【LIVE REPORT】
音楽と人LIVE2019 豊洲ナイトカーニバル
2019.11.26 at 豊洲PIT
「生きてたらまた会えっからよ!」と峯田和伸は叫んだ。「まだまだ俺たちは、音楽と人間を諦めてねえ」とTOSHI-LOWは語り、「言葉を刻め、生き抜くために」と山田将司は唄った。生きることを音楽にし、ライヴという場所に魂を捧げ続けてきた3バンドが、初めて同じステージに並び立った一夜。それは奇跡ではなく、たしかに必然だったのだと思う。〈今〉しかなかったのだと、思う。
豊洲PITで開催された、音楽と人LIVE 2019 〈豊洲ナイトカーニバル〉で実現した、THE BACK HORN、BRAHMAN、銀杏BOYZという顔合わせ。ほぼ同世代で、20年以上のキャリアを重ね、近年日本武道館でのライヴを行い――と、共通点の多い彼らだが、意外にも対バンとして直接ぶつかり合うのはかなり貴重なこと(銀杏BOYZとBRAHMANはなんと初)。それぞれ百戦錬磨のライヴバンドなだけに、和気藹々としたアットホームなイベントにはなるはずもない、という予感に胸が高まる。
そんな期待が渦巻く中、トップバッターを飾ったのはTHE BACK HORN。登場早々、「ブラックホールバースデイ」のイントロが、まるで礫のような勢いで飛んでくる。いつも以上に気合が漲って見えるのは、あとに控える強敵を意識してのことに違いない。「シンフォニア」「罠」と、菅波栄純のギターもキレッキレなキラーチューンを連投し、松田晋二(ドラム)のMCも、「濃い3バンドの夜を、今日はたっぷりと感じていってほしい!」と、若干シャウト気味。ギラギラした闘志を滾らせながら、この貴重なステージを心底楽しんでいるようにも見える。
何せTHE BACK HORNは、10月にニューアルバム『カルぺ・ディエム』を発売し、リリースツアーが始まったばかりという絶好のタイミング。3バンドの中で唯一、最新の音という武器を持ってこのステージに立っているだけに、アルバムからの新曲「心臓が止まるまでは」「太陽の花」の威力が、やはりズバ抜けて鮮やかだ。冒頭に挙げた歌詞は「心臓が止まるまでは」の一節だが、歌は〈全身全霊生きたがって叫ぼうぜ〉と続く。こんなにも愚直で泥臭い応援歌があるだろうか。かつてのように死を唄って生を想うのではなく、今の彼らは生きることに真っ向から向き合って音を鳴らしている。その強さを存分に刻みつけるライヴだった。
お馴染みのブルガリア民謡が流れれば、BRAHMANの世界が始まる。最近はOAUの活動が多く、BRAHMANとしてのライヴは数少なかった反動か、即座に大熱狂で迎えるオーディエンス。そこに、間髪入れず次々と豪速ナンバーを叩きつけていく。そして、「警醒」直前にフロアにダイブしたTOSHI-LOWは、マイクが壊れるハプニングもおかまいなしに、オーディエンスと全力で対峙する。もはや唄っていなくとも、拳を振り上げ、慟哭する姿そのものが彼にとっては表現で、一瞬たりとも目を離せなかった。
「鼎の問」を経て一旦落ち着くと、TOSHI-LOWは「雑誌の名前なんだっけ、主婦の友?」といじって笑いを取りつつ、「俺たちが長い間やってここに立ってることは、そんなに簡単じゃない。8年前、俺は峯田ともめたけど、面と向かって話せば話は早いと思ってた。でもそうできるのも、今日まで続けてきてたから、でしかない」と語った。主催者と共演者を遠回しに讃えつつ、何一つ嘘も傲りもない言葉に愛が溢れている。その証明に、「満月の夕」では、三線を携えたスペシャルゲスト・ORANGE RANGEのYOHとともに、山田が、そして峯田が登場。声量も声色も個性的すぎる3人の声が重なっていくさまは、とてつもなく美しく、ピュアで、無骨だった。TOSHI-LOWいわく「諦めてねえ」男たちの願いが優しく響き渡り、涙を堪えきれなかったのは私だけではないはずだ。唄い終わると、3人それぞれが熱い握手を交わし、特にTOSHI-LOWと峯田の抱擁にはひときわ大きな拍手が湧き起こる。今この瞬間まで生きてきたからこそなのは、この場に立ち会ったオーディエンスも同じなのだ。ラストは、今年のフジロックでの峯田のMCを引用しながら「生き延びてれば必ず、失敗なんてやりなおして、また出会うことができるんじゃないのって。そんな歌」と贈られた「真善美」。TOSHI-LOWが「おまえが問う番だ!」と叫びマイクを手から落とした残響が、ぐっさりと胸に刺さった。
最後にステージに立つのは、もちろん銀杏BOYZだ。2バンドの熱を引き継ぎ、どんなテンションでスタートしてくれるのか――と思いきや、ステージに現れたのは、上半身裸でアコギを抱えた峯田ひとり。スポットライトで照らされる中「生きたい」を弾き語り始めた。武闘派のBRAHMANのあとにはあまりにも無防備な姿に見えるけれど、その声に宿る生命力は凄まじい。弱さをそのままに、脆さをそのままに、泣いて、悔やんで、愛して、生きる。これが峯田の闘い方なのだ。曲の後半、バンドメンバーが加わって強烈なパンクサウンドが解き放たれると、その爆発力のままに「東京少年」「駆け抜けて性春」へ。ステージ上を転がり回る勢いで絶唱する峯田に呼応するように拳とシンガロングが溢れ、会場は一気に沸騰状態だ。
MCでさきほどの共演を振り返った峯田は、「本人の前では言いたくねえからここで言います。光栄です!」と告白。さらに、すべてのオーディエンスに対し「ここにいる誰ひとり否定されないように、そんなライヴになればいいと思ってます」なんて言葉を、綺麗事じゃなくまっすぐに言ってのける。唄い出した瞬間に大歓声が湧いた「BABY BABY」からの「SEXTEEN」では、その言葉どおり、思い思いに唄い、飛び、踊るオーディエンスの笑顔が溢れていく光景が、キラキラと眩しい。この瞬間、誰も仲間はずれはいなかった。確かに誰もひとりではなかった。峯田も思い切り唄い転げ、笑っていた。
アンコールに応えて再びステージに現れた峯田は、メンバー交替なく続けてきたTHE BACK HORNとBRAHMANを「自分はできなかったからすごい」と素直に讃えたあと、こう続けた。「この首があって声帯があって喉がある限り、唄い続けてみようかなって思ってますんで。また会いに来てください」――誠実な、それでいて執念にも近い思い。ああ、この言葉こそが、3バンドに共通する真実だったのだ、と最後に確信する。それはとてもシンプルで、とても難しいことだ。なんの保証もない、危うすぎる約束だ。でも、どんな神様よりも、強く信じられる。必ずまた会いに行く。熱演のフィナーレを飾った名曲「ぽあだむ」の温かなメロディに身を委ねながら、強く心に誓った。
文=後藤寛子
撮影=石井亜希
【SET LIST】
■THE BACK HORN
01 ブラックホールバースディ
02 シンフォニア
03 罠
04 心臓が止まるまでは
05 悪人
06 太陽の花
07 コバルトブルー
08 刃
■BRAHMAN
01 A WHITE DEEP MORNING
02 初期衝動
03 雷同
04 AFTER-SENSATION
05 不倶戴天
06 FROM MY WINDOW
07 LOSE ALL
08 警醒
09 鼎の問
10 満月の夕
11 真善美
■銀杏BOYZ
01 生きたい
02 東京少年
03 駆け抜けて性春
04 骨
05 夢で逢えたら
06 BABY BABY
07 SEXTEEN
ENCORE
01 ぽあだむ