赤い公園のニューアルバム『THE PARK』は、バンドとして屈強な柱があることがわかる一枚。2017年、佐藤千明(ヴォーカル)が脱退した直後にインタビューを行った時、津野はボロボロで傷ついていたが、今では赤い公園のことを「家族っぽい」とまで語る。そんな彼女にも驚いたが、それほどバンドの状態は良好ということだろうし、そう言えるようになるまでにいろんなことがあっただろう。ここでは、元アイドルネッサンスの石野理子を新ヴォーカルとして迎え、初のシングル「絶対零度」をリリースしたタイミングで久しぶりに行った津野米咲のソロインタビューを再掲載する。彼女にとって赤い公園がどんな存在になっているのかを感じとってもらいたい。また、現在発売中の音楽と人5月号では久々にメンバー全員でのインタビューを実施。ニューアルバム『THE PARK』についてはこちらも併せて読んでほしい!
(これは『音楽と人』2020年3月号に掲載された記事です)
シングル「絶対零度」がリリースされたタイミングで、ようやくバンドのリーダーである津野米咲(ギター)と話をする機会を得た。赤い公園は2017年にヴォーカル佐藤千明が脱退後、暫しの3人体制による活動を経て、アイドルネッサンスの元メンバーである石野理子が加入。昨年は新体制として初となる「消えない – EP」と今回のシングルを挟んだ上で、4月15日にはアルバム『THE PARK』を発表する。インタビューにある通りバンドは今とても良好な状態で、彼女は今のメンバーとの関係を「家族っぽい」とまで語っていた。ちなみに津野は音楽一家の末っ子として生まれたが、思春期ぐらいから家族の団欒的な記憶を持たずして現在に至っており、そんな彼女の口からバンドを語る上で〈家族〉というワードが出てくることに胸が締めつけられそうになった。赤い公園が彼女にとってどれだけかけがえのないものなのか。それがわかるだろう。
お久しぶりです。
「懲りずに取材していただいてありがとうございます」
そちらこそ懲りずにバンドを続けていただいて(笑)。
「お互いに(笑)」
3人になった時はどうなることかと思いましたが。
「何とか無事にやれてます」
だいぶ落ち着きました? 新体制は。
「そうですね。今は楽しいです。バンド組んだばっかりな感じというか。だから危うさとか上手くまとまらないことが逆に楽しかったり、嬉しかったり」
恋愛にたとえると、少し駆け引きが上手くなった、みたいな?
「どうなんですかね? 駆け引きが上手かったら3人になったりしてないと思いますけど。でも理子にはよくビックリさせられることがあって……かなり勇気のある人だなと」
僕もステージ観て、新メンバーとは思えない堂々とした佇まいだと思いました。
「本当はすごく繊細なんだけど、いい意味での鈍感さみたいなのもあって。周りの風になびかないんですよ。なので入ってきた初日から私的にはすごく楽ですね」
最後にインタビューしたのは、佐藤さんが脱退した直後で。あの時の津野さんはボロボロで傷つきまくってました。
「そうでしたね。インタビューでもイジメられたような(笑)」
だからしばらくは3人のままだったし、そう簡単に新しいメンバーを迎えることは難しいというか、かなり慎重になったんじゃないかって思ってたんですけど。
「まず3人になった時にとりあえずライヴをやることだけは決めて、3人だけで音を鳴らしてみて、できうる限りのことはやってみたんです。でも実際やってみて、先が見えちゃう感じがしたんですね。〈これじゃあ……東京ドームが見えないぞ〉みたいな」
このまま3人で高みを目指すことは難しいと。
「これはもう3人でやることは早いとこ切り上げて、ヴォーカルを探そうってことで。それまでの私たちって、東京ドームじゃないけどバカみたいな夢を本気で語れてる状態がバンドとしてはとても健全だったんです。だからもう一回……苦労を苦労とも思わないような夢に向かって疲れることがしたいと思うようになりました」
そこで気持ちを切り替えたんですね。
「でもやっぱりすごく慎重になってる自分たちもいて。だからヴォーカルが必要だねって決めてからも、3人での音楽制作やリハーサルはずっと続けてました。やっぱりまだ反省モードではあったし」
同じ過ちを……。
「繰り返さないように、と。私たちも傷ついたけど、ちーちゃん(佐藤)も傷ついただろうし。あと3人になってみて彼女の存在のデカさも感じたし。だからヴォーカルは探してたけど必要以上に焦らず、本当にいい出会いがある時まで3人の状態を保つことにして。で、いろんなアイディアを出したりやってみたりする中で、ラッキーな出会いがあったという」
じゃあ石野さんとの出会いがなければまだ3人だったかもしれないと。
「とにかく焦らず、もっと長い見通しで考えてました」
なんか……失恋して次の恋愛に向かう人の話を聞いてるみたい(笑)。
「そう言われれば確かに。バンドって恋に置き換えるとわかりやすいのかな」
昔のインタビューでも言いましたけど、あなたのバンドに対する捉え方は完全に恋ですよ。
「うん。しかも片想い」
だってバンド、絶対に辞めないでしょ?
「辞めないですね」
だから佐藤さんが辞めた時のインタビューもプンプンしてたし。
「はははははは! それは失礼しました」
それくらいバンドというものに恋愛感情みたいなものを持ってる人が、慎重になりつつも大胆なヴォーカリストを迎え入れ、今を「楽しい」と言える状態でバンドをやれている。ってことは、以前と今とではバンドに対する津野さんの考え方が変わってきたんじゃないかなって思ったんですけど。
「変わったのかな……ずっと渦中にいるからあんまり自分では自覚がないんですけど」
じゃあ今バンドに対して思ってることは?
「もちろんバンドは辞めたくないし、それこそ赤い公園が〈2010年に始まって2000何年に解散した〉みたいな未来の歴史を想像するのがすごく嫌で」
それと似たようなことは前にも言ってました。
「だからどのバンドよりも長く続けるっていうのが昔からの目標ではあって。で、今思うのは、バンドって何かあった時に何とかするしかないというか……わかります?」
もう少し具体的に。
「この先何が起こるかわからないじゃないですか。終わるのは嫌だけれど、やむなく終わる時が来るかもしれない。だからバンドの中で〈私たちは大丈夫だよね、今日も仲良しだよね、きっと5年後も続けてるよね、じゃあ拇印を押して!〉みたいな確認をあえてしないことがすごくバンドらしいというか、魅力的なのかなって思ってます」