失敗して、自分の醜さを知って。そんな俺をここに全部出せば、自分を愛せるのかなって。だから今、ようやく自分のことを愛せる
これまでも童貞疑惑とか高校の時に好きだった彼女のことだとか、自分のことをネタにしてたこともあったけど、それとは――。
「違いますね。あれは戦略が入ってる」
下ネタをぶっこんだりするのもそう。そのひとつひとつがパフォーマンスで。
「でも今はパフォーマンスじゃないの。全部〈俺〉を表現したくてやってるの。で、昨日アルバムのマスタリングしてて思ったんだけど、例えば〈だっせー恋ばっかしやがって〉とか〈喜ばせたいんです〉っていう歌は、いわゆる音楽としてちゃんと作られたものというか、楽曲なんです。けど〈なつみ〉は違うの。もっと衝動というかドキュメントというか……アートだなぁと」
また自画自賛(笑)。
「ははははは! つまりエンターテインメント性がない。限りなくプライベート。歌も最初に録ったテイクをそのまま使ったし。だって歌入れの日に好きな女の子から連絡を無視されて、どん底みたいな気持ちの時に録ったんですよ。しかもレコーディングどうこうっていう意識もなく、想いを無視されたっていうキツさから解放されたくて唄ったヤツ。つまり作為がない」
でも作為なく自分を出すことって普段できないじゃないですか。
「できないですね。おっかない」
だから自伝読んで思ったけど、酒田くんにも梅津くんにも本当の自分を全部出せてれば……みたいなところがあって。でも出せないじゃない。
「出せないですね」
出せないから相手を怒らせたり悲しませたりして、バンドがうまくいかなくなって。で、そういう自分も責めてる。
「そうです……俺、なんか泣きそうになってきた(笑)。そこまで読んでくれてありがとう」
自分にも当てはまるからすごいわかるんですよ。
「でも、あれが本当の自分でもあると書いてて思ったな。ああいう酷い自分こそ書かないといけないと。バンドやってて最初は、とにかく売れなきゃいけないと思って必死で。だから〈これやったら売れる〉とか〈ここだけ見せればいい、ここは隠そう〉とか考えながらやってたし、その中で苛立ってる自分がずっといて。でもその過程を描きたかった。俺、一生懸命やるとああなっちゃうっていうのを」
わかるよ。
「で、失敗して、自分の醜さを知って。けど、こうやって全部出せば、なんか自分のこと愛せるのかなって思ったの。だから今、ようやく自分のことを愛せる。いいなって、自分のことを思える。恋愛に関しては全然ダメだけど、バンドに関しては自信がある」
ってことをこのアルバムだとか自伝を書く中で思うようになったと。
「そうそう。だから最初はそこまで考えないで書いてたの。もっと単純に書いたら面白いんじゃないか?っていうノリで。俺も楽しく書いてたんだけど、酒田の脱退あたりで……」
あのへんのくだりはエグいね。
「エグい。でも自分の醜いとこを書かないと嘘だし。あんな……自分のことを棚に上げて、酷いこと言ってた自分を書くっていうのは」
あそこまでしんどい状況があったことは、当時の取材で話さなかったよね。
「俺も隠してたし。だって書いててビビったもん。これ読んだ人が〈うわぁ柴田って最悪じゃん〉って思うんじゃないかって。それでも隠さないほうがいいって思った。全部出せば信頼されるはずだって思った」
そこが誠実と言えばそうだし、それをここまでやり切ることもカッコいいのかもしれない。
「と思うんだよね。レコード会社からしたら『もっと売れるもん作れよ』って言われるかもしれないけど、赤字にならないんだから許してよ、みたいな。だから今は結果よりも自分がカッコいいって思えるものをどれだけやれるか。前はさ、知ってるバンドが武道館やったりするとすげえ悔しくて仕方なかったけど、今は全然何も思わない」
そこまで自分のやってるバンドに自信が持てるようになっても、女の子にフラれた時の落ち込みっぷりは相変わらずなんだな。
「変わらないっすよ。さっきもサウナで話したけど、今もう全然眠れないし食欲もないし、地獄っすよ。〈何で俺はあの子に好かれないような自分なんだ〉ってキツくなる。でもバンドは自分を信じられる。バンドがあるからこんなクソみたいな恋愛をしてもまだ頑張ろうって思える。〈大丈夫。俺にはバンドがあるから〉って。で、〈いつか恋愛でも自分を信じられるようになれば、好きな人に好きって言ってもらえるのかな……〉っていう」
でもこのままだと、バンドに自信がある自分と、恋愛に全く自信がない自分っていうのは切っても切れないってことだと思うけど。
「そうなのかな。俺はもっと幸せになりたい。俺はまだ恋を諦めないし、なんならこれからの自分に希望すら感じてます。今は眠れないほどキツいけど(笑)」
もし柴田の恋が成就して結婚ってなったらどうするの?
「もちろんパーティーやりますよ。関係者を全員呼んで祝ってもらいます。樋口さんも呼ぶから」
そういうことじゃなくて、幸せになった時の柴田は、どんな歌を書くんだろうなっていう。
「書いてますよ。俺の人生が下向きになっても書くし、上向きになっても書く。それは間違いない」
じゃあ幸せの絶頂の歌を書いたかと思ったら……。
「え、またキツいこと想像するのやめてよ」
離婚して別れの歌を書くと(笑)。
「やだやだ! そんなの絶対にやだ! 絶対幸せになる!」
文=樋口靖幸
撮影=岩澤高雄_The VOICE
撮影協力=天空のアジト マルシンスパ