかな、って(笑)」
一度やってみたかった、と(笑)。
「そうそう。ただ問題だったのは、俺、コードは弾けるけどギターソロは弾けないってことで(笑)」
はははははは。
「で、メンバーどうしようか考えたんですけど、The Everything Breaksのベースだった恩賀周平は、解散して以降もずっと連絡くれてて。また一緒にやってみたいと思い、ドラムの宮下裕報とはずっとやりたいと思ってたので。その2人が揃ってから、ギターソロを懸命に練習し始めました(笑)」
やってないことをやっておこうっていうのは、やり残さないようにしたい気持ちですか?
「そうですね。もう54になったんですけど……50過ぎてからかな。身体は元気なんだけど、ギターとは違って、この先、自分の喉も衰えてくるだろうと思うこともあって」
歳相応になってきますよね。
「たぶん今の声が出るのは、ここ2、3年くらいだと思うんですよ。歳相応な声が似合う唄い方やスタイルはあるだろうけど、激しいバンドでシャウトするなら、自分がいいと思える声で残しておきたかったので」
やってみてどんな気持ちですか。
「3人でやってる感じがすごくいいんですよね。どんなミュージシャンでもリスナーでも、最初にやったとか観たバンドに、思い入れ強いじゃないですか。20代や30代でメインでやってたバンド……僕にとってはPEALOUTがそうですけど、メンバーがみんな、人生をすべてバンドに懸けてやってる。それが40過ぎると、みんな、バンド以外のそれぞれの場所ができるんですよね」
ある意味大人になるっていうか。
「うん。だからもうできないと思ってたんですよ。でもこのバンドの2人とはそれができてるんですね。なんかあると3人で呑んでたり、うちに来てはしゃいだり。人間関係ができてるのが自分にとっては特別なことで。それができてるのが、単純に嬉しい」
その気持ちが音に出てますよね。バンドやろう!みたいな素直な気持ちに。
「やりたいことはPEALOUTの時と変わってないんですよ。僕、もともとルースターズが大好きじゃないですか? ああいう性急なスピード感で、バスドラがドッドッドッドッて鳴って、心臓がドキドキするギターバンドって、永遠の憧れがあるから、それを自分のギターでできたらいいなと思ったのが、最初のコンセプトでしたね」
なるほど。
「今、コロナで普通にライヴができない状況じゃないですか? ああ、2年前に始めといてよかったと思いましたよ。今思いついても何もできないし。ライヴもできない。ギリギリ間に合った感じです」
じゃあこうやって音を形にする前に、ライヴを繰り返しておきたかった?
「そう。阿吽の呼吸がバンドに生まれるまで、レコーディングはやめようと思ってたんです。だから去年はひたすらライヴしようと思って。リリースも物販も何もないけど、隔月で大阪、名古屋は行くことに決めて。そのうち北海道や東北も全部行くことにして」
予算的にはかなり厳しそうですね。
「そう(笑)。でもバンドは場数踏まないと形にならないから。40本はやったかな」
僕が高円寺でたまたま観たのが1年くらい前なんですけど、ほとんどMCもせず、ずっと曲続けてるのは、いろんな意味で試してるように感じました。
「あの頃は30分から40分のステージで、何曲かが1つのメドレーになってる感じでしたね(笑)。そういう性急な感じでこのバンドができるのかどうか、試したくて」