BLUE ENCOUNTのニューシングル「ユメミグサ」 は、住野よる原作の映画『青くて痛くて脆い』の主題歌で、スクリーンで聴くにふさわしい壮大かつ、切なさが滲むミドルバラード。来年4月に横浜アリーナも発表され、バンドの大事なタイミングを後押しするような広がりを予感させるが、それを狙ったり、無理に力を入れたりという印象はない。映画の内容に寄り添いながらも背伸びすることなく、後悔や痛みを負ってきた月日を振り返り、その日々にけじめをつけて次の季節を迎えようとしている。それは、周りを見れずに、自分の正義を貫き通してきた田邊駿一(ヴォーカル&ギター)の変化の表れだ。自分やバンドのことだけでなく、いろんな人の存在を確かめながら、そこに寄り添ったり信じたり、時に意見を投げかけながら、信頼できる仲間を集めるために今の田邊は音楽を鳴らしている。そうやって純粋に信じ合えた先に、彼らの新しい季節が待っているのだ。
(これは『音楽と人』9月号に掲載された記事です)
ここ数ヵ月はどんな生活を過ごしてました?
「最初は5月からツアーが始まる予定だったので、セットリスト詰めたり、演出プラン考えたり、けっこうやることが山積みだったんですよね」
春先はこの先がどうなるかわからなかったですもんね。
「そうそう。世の中の様子を見ながら今後の話し合いをしてて。〈ハミングバード〉の発売前後だったので、ラジオ出演とか歌番組とかも決まってたんですけど、だんだんテレビの収録ができなくなりだして、気づいたらスケジュール帳にあった仕事が全部キャンセルになり。つねに何かやってる小忙しいバンドだったんで、こんだけスケジュール空いちゃうと逆に何していいかわかんないんですよ」
そうですよね。
「でも面白かったのが、キュウソのセイヤ(ヤマサキセイヤ/キュウソネコカミ、ヴォーカル)と話してて、彼らもわりと細かく動き回って小忙しくしてるじゃないですか。で、『この状況何すればいいんだろうね』って言ったら、『呑んだらええねん!』って言われて(笑)」
はははは。最高ですね。
「でしょ(笑)。それで僕もどうせだから今までできなかったことを思いっきりやったろ!みたいな感じで、お酒呑んだり、料理したり、ゲームしたり、映画観漁ったりしてましたよ」
焦りや不安はなかったですか?
「なかったですね。打ち合わせするたびに『このライヴ延期です』『中止です』みたいな感じで、残念だなっていうのはありましたけど、できないならしょうがない、やれることがあるなら全力でやる、みたいな。もう0か100だったから、中間のモヤモヤはあんまりなかった気がします」
そうやって割り切れていたと。
「もちろん5月からのツアーを楽しみにしてくれてたファンのみんなを考えると残念な気持ちはあるけど、それを上回るワクワクを作って提示しないといけないって思ったし。僕らは幸いにも〈ハミングバード〉のMV公開したり、〈あなたへ〉っていう新曲をリリースしたり、絶えずバンドとして発信できていたので、それで落ち込まずに済んだっていうのもありますね。これが、しばらく制作期間に入ります、っていう時期だったら、くらってたかもしんない」
1人で悶々と考えてしまったり。
「そうですね。でもそうならずに、建設的で穏やかな自粛期間を過ごせたから、曲作りも自然とできたし。〈曲作らなきゃ!〉って焦ってやるんじゃなくて、いろいろやってる合間に、ちょっとギター触ってみようかなって感じだったから、メロディや言葉がすごく気持ちよく出てきて」
そっか。田邊さんのことだから、バンドの動きが止まることに不安を感じて焦ってるんじゃないかと思ってたんですけど。
「最初の頃は少しあったんですよ。これをやっとくべきだ、あれをやらなきゃ、って意見出して、〈よっしゃやりましょう!〉って決めるけど、やっぱりできませんってなることが多くて。だったら、やることはもちろんやるし、考えることは考えておくけど、無理に動こうとするんじゃなくて、やりましょうって時にちゃんと動けるように、しっかり自分をパンプアップしておこうって考えになったんです。そのためにも今は息抜きを大事にしつつ、情報はちゃんと仕入れて、なんでみんなはこういうふうに思ってるんだろう、なんでこういう意見が出てくるんだろうとか気にするようにしてましたね」
その動き出しの一歩として、先日の無観客ライヴがありましたけど、やってみてどうでした?
「むっちゃよかったと思います。久々にブルエンらしいライヴができたというか。ただ、やっぱりレスポンスがないのは不安でしたね。正直これが通例化するのは嫌だなって思ったし。だからこそ、ただライヴやって終わらないように、セットリストもすごく考えて、未来を見せるっていうよりも、今もがいてることを知ってほしかったから、そういうライヴを心がけてやってましたね」
MCでライヴハウスに対する思いを話していたじゃないですか。ライヴハウスを知らない人たちが悪者扱いしてるけど、自分もその人たちのことを知らない。だから最高の場所だと知ってもらえる機会になれば、って。
「そうですね」
その言葉どおりポジティヴなライヴだったし、これまでなら攻撃してくる人たちを見返してやるって言ってたんじゃないかと思うんですよ。
「たしかに、バカヤロー! ふざけんな! ナメんな!みたいなね(笑)。でも思ったんですよ、人間が人間を傷つけるって、意図があるから、でしかないんですよね。ロボットのように何も考えないで傷つける人は絶対にいないと思うんですよ。SNSでむちゃくちゃ言ってる人たちも、自分のストレス発散が目的かもしれないけど、じゃあストレスが溜まる何かがその人たちにもあるわけじゃないですか」
そうですね。
「その人が本当に幸せだったら絶対やらないだろうし、現実世界で何かがあって、誰かを攻撃しないといけないような人格になってしまうんだと思うんですよね。別にその人たちを擁護するつもりはまったくないけど、でも理由はあるんだろうなって。だとすると、そういう人たちを悪く言うのは、やっぱり建設的じゃないというか、僕らが不平不満を世の中に垂らしたら、悪循環になるだけじゃないですか」
攻撃する側もされる側も同じ人間ですからね。それを想像することが大事で。
「そう。相手もロボットじゃないし、僕らも、人間が人間を喜ばせるために作ってるのがエンターテイメントであって、ロボットじゃ作れないものをやってるわけですよ。それをライヴハウスは危ないからとりあえず自粛してくださいって押さえつけて……ライヴハウスが危ないんじゃなくて、一人の人間の気の緩みが危ないんですよ、結局。だけどそう考えずに、大きいところにとりあえず噛みつきにいく。僕ね、反対派と肯定派で普通に話し合いすればいいと思うんですよ。こういう状況があります、どうしたらいいと思います?みたいな」
もっと意見を交わし合うべきというか。
「でも押さえつけるようにこうしろって言われて、ライヴハウスやバンド肯定派がうるせえってなってる。一緒に話し合って解決しようっていうのができないんですよね」
みんな怖いんでしょうね。真実を知ることが。
「自分が言ったことが間違いだった時もね。だからネットで言いたいことだけ言うし、知らないものに対して攻撃的になるし」
だから田邊さんが、相手のことも思いながら、でも自分たちはこういう姿勢でライヴやってるのを知ってほしい、って見せていたのがよかったなと思ったんですよ。
「ありがとうございます。頭ごなしに否定したり、噛みついたりするんじゃなくて、いろんな人とスクラム組んで、バンドマン頑張ってるよ、ライヴハウスシーン頑張ってるよ、こんなにいい場所なんだよっていうのを見せられたんじゃないかなって思ってます」