若気の至りは、誰でも許される。でも、重いものを背負ってもハシャいでいく、その無茶さ加減が一番大事だと思う
増子さんも、けっこう若気を至らせてたクチなんですか。
「めっちゃめちゃ至ってたね。しないでいい喧嘩したり、やらんでいいことに首突っ込んだり。しかも誤った正義というか、自分の中でこれが正しいと思ったことに反目するものは徹底的に潰すっていう。それはほんと若気の至りだよ」
言える範囲で、何をやらかしたんでしょう。
「いやバンド潰したりね。ははは! あと酷いのは、ドクター・マーチン履いてる奴がいて『それお前より俺履いてたほうがいいから、よこせ』」
ははははははははは!
「盗賊。追いはぎだよ(笑)。そういうの、よくやってたなぁ。でもムチャやるのがパンクだと思ってたし。俺らにとってのパンクって、シド・ヴィシャスが21、22で死んでたし。高校ん時、当時の彼女に『俺そのぐらいで死ぬからよ』みたいなこと言ってたからね、本気で」
今やうっかり40代!
「もはやダブルスコアだよ! 何考えて言ってたんだろう。何の根拠だっていう(笑)」
当時の増子さんは、世間の大人をどういうイメージで捉えてたんですか。
「や、もう植え付けられたイメージだから、ほんとはわかっちゃいないの、大人のことなんか。自分のことで手一杯だし。本来は全然わかっちゃいないし何が憎いわけでもないんだけど。でも学校の先生とか理由もなく嫌ってて。大人は嫌いだ、大人ファック・オフ!みたいなのが格好いいと思ってたんだね。そのくせ両親とすごい仲良くて、悪さはするんだけど夕食ん時には家帰って、一緒にメシ食って今日はどうだったって話して」
そこは平和なんだ。
「そう。それとこれとは別だから(笑)」
ははは。そういう時代を過ぎて「俺大人だな」って初めて感じた瞬間ってありますか。
「……タバコ吸って外歩いて警察に注意されなくなった時かなぁ。あとカード作った時とか。車運転できた時も大人だなぁと思ったけど……でも物理的なことばっかりだね。精神的に大人だなぁと思ったこと、あんまないもんな。相変わらずオモチャ好きだし、子供の頃からずーっとラーメンとエビチリが好きだし。自分でもこんなに趣味変わんないと思わなかった」
でも、ただ好きなものに対して無邪気にハシャいでるだけじゃないですよね。私、この曲の中で一番好きなフレーズが〈人生を背負って大ハシャギ〉っていうところで。
「そう。背負ってムチャこくっていうところに醍醐味があると。何にも背負ってない奴が大ハシャギっていうのは、それは若気の至り、誰でも許されることで。いかに重いものを背負ってもハシャいでくっていう、その無茶さ加減が一番大事だと思う。今の若い奴らに俺が言えるとしたら自分の経験しかないから。ほんと薦めてやりたい。大人になること何もビビることねぇぞって。これ昔の自分にも向けてるし。やっぱすごい……大人って大変そうじゃない。社会的責任もあるし仕事もしなきゃいけないし、毎日働くのも嫌だしなぁって思ってた。そういうことじゃないのよ。人の数だけ選択肢があって、それを選んでいける楽しさ、その道を突っ走っていける楽しさっていうのは、実は何物にも代え難い、すごいことなんだぞと。それは俺も知らなかったからね」
改めて訊くと、今こういう歌を唄う必要があると思った理由って、何かあったんですか。
「まぁ、常に俺らにはアンチテーゼっていうのがあって、今回は〈ドント・トラスト・オーバー30〉っていうパンクに対するアンチでもあるわけ。そういうのはもちろんありつつなんだけど……やっぱフェスかな。イベントでも何でもいいんだけど、若いお客さんがいっぱいいるじゃない。そういう子たちを目の前にして、ひとつ教えてやりたいなって。大人って楽しいぞ?っていうのをちょっと自慢したかった。自慢かい、って話なんだけど」
ははははは。
「音楽観に来る子たちの顔ってすごい楽しそうで、あの頃俺もライヴ行くのすごい楽しかったけど、でも悩みもいっぱいあったなぁって思う。でも、まだまだ楽しいこと続くぞ?って。それを知ってもらえたらなって思ったんだよね」
うん。少なくともライヴを必死で観に来る子って、悩みとまでは言わなくても、クラスに居場所がなかったりするかもしれない。
「そらそうだよね。クラスって勝手に集められたもんだからね。でもライヴハウスって、それが好きな子たちが自主的に集まってるから。いい磁場が生まれるに決まってるよね。あと思い出したけど、ライヴハウス行くのって、大人だなぁと思ったよね。年上のバンドのライヴとか観に行くと、みんなすっげぇ大人に見えたもん。今やそんなライヴハウスも、店長とかより俺が年上なんだけど。恐ろしいくらい後輩だらけ。ははは」