ネクライトーキーの音楽は楽しい。自然と身体が動いてしまうような軽快なリズム、キャッチーなメロディ、目が離せない展開、キュートな歌声――さまざまな要素が絡み合ったポップな楽曲が心を躍らせる。しかし、そのキラキラした扉を開けた奥にあるのは、寂しさや鬱屈とした感情、目を背けたくなるような日々の苦しさといったネガティヴなものばかり。これは、メインコンポーザーの朝日(ギター)が抱える気持ちだ。メジャーデビュー・アルバム『ZOO!!』も、右肩上がりのバンドの状況や華々しいタイミングとは裏腹に、何も持ってない自分や立ち尽くす姿が多い。彼はつきまとう日々の辛さの中、なんとか自分を保つように曲を作り、音を鳴らしている。それをバンドとしてポップでポジティヴなものに変換しているから、ネクライトーキーの音楽は聴いていると本当の意味で楽しくなれるのだ。そのエネルギーは、彼らをもっと大きなところへ連れて行くだろう。
(これは『音楽と人』2020年2月号に掲載された記事です)
動物園はどうでした?
「楽しかったです。全然人いなくて快適だなと思ってたら、パンダの前だけすごい人だかりで」
さすが人気者。見れなかったですか?
「はい。パンダの集客恐ろしかった。ハシビロコウの前とかガラガラなのに……動物にも格差があるんだなって」
ははは。そういうのが気になってしまったと。
「でも久々だったので面白かったです」
良かったです。今回の『ZOO!!』はメジャーデビュー作となりますが、どういう作品にしたいと思ってましたか?
「ちゃんと聴かせる一枚にしようっていう目標があって。インディーズで出してきた作品はけっこう勢いを重視してたんで、『ZOO!!』はできるだけ音を減らしてアレンジしたり、速さに頼るんじゃなくてしっかり楽しく聴けるようにしたいなと」
ノリや勢いだけじゃないものというか。それは2枚作ってきたから思うことですか? それともメジャーデビューというタイミングだから?
「メジャーのタイミングだからなのかな? やっぱり広く聴かれる音楽ってどんなんだろうと思って。ギターをガーンガーンって鳴らし続けるのって、なんか野暮ったいなって思うようになったんですね。それ、今までの手癖で鳴らしちゃってるだけじゃないのかなって。別に売れ線になりたいとかじゃないんですけど、ちゃんと認められるにはどうすればいいんだろうって考えた時に、いったん自分の手癖を見直して、アレンジに目を向けてみようかなっていう」
認められたいとはいえ、今バンドの人気は右肩あがりで、しかもこういう大事なタイミングに今までと違うことをするってかなり勇気いりますよね。
「もちろん怖くはあるんですけど、このバンド組む前からもう10年くらい音楽やってきて、自分の曲に飽きてモチベーション下がることが俺は一番怖かったんで。そうなったらきっとバンドも止まっちゃう。それもすごく怖い。だったらずっと興味のある方向に動き続けたいなって思いますね」
飽きそうになる瞬間もこれまでありました?
「けっこうありましたよ。新しいものに出会いたいから作ったはずなのに、なんか今までにもこういう曲あったなとか。新鮮な気持ちで聴けないなとか。それでもどうにかこうにか楽しそうな方向を探してやってきて、今ネクライトーキーはすごく新鮮な気持ちでやれてて。メンバーは言うことを聞かないし、口答えばっかりでほんとに面白くて(笑)。せっかくこんな楽しいんだから、ちゃんと自分が楽しいと思えるのを大事にしたいなと」
守りに入るのではなく、もっといい方向を探していこうと。
「そうですね」
曲を聴いてても、ネガティヴな感情をなんとか楽しさに変換したり、面白いように捉えようっていう意識がありますよね。
「そうしないと辛くて(笑)。頑張って前向かないと、悪いことばっかり考えちゃってすぐ辛くなるんで」
どんなことが辛いですか?
「いろいろあるんですけど……最近あったことで言うと、この前Hump Backと対バンしたんですよ。で、彼女たちのライヴを観ながら、どうしようもなく辛くなってきて……俺の行けない場所にいる人だって思ったんですよね。俺は音楽に対してけっこう理屈屋で、良くない部分を探してそこを潰していくようなやり方が多いんですけど、林さん(林萌々子/Hump Backヴォーカル)はちゃんと自分の音楽を信じて、これがいいんだ!って気持ちで歌を唄ってるんだなってヒシヒシ感じて。俺の持ってないものを持ってる人だなって」
それを観てどんどん辛くなったと。
「そうですね。俺、コンテンポラリーな生活ってバンドもやってて、そこでは俺が歌唄ってるんですよ。でも自分がフロントマンっていうのに違和感があって。林さんを観て、その理由がわかったんですよね(笑)。実はこれ、もっさ(ヴォーカル&ギター)を観てても思うんですけど。俺に持ってない要素をめちゃくちゃ持ってる人だから」
そうやって自分の足りない部分を見てしまいがちな性格でもあるんですかね。
「そうですね。自分の欠点をちゃんと理解してないと勘違いしたり、見誤っちゃうので。ただ、欠点だけ把握してても今度は気持ちが後ろのほうに行き過ぎて失敗するんですけど」