せっかく音楽やってるなら、知ってもらいたいし、評価もされたいなって素直に思うようになった
ソロ20周年という節目にリリースされた新作『TWENTY ONE』は、前々作の『THE BOP』以降から続くバンドモードがより強く出た、シンプルなサウンドの作品になりましたね。
「もうライヴのことしか頭になかった、って感じの曲の作り方だったからね。あと、歌とか、リリックとか、そこに対する意識が強くなった。昔は、リリックのリの字も言わなかった男だけど(笑)」
3年半前、BRAHMAN主催の〈尽未来祭〉で、けじめをつけるためにSUPER STUPIDでライヴをやった後のインタビューの際、「今までは音楽的な評価がほしかったけど、実は音楽は人間ドラマが大事で、歌詞っていうところに今すごく意識がいってる」と言ってて。それが、その後の作品にちゃんと表れていますよね。
「そうかもね。だから俺、言ったことちゃんとやってるね!(笑)」
例えば「Shine」の歌詞、和訳ですけど〈その時は耳の痛い言葉だと思って/首を振る事しか出来なかったんだ〉〈その耳の痛い言葉に/あとで心を打ち動かされるんだ〉という歌詞なんて、5、6年前にTOSHI-LOWさんとか周りからいろいろ言われることに、当時は「うるさい!」と思ってたけど、今はそれもわかる、と言ってた『THE BOP』のインタビューでの話にリンクしていて。
「『起きなさい!』『うるせえな! もう起きてるよ!』っていう。もう親と一緒。わかりやすく言うとね(笑)。〈今やろうと思ったのにな~〉っていう」
あはははは。
「だから、さっきの話じゃないけど、俺ずっと〈俺のペースがあるんだから、俺の好きにやらせてくれ〉って、自分で自分に言い聞かせてたんだよね。それもそれでいいとは思うんだよ。無理してオーバーヒートしたらダメだと思うし。でもいつかどっかのタイミングで自分超えをしないと、ずーっといつまで経っても変わらないんじゃないかなって。やっぱりこう……〈あれもほしい。これもほしい〉って高望みしたり、〈あいつ、なんでああなんだよ〉とか人を妬んだりっていうのは、どこの世界でもあるでしょう」
そうですね。
「特に自分に才能とかあるって思い込んでいるんであれば、なおさら自分が思ってる以上にやるしかないのかなって話で。だから、何もしないっていうのが一番よくない気がしたし、なんかそれはもったいないなって」
そういう感覚になった、何かきっかけがあったんですか?
「いやいや、そんな大層なことはないよ! なんつうか……結局、どこか認めてもらいたいっていう気持ちがあるわけよ。認めてもらいたいっていう気持ちとつっぱっていたい気持ちのギリギリの境目、紙一重なところでずっとやってきた。でも、せっかく音楽やってるなら、知ってもらいたいし、評価もされたいなって素直に思うようになったというかね。で、昔は音楽に対する評価がすごくほしかったんですよ」
自分が作った音楽そのものに対して。
「そうそう。だったらプロデューサーでもやればよかったじゃんって話でさ。でも、そっちじゃなかったんだよね。ライヴだったり、エンターテインメントして人の心を動かすことを俺はやりたいんだなと思ってさ。なんだろね、ちょっと自分の見られ方を俺自身が誤解してたっていうかさ。あとやっぱりいいふうに見られたいっていう……だけだったのかな、昔は。〈年間にライヴ10本ぐらいしかやらない人間が、いいふうに見られるわけねえじゃねえか!〉って今なら思うけど(笑)」
はい(笑)。
「行動しなければいいふうに見られるわけないし、何も始まらない。ボーッと指くわえててもダメだね。自分からコンタクトしてお願いしますって動いていかないと。それこそ、評価されなかったら宝の持ち腐れみたいになっちゃうわけじゃない。やっぱりさ、褒められたいのね、俺(笑)。ずーっとそれが根本にある。で、ようやく、その褒められ方がわかってきたのかな」
あと「Shine」にしてもそうですが、市川さんの経験からの言葉であったり考えが、前作以降ダイレクトに歌詞になってますよね。
「そうなんだよね。やっぱ昔は、いいとこばっかり見せたいっていうのがあって、歌詞もどこか気の利いた言葉やフレーズがほしいと思ったりしていて。本も全然読めない、文法もよくわかんない、漢字もろくに書けない人間が、カッコつけたことばっかり言おうとしてるわけよ。でもさ、歌詞にそんなトリッキーさを入れる必要はなくて。〈好きだー!〉って叫んでるだけだとしても、その気持ちがちゃんと伝わればいいわけで、変に回りくどく言わなくてもいいんじゃないかって思ったというかね」
そういう考え方になって、どんどん歌詞がストレートなものになってきたところがあると。
「わかりやすく言えば、恥ずかしさがどんどん削れてきたってことじゃない。まあ、歳をとった証拠かな」
え、そういうことなんですか?(笑)。
「おばちゃんになっていくのと一緒! 若い頃は〈私そんなの絶対嫌だ〉って思ってできなかったけど、今だったらバーゲンとかでも我先に行って手を伸ばせるみたいな(笑)。やっぱ歳とったら、そんなカッコつけたこと言ってらんねえんだよ。ほしかったら取りに行くんだよ。そうなると、どんどん気持ちが裸になっていく、っていうことなんじゃないかな」
そういう意味では、前作だと「tokeru」、今回だと「sagashi」という全編日本詞の曲が出てきているじゃないですか。日本語詞って英語詞よりも、よりダイレクトに伝わるものですが、そのあたりの照れもなくなってきているところもありますか?
「ああ、そこに関しては、〈青い鳥〉(註:前作『Stories Noticed』収録/全編日本詞)からヒントをいただいた感じかな」
「青い鳥」は、TOSHI-LOWさん作詞ですよね。
「うん。その時にTOSHI-LOWからもらった言葉を、俺、忘れてないのよ。『いっちゃん、カッコつけずに唄って』って。その言葉が、けっこう響いて。うん、そういうことだよね。自分にあった言葉でいいんだよと思って。自分から出てもこないのに、無理して引っ張り出すものじゃないのかなって」
また〈尽未来祭〉後のインタビューの話になっちゃうんですけど、なんだかんだバンド時代に引っ張られていた自分がいて、それを今回断ち切れたという言葉に続けて、「ここからもっと素直に楽しく音楽ができる気がする」と言ってたんですね。新作もそうですし、まさにここ2、3年の市川さんは、その言葉通りに音楽を鳴らしていますよね。
「やっぱ俺、言ったことちゃんとやってるね!(笑)。まあ、遠回りしたけど、いい感じですよ」