野良猫だったアイツが、最後はちゃんと腕の中で死ねて良かった。天国で楽しくしてくれたらいいなってこれを書いた
でもそれだけ今のキミは曲作りに対してモチベーションが高いってことなんだろうけど、そうなってるのはなぜなんでしょうか。
「わりと単純なことなんですけど、俺、今回から曲をマニピュレーターの人と一緒に作ってるんですよ。どういうことかっていうと、今まではデモ持ってくのに、俺、なんも楽器できないから、鼻歌だけで持ってってたんですけど、みんなのデモのクオリティがどんどん上がってきてるからちょっと恥ずかしくなって。で、外部のマニピュレーターの人にメロディ持ってって、その人にオケを作ってもらって」
今まではそれをメンバーがやってたんでしょ? なんでわざわざ外部の人に?
「俺、メンバーだとすごい遠慮しちゃうんですよ」
遠慮する仲じゃないでしょ。
「俺、理論も何もわかんないから、無茶なこと言ってるんじゃないかって思っちゃうんですよ。俺が『こうしてほしい』って言ったことでメンバーに無茶させるのは悪いなって気持ちになる。だから思ってたのと違っても『それでいいよ』って感じで済ませちゃうことがあって。コードとか弾いてもらっても『それとは違う』とか言いづらいじゃないですか。でもマニピュレーターの場合は、ギャラ払ってちゃんと仕事としてやってくれる立場の人だから、『俺本当に理論も何もわかんないんで無茶な注文するかもしれないんで』って言って。で、リズムはこんな感じあんな感じ、コードはメロディから拾ってもらって。『もっと明るい感じがいいです、広がる感じがいいです。ここはこういうふうに』みたいな感じで、頭の中にボンヤリあるものがどんどん形になっていって。しかも『ここの展開ですけど、この部分とそこをくっつけてもらっていいですか?』とか無茶も言いやすいし。でもそのやり方が面白くて」
より自分のイメージを形にしやすいと。
「そう。で、そういうやり方を今回からやって、その中でできたのがこの〈約束〉で。あと、デモの段階でしっかりした仮歌詞をつけてスタジオに持ってくんですよ」
マジで!? あれだけ歌詞書くのに時間かかってた男が?
「いや、けっこう考える時間もあったんで。スタジオで作業して家帰って、次の日にまた作業があるまでの間とか、オケ聴きながら考えて。やっぱり仮でもいいから歌詞が乗ってたほうが、みんなも曲のイメージもわかりやすいじゃないですか。だから今回は自分の曲が採用されることが多くなったんだと思う」
なんかすごい進歩だな。
「しかも〈約束〉はもともとアニメの主題歌が決まる前に、書きたいことからバッて書いてたんですよ。そしたらたまたまその歌詞が、そのアニメの原作者の世界観とリンクするところがあって」
そうなんだ! 俺、てっきりこの曲はアニメの話があってから書いたんだと思ってた。
「違うんですよ。で、この曲が決まってじゃあ歌詞を本格的に詰めてこうっていう時も、特にアニメのことは意識しなかった。今の歌詞がいいって言ってくれてるんだから、この路線で書けばいいや、みたいな。実際アニメのことはタイトルしか知らなかったし」
そりゃ予想外だったな。じゃあこの歌詞はもともとどんな気持ちを書いたの?
「俺、猫飼ってるじゃないですか」
てとちゃんね。
「それと別にもう1匹飼ってて。野良猫を拾ってきたんですけど、それがちょうど歌詞書くぐらいの時に死んじゃって」
病気?
「白血病。野良猫に多いらしくて、ちゃんと調べてないから1回調べておこうと思ったら罹ってて。で、1年半から2年くらいしか生きられないと思うよって言われて、それでも元気だったんですけど、容態が急変して1週間ぐらいで死んじゃって。で、このことは歌詞に書いておこうって」
でもこの歌詞って。そういう悲しさとか辛さに浸った歌じゃないよね。
「うん。もちろん悲しいはすごく悲しいけど。でも最後までほんと頑張ってて。その日の俺、帰りが遅くて、俺が帰って10分くらいで死んじゃったんですよ。でも……俺が帰ってくるのを待っててくれたんじゃないかなって思って。すんげぇ苦しそうだったけど、やっぱそこに強さを感じたし、頑張ったなって。だから悲しいんだけど、なんか悲しいだけじゃないなって。もちろん悲しみはデカいけど、もともと野良猫だったアイツが、最後はちゃんと腕の中で死ねて良かったんじゃないかなって。1人で外で死ぬよりはよっぽどね。で、天国があったとしたら、そっちですごく自由に楽しくしてくれたらいいなってこれを書いた」
なんか大人になったね。
「そうすか?」
昔の逹瑯は、悲しいことは悲しい、辛いことは辛い、としか唄えなかったじゃない? それはそれで渾身の思いで唄うからリアルだったけど、この歌は悲しいけどそこに浸る歌ではないでしょ? むしろ愛することとか祈りとかを唄ってる。なんか今の話聞いてて、30過ぎると歌詞も変わるもんなのかなって思った(笑)。
「ははははは。確かに24の時だったらこうはならないかも」
むしろ悲しみを倍増させて歌詞書いてたかもしれないし。なんか、ちょっと会わないうちに妙にポジティヴな男になってるような気がするんですけど。
「このレバ刺し、美味いっすね」
照れるな! じゃあ今までの話をもう一回まとめると、今のムックの状況に対しての不安さとか恐れだとか焦りとかそういうのはないっていう。
「現状はないですね。さっき言ったみたいに、アルバムが出た時に自分らが思うような数字が出なかったとか、ツアーの動員がイマイチだったりしたら焦りが出てくるかもしれないけど。でも焦りを埋めるために作品を出すのも違うと思うし、そんなことやってたら自らバンドのグレードを下げていくようなもんだと思うから。カルピス薄めて飲んでも美味しくないでしょ?」
そっか。じゃあ……例えば毎年行ってた海外ツアーとかはどうなの? 今のところは予定なさそうだけど。
「これは俺個人の意見だけど、まず海外に関しては、日本の地方と一緒だと俺は思ってて」
どういうこと?
「待っててくれる人がいるから行くっていう感覚ですね。新潟に行くのも仙台に行くのもパリに行くのもフィンランドに行くのも、同じ。待っててくれる人がいるから行く。前みたいにバンドとして海外で新しい何かを得ようと思って行くんじゃなくて。たぶん俺ら、海外で受ける最大の刺激はもう受けたような気がする。それはムックの血肉になって、それをどうするかっていう段階に今はなってる。だから、今までとは海外に行くとしても意味合いが違うんですよ。日本とか海外とか別個のくくりじゃなくて、全部一緒、ワールドツアーとして行くべき。たぶんこれ、メンバー1人1人に聞くとまた違う答えが返ってくるかもしれないけど」
そっか。実は俺、ムックとこれだけ会わないのも滅多にないことだから、妙に不安になったりしてたんだよね。
「あはははは。どんだけ好きなんですか? 俺らのこと。とにかく俺は、上半期は種まきの時期だと思ってたんで、ムックは下半期。〈約束〉のリリースから、またガッと来るはずです。いろいろ楽しみな動きもポロポロあるんで」
大船に乗ったつもりでいろよ、と。
「だって、12、13年やってきてて、武道館でもやってるし、自分らを必要としてくれるファンもいっぱいいるし、そんな中で目立った動きが半年ないだけでビビってどうすんだ?っていう」
文=樋口靖幸
音楽と人2020年7月号増刊 『PHY Vol.16』
2020年6月10日(水)発売
表紙&巻頭特集 MUCC
薫(DIR EN GREY)、千秋(DEZERT)、OLDCODEX、キズ、BugLug、メリー
MUCC
NEW ALBUM
2020.06.10 RELEASE
01 惡 -JUSTICE-
02 CRACK
03 アメリア (惡 MIX)
04 神風 Over Drive
05 海月
06 Friday the 13th
07 COBALT
08 SANDMAN
09 目眩 feat.葉月(lynch.)
10 スーパーヒーロー
11 DEAD or ALIVE
12 自己嫌惡
13 アルファ
14 My WORLD (惡 MIX)
15 生と死と君 (惡 MIX)
16 スピカ
MUCC オフィシャルHP https://55-69.com/