柔らかに舞い降りる賛美歌かと思いきや、それは覚めるはずのなかった夢を突然終わらせる終焉宣言、次なる世界の始まりを告げる黙示録だった――。今このタイミングではまったく笑えない話だが、THE NOVEMBERSの8枚目『At The Beginning』は、まさにそういうアルバムになっている。えぐるようなドキュメントというよりは、あくまでエレガントに、どこか幽玄なSFタッチで、また実に冷静な眼差しを持って描かれる新世界。バンドが現状ギターを持たない曲作りに移行していることや、今回yukihiro(L’Arc〜en〜Ciel/ACID ANDROID)が、シーケンスサウンドデザイン/プログラミングで7曲ほど参加していることも要因だが、何より〈今〉を生きている彼らの意識がこの音を呼び寄せた、というべきだろう。小林祐介(ヴォーカル&ギター)へのインタビュー。飛び交う単語は壮大かもしれないが、それは机上の空論とはまったく違う、実感のこもった話なのだった。
(これは『音楽と人』2020年6月号に掲載された記事です)
今回はふたたびセルフマネジメントでのリリースです。
「そうですね。経緯から言うと契約してたレーベルが自然消滅、そのタイミングでセルフマネジメントに戻った、みたいな感じですね。ここからチーム編成が変わって仕切り直しというか」
そのことでバンドが止まったりすることもなく?
「や、もちろん契約のしがらみとかはあって、音源を作ってもリリースできるかどうかわからないとか、何をやっても気が重いような時期もあったんですけど。でも当時はストレス抱えつつ、すべて音楽が救いだった、っていうのが前作『ANGELS』の強烈な思い出で。俺たち音楽で乗り切ったな、みたいな自負がバンドにあるんですね」
確かにライヴでは進化を続けてた。小林くんがハンドマイクになったり。最初こそぎこちなかったと言ってたけど、去年11月11日のライヴでは、ダンスビートに乗って〈ラッセーラ!〉とステージを練り歩いていたりして。衝撃でした。
「あれは〈NEO TOKYO〉ってタイトルを付けたんですが、自分たちの〈TOKYO〉という曲と芸能山城組(『AKIRA』のテーマ曲「KANEDA」)のカヴァーをマッシュアップさせた曲で。あれで僕自身がライヴしながら解放されてた。ああいうパフォーマンス、あの日初めてできたんですよ。踊ってみたりウロウロしてみたり、ステージ上を全身で楽しめた。最初はハンドマイク自体に照れがあったのに、お客さんと音楽によって僕が解放されていく、みたいな感覚が初めてあって。それはすごく驚きでした。僕自身も放心しちゃった」
ここに来てバンドがこんなふうに激変していく様を目撃できるのは、すごく幸せなことだけど。そもそも小林くんはTHE NOVEMBERSを変えたかったんですか?
「メンバーそれぞれ思いはあると思うんだけど、僕は正直、変わりたかった。それも昔とは違って、ブランキー(・ジェット・シティ)の歌詞で言うと〈行くあてはないけどここには居たくない〉(「小さな恋のメロディ」)っていうのが昔の僕の変わりたい願望。でも今は、ここにいるまま良くなっていきたい。逃避したくないんですよ。今ここで自分が自分のまま良くなりたい。それを念頭に行動していくと、やっぱり眼差しや発言が自然と変わっていって、照れとか余計なものも捨てられて。そのあとにバンドが自然と変わっていった。そういうフェーズにようやく入っていけたんだと思います。今回、それがひとつ形になって」
確かに。前作と繋がってるけど、はっきりと断絶もある。もはやなんと形容していいのかわからない音ですし。
「ふふふ。ギターロックバンドとしてデビューして、ここに着地できたのは、すごくユニークでいいなと思ってますね。今の僕の曲の作り方がどんどんシーケンスに移行してるのもあるんですけど、この曲たち、自分でも不思議なくらい、未来からやってきた、みたいな感覚が強いんですよ」
あぁ、それはよくわかる。
「なんていうか、啓示のように未来からやってきて、〈どういう気持ちで生まれてきたんだい?〉って対話をしながら向き合っていくと自然と形になっていった感じ。だから、間違いなく作ったのは僕ではあるんだけど、これを言いたいから作ったんだ、っていうのがあんまりなくて。どちらかと言うとyukihiroさんやエンジニアの岩田さん、フォトグラファーの鳥居くん、イラストレーターのtobirdとか、みんなが関わってくれる中で概念自体が勝手に育っていって、書いた歌詞を自分が受け取って反芻してる感覚に近いですね」
ここにある歌たちは、明らかに、今までの価値観や常識、今までの世界が終わったあとの話をしてますよね。
「とも言えるし、SFみたいな。このアルバムって、最初『消失点』っていうタイトルで、曲順もフォーマットのデザインも全然違うものになる予定だったんですよ」
あ、そうなんだ。「消失点」っていうタイトルの曲もあるけど、これはまた別に存在してた?
「これは、もともと〈King〉が仮タイトルで。その歌詞の中に〈一本だけ補助線を引いて〉って出てくるんです。消失点って最低直線2本で表現できるもので、地平があって2本のパース線があって、そこで初めて消失点が決まるじゃないですか。でも線がひとつだったらただの線でしかなくて。それと一緒で、たった一本の線で世界の見え方が変わってしまうことの面白さ、あとは生きていく時の眼差しの持ち方だったり。そういうことを考えながらこの〈消失点〉が曲になった時に〈あぁ、このアルバムは『消失点』ってタイトルじゃない。なんかもっと別のモードな気がする〉って思ったんですよね」
面白い。それって概念的な話なのか、それとも暮らしの中の実感から導かれたものなのか。どちらに近いです?
「両方な気がしますね。たぶん、子供の影響も大きいんですね。ダイレクトに生活に繋がってるし、レコーディングの途中で子供をお風呂に入れに一回家に帰んなきゃいけないとか、そういう生活にフィットさせながら作っていったものだし」