9月1日の大阪味園ユニバースに続き、9月28、29日に埼玉・東武動物公園での開催が控えている〈夏の魔物〉。ここでは開催を前に、『音楽と人』2019年9月号で特集した記事を3日間に渡り特別公開していく。
3日目は29日に出演するCRYAMYカワノのインタビューと、主宰の成田大致による、今年の夏の魔物についての話をお届けする。
(以下は、『音楽と人』2019年9月号に掲載された記事です)
カワノ(CRYAMY)インタビュー
初取材です。バンド結成のきっかけから教えてください。
「高校で組んでたバンドがまったくダメで、早々に解散。でも音楽はしたかったので、当時弾いてたベース1本担いで上京してきたんですけど、すぐお金なくなっちゃって。持ってるものがベースしかないから、まずそれを質に入れたんです」
音楽もバンドもできませんね。
「家賃のやりくりに切羽詰まってて……。でも少しして落ち着いたから、ギターを手に入れて、練習し始めたんです。ギターだったら弾き語りもできるから。1年ぐらいでパワーコードくらいは弾けるようになりました。とはいえライヴハウスはなかなか出れなくて。しょうがないから高円寺の駅前で、ずっと弾き語りしてたんです。でも誰も立ち止まってくれないから、どんどん鬱憤が溜まって。当時やってたブログで、売れてるバンドの悪口をめちゃくちゃ書いてたんですよ(笑)」
それ見たい(笑)。
「〈なんでこんなバンドがいいんだ〉とか〈こいつ浮気してるって聞いたぞ〉とか……まあ酷いブログだったんですけど、そのブログにコンタクトして、バンド組みたいって言ってきたのが今のドラムなんですよ。彼はずっとバンドやりたかったのに、なかなかメンバーが集まらなくて。もう諦めて就職しようと思ってた頃、福島のフェスを観に行って。土砂降りの中、一緒に行ってた当時の彼女に『次のMONOEYESで雨が止んだら、俺、バンドやるわ』って言ったら晴れたらしいんですよ。だから俺はバンドやらなくちゃいけない、って」
いい話だ。運命ですね。
「俺もそう思って、喜び勇んでスタジオ入ったんですけど、初日から大喧嘩(笑)。ハイハットをずっと開いて叩くから、煩わしくてしょうがなくて。こりゃもうないかな……と思ったら〈次のスタジオいつにします?〉って連絡が来るんです(笑)。そういう状態が1年続いたんですけど、もうこれじゃラチがあかない!と思って、SoundCloudにバッキングとドラムだけを、保存も兼ねてバンバン上げてったんです。それを見た今のギターから連絡が来て。聞いたら高校卒業後、ブルースマンになりたくてニューヨークに行ったくらいなんで、俺らより演奏はしっかりしてるんですよ」
良かったですね。
「でも俺らと一緒に音を出してみた瞬間、これは酷い!と愕然としたらしいです。さらに当時、僕が本当にお金なくて。空腹が限界に達して。会ったばかりの彼に電話して、金が無いから晩飯奢ってほしいってお願いしたんですよ。そしたら家に来てくれて」
ははははは、酷い!
「それでご飯食べてお酒呑んでたら盛り上がって、日を改めてスタジオに入ったんです。そしたら『パソコンが壊れて、今まで作った20曲が消えた……バンド入れてくれ』って言われて」
予想もしないドラマを持ってるバンドですね(笑)。
「去年の6月に加入したベースはもっと大変で。今27歳でちょっと年上ですけど、大学卒業する半年前、病気でぶっ倒れてその後、2年間集中治療室に入ってそこから復活して」
……結成までのエピソードが渋滞気味!
「全部本当です(笑)。でも、このメンバーになるまで、みんな僕とウマが合わなかったんですよ。僕の本気とギャップがあって。今のメンバーは、演奏が上手い下手じゃなくて、これがダメだったらのたれ死んでもかまわない、って覚悟があるんです」
すごく人間臭いんだけど、ヒリヒリした切迫感があるのはそのせいなんでしょうね。
「みんな真剣なんで。卑下するわけではないけど、ロック的な素養というか才能は、自分にはないですよ。親父の影響で、いっぱい聴いてるからかもしれないけど、僕たちどのバンドの足元にも及ばんな、と思うんです。でも、僕がひとつだけ信じてるのは、音楽はひとりで聴くもんだ、ってことで。ライヴでいっぱい人がいても、横に友達がいても、曲が始まっちゃえばひとりですよ。一緒になることが美しいんじゃなくて、そこにいるひとりひとりが、ひとつのことに心打たれて、同じ感動を共有してる。そういう感覚でいられることが、僕は美しいと思う。それがわかるぶん、僕らはどのバンドよりも、お客さんひとりひとりと向き合うライヴをしてる自信があるんですよ」
そこに理解し合える何かがあるっていうことですよね。
「理解し合えるというか、たぶん理解はできないんですよ。それを超えた、魂というか心で交信してる感覚というか。とにかく全力で投げかけるから、受け取ってくれたらきっと君の何かになるはずだ、って感覚です。わかり合おうとすることはすごく綺麗だと思うし、お互いでも片方でも、模索する関係って悪くない。でもそれを、わざわざ言葉にする必要はないと思う。ありのままでいたいと思うけど、ステージに立ってる以上カッコつけたいし、その時点でどうかしてるんですよ(笑)。そこでもう、わかり合おうとする行為の美しさからは離れてる」
そうですね。
「今の時代は、みんな普通なんですよ。普通でいいと思ってる。すごく恵まれているわけでもないけど、不幸のどん底に沈んでるわけでもない。でも普通に生きてるぶん悩みがある。表には見えづらいけど何かを抱えてて、見えにくいぶん溜め込んでる。それを解放してる姿がステージから見えた瞬間、あ、なにか届いたんだな、って思うんですよね。その瞬間が、とても好きなんです」
文=金光裕史