いつもどこかでスキマスイッチを背負ってる自分がいて、たまにそういう自分がイヤになる。だからワガママに書いた
シンタくんはこの曲を渡されて、どう思ったんだろう?
「シンタくんはしきりに『タクヤの気持ちを大事にしたい』って言ってました。本当はシンタくんも自分なりに変えたいところがいっぱいあったはずで。〈もっとこうしたい〉とか。でもそういうことはせず、ただプロデューサー的な視点でアドバイスをしてくれました」
なるほど……あの、最初にこれ聴いた時に〈どういう意図でこれを書いたんだろう?〉って思ったんです。
「わかりますよ」
例えば震災があった直後の「奏(かなで)」でも同じことを思ったんだけど、それこそ心が傷ついた人に絆創膏を貼ろうとしているのか――。
「〈奏(かなで)〉は絆創膏でしたね。『音楽が何かの力になれば』っていう。でも正直に言うと、あの時も僕は唄う気になれなくて」
今回と一緒だ。
「当時レコーディング中に地震があって、そのタイミングで動画をアップしようって話になったんですけど、僕は唄う気になれなかったんです。でもシンタくんだったりスタッフは『僕らにできることがあるんだから』って。で、僕はその提案を受けて唄ったっていう」
周りがそう言わなかったら唄うどころじゃなかったと。
「だってそれどころじゃないでしょ? でも僕以外のみんなは、今できることをとにかくやろうって作業してて、そんなみんなのことを見てるうちにだんだん腹が立ってきて。どうしてこんな大変なことが起こってるのに、何事もなかったみたいに作業ができるんだろう?って」
自分を落ち着かせるために無理して作業してたんじゃない?
「そうかもしれない。でも僕はダメだったし、唄う気になれなかった。それでもみんなが『できることをやろう』って言って、それで唄うことにしたんです。〈これで元気になってください〉って。でも今回の〈あけたら〉は絆創膏じゃないんです。さっきも言ったように自分のために書いた」
「奏(かなで)」の時は人のために唄ったけど、今回は自分のために書いた。その違いは何だと思う?
「さっきも言いましたけど、歳を重ねてきたからだと思います。アーティストとしての僕の人生はもう折り返し地点を過ぎたと思ってて。やっぱり自分の衰えみたいなのを感じ始めてるんですね。昔だったら平気だったのに今は息継ぎしないと唄えないところとか、そういうのがどんどん出てきて」
そうなりますね。
「で、僕ってこの仕事がすごい好きなんですよ。それを最近改めて思うんです。それこそ次に生まれ変わってもミュージシャンになりたいなって思うぐらい。だけどたぶん次はなれないんですよ。こんなに好きなことが今やれてるのはたまたまラッキーだったからで。こんな幸運は二度とないと思うから」
運に恵まれたと思ってる。
「生まれ変わっても音楽は好きかもしれないけど、たぶんデビューもできないと思うし、こんなにたくさんの人に自分の歌を聴いてもらえることってないだろうし。で、そんな運のいい人生がもう半分終わってるんだって。だったら残りの人生で、やれることとか残せるものと向き合うべきだと思って。死ぬまでにやっておかないといけないことが、すごくたくさんあるなって」
だったら「気が乗らない」とか言ってる場合じゃないと。
「それでも唄うべきだと。だから自分のために書いた曲です、これは。エゴでしかない」
そう、この曲はエゴだと思います。で、それをわかった上で〈あけたら〉って唄ってるのか、そうでないかっていうのは、これを受け取る側としては大きな違いだと思います。
「もちろんそこも考えましたよ。これを聴いてイヤな気持ちになる人だっているんじゃないかとか。嘘くさい、偽善じゃないかって思う人がいるんじゃないかって。だけど、そういうのを気にするのはやめて書きました」
それでいいと思います。だからいいんですよ、スキマスイッチは。
「そうなの?」
とってつけたような歌は唄えないってことだから。「音楽で元気になってほしい」っていうのもエゴだし、自分のために書くのもエゴで。
「そうですね」
それを自覚した上で唄ってるってことは、それだけ自分以外の誰かを思う気持ちが強いってことだから。
「そうなのかな。あの……これを書いてすごくビックリしたことがあって。聴いた人がどう思うかなんて気にしないで書いたら……自分が楽になったんですよ、少しだけ」
それでいいじゃん。
「それでいいのかどうなのか、今の僕にはわからない。でもこれを書いて〈あ、自粛中に何もする気がしなかった自分の言いたいことだったんじゃないか?〉って。たぶん吐き出したかったんだけど、ずっと自分で口を塞いでる感覚があったから。だからエゴだなって思った。自分が楽になりたくて書いたんだから」
それでいいんですよ。〈自分が楽になりたくて書きました〉って気持ちを音楽に吐き出すことで、それを聴いた人が同じように吐き出せるかもしれないし。
「うん……。でも本当に自分のことだけしか考えなかったから。自分がいくつまで音楽できるかわかんないし、こんな曲を書こうと思っても書けなくなってるかもしれない。だったらこれを聴いた人がどう思うかなんて、もう気にしなくていいやって」
それだけ大橋くんはスキマスイッチを背負ってきたってことですよ。
「みんなのために音楽をやるのが義務じゃないけど、どこかでスキマスイッチを背負ってる自分がいて。で、たまにそういう自分がイヤになるんです。だからすごい勝手だし、ワガママに書いたんだけど、そんな曲にシンタくんはよく付き合ってくれたなって思います」
文=樋口靖幸