今年、結成35周年をめでたく迎えた怒髪天。25周年では、総勢48名のミュージシャンが駆けつけたトリビュートライヴを開催したのだが、今回は、1曲に220名のゲストが参加という前代未聞のトリビュート企画を敢行。そのナンバーを含む、新作『怒髪天』がリリースされたタイミングで再掲載するのは、今から10年前、今回トリビュートされた「オトナノススメ」がシングルとして世に出た際のインタビュー。最新号掲載の新作インタビューと併せ、コンプライアンスやら同調圧力やらで、縮こまりがちな今の世の中に痛快なパンチを与えてくれる増子直純の言葉を読んでもらえたらと思う。ちなみに本稿で触れられている増子自身の〈若気の至り〉については、35周年記念盤と同日に刊行された彼の自伝本に詳しくあるので、そちらもぜひ手に取っていただけると幸いだ。
(これは『音楽と人』2009年11月号に掲載された記事です)
純粋だったボクはオトナになってどんどん汚れていく……とかなんとか青臭いことウジウジ言ってるロックに対しての、恐ろしく痛快なカウンターパンチである。そもそも怒髪天は常に何かに対するカウンター(当てつけ、とも言う)を仕掛けてきたバンドだが、今回は特に快哉を叫びたくなる会心の一撃。来月4日に到着するニュー・シングル「オトナノススメ」。タイトル通りオトナを全力で肯定するストレートな一曲だが、そこに貫禄や余裕や風情はゼロ。じんわり染みいる渋みや苦みなんてのもどこ吹く風だ。アッパーな曲調も賑やかなコーラスも最高に楽しくて、四十路を過ぎたメンバーが本気でやらかす大ハシャギは、まったくもって無敵のライヴ・ナンバーとして君臨するのである。この一曲が次なるアルバムの肝になると語るは増子直純。ますます絶好調なバンドの今を、冴え渡るトークでどうぞ!
この号が出る頃、ちょうど〈響都ノ宴〉(注・怒髪天プレゼンツ京都磔磔3DAYS)が。
「あー、そっか。これね、磔磔にすごい良くしてもらってて、毎年やらしてもらってるんだ。やっぱ憧れのハコだったからね」
磔磔が。
「うん。最初読めなかったけど。〈はりはり〉かと思ってた」
わははは。あと今年はこれ以外にも、いろんなイベントが目白押しで。
「そうだね。ほら、こうやって続けてきて、わりとみんな俺らのことを面白がってくれて。誘ったら簡単に乗ってくれるようになったんだよね。だからいろんなことが実現しやすくなった」
25周年だからという数字の話じゃなく、バンドを取り巻く状況そのものが良くなってきた。それはお客さんにも通じる話ですよね。今年はAXやブリッツ公演も即日完売で。
「あれねぇ、出るまで半信半疑っていうか、覚悟も何もないんだよね。チケット売れてるって言われてもどっか他人事っていうか。で、いざステージに出ると、あんだけの歓声がドワーッと来るじゃない。ちょっと吹き出しそうになるのね。〈間違ってんなぁ、みんな〉って。はははは」
とか言いつつ増子さん、ステージで感極まってたりするんですから。
「や、すっっっごい嬉しいよ、ほんと。〈参ったな、ほんとにいるんだ〉っていう。そうなったら何とか楽しんでもらおうと思うじゃない。そんなに安い、五百円とかのチケットじゃないしさ。みんな働いたりして忙しいと思うけど、そのなかで楽しみにして来てくれるなんてさ」
実際働いてる人、それも30代や40代の大人が多いですよね。怒髪天のライヴ。
「ありがたいよね。しかもいい大人がちゃんと冗談乗ってくれるんだもん。そういう人たちにちゃんと届くようになったのが嬉しくて」
今回はそういう人たちをさらに勇気づける曲。大人のほうが人生楽しんでんだぞ、と。
「もともとパンクの常套句として〈ドント・トラスト・オーバー30〉〈大人を信じるな〉っていうのがあるじゃない。俺もやっぱガキの頃はそう思ってきたし。だけど実際大人になってみて、なんつうの? もうほんと、なんのこともなかった」
なんのこともない(笑)。
「今回の歌詞書いてて思ったんだけど、東京来た時の感覚に似てる。こっち来る前は東京みんな敵だと思ってたし、このクソッタレ東京、みたいに思ってたの。すごく。でも……なんのこともない、ただのちょっと大きい街だった」
ははは。確かに。
「ほんとそんな感じ。それと一緒で、全然大人は何のこともないし、子供より楽しい。絶対。できること多いし、恐ろしいほど自由。それこそ野垂れ死ぬ自由まであるくらい。で、子供が大人は楽しくないって思うのは、楽しそうにしてないからなんだけけど、それは大人が楽しいってこと、ちょっと隠してる部分もあると思うんだ。子供には見せられないこととか、ない?」
そりゃもう、いっぱいあります(笑)。
「あはは! 大人の無茶はハンパないからね。そういうの知ったら、子供のほうが良かったとか、若い頃に戻りたいなんて思わないよ」
でもそういうことを言う人って多くないですか。子供の頃はピュアだったのに大人になって汚れていってしまう、みたいな。
「それ、子供の頃ピュアなんじゃなくて、もの知らんだけでしょう」
わははは! 無垢と無知の違い。
「そうそうそう。でもほんと、そうだよね。知ってしまったことを知らなかったって言うことはできないし。それが大人の辛いところでもあって。まぁ青い勘違いができなくはなるよ。若気の至りみたいなものも、知ってしまったらもちろんできなくなる。だけど、その若気の至りを今やりたいかって言ったら、やりたくないしさ」