俺は、銀杏BOYZの名の元であれば、いくら攻撃されても、叩かれても平気なの。これが峯田和伸としてだと、直接刺さってくる。だからゴイステの後期とか、すごくキツかった
これで銀杏BOYZ第一期は終了。もうバンドに青さなんかは追わないし、求めもしない、と。
「追わない。もしかしたらそういうのが生まれる可能性もなくはないけど、自分からは求めない。村井くんもアビちゃんもチンくんも、こうやって記録に残せたしね。だからよかった。この作品、3人のために作ったみたいなもんだから。彼らへの餞、みたいなもんだよ。あいつらが70歳くらいになって『おじいちゃん、若い頃こういうバンドやってたんだぞ』って孫に見せたり、お客さんが歳とった時に『私たち、ここにいたんだ』って思えるようなさ」
どのライヴも1カメか2カメ。しかもほぼノーカットで入ってる。
「うん。もともと、2015年に一人でやったライヴは入れないつもりだったの。バンドだけで構成しようと思ってた。でも去年、いわきでやったライヴが良かったんだよね。ワンカメだし、カメラマンでもなんでもないスタッフがただカメラ持って撮ってるだけの映像で、普通、どうかなと思う映像なんだけど」
ステージ横から定点カメラみたいに撮ってるだけという。
「そう。でもね、それがよかったんだ。自分の中ではあれが今回の作品の肝になってる。その日は楽器テックのヤツがいなくて、マネージャーの江口くんが代わりにやってたから、カメラ回せてなかったんだよね。だから違うスタッフにカメラ渡して撮ってもらったんだけど、そいつが1時間のライヴをずっと引きで撮りっぱなしなの。アップで寄ったり、客席映したりもしない。ステージ袖から、全身入る形でずーっと撮ってるだけ。もしカメラマンや慣れてるスタッフだったら、今の表情を撮ろうとか、客席の空気を撮ろうとか、何らかの意志が働くじゃん? それがないの。映像に欲とエゴがない。そこに映ってる姿が、今の俺っぽいなと思って。素っ裸の俺っていうか、バンドやりたいけど、まだ気持ちがついていってない、そういう状態の自分が、あの映像に出てると思う」
銀杏BOYZでは、弾き語りとバンド、両方のスタイルをやりたいって最初から思ってた?
「そうかもね。一人でライヴを何本かやってみたけど、バンドじゃできない感じがあったんだよ。一人でやってると、その場の空気を全部支配出来んの。あれがたまんない。途中で終わってもいいし、1曲を30分繰り返してもいい。あの感覚は、それまでの銀杏BOYZでは味わったことなかったから。それを知って、もっと音楽的になろうと思った」
音楽的、というのは?
「うまく唄うとかちゃんと弾くとか以外に、お客さんのため息や静寂、それに合わせた照明、思いがけないその場の空気、全部含めたものが音楽なんだなって、俺、気付いたんだ。前まではさ、照明のことなんて考えたこともなかったし、リクエストしたこともない。ライヴが始まってしまえば、メンバーそれぞれが大爆発するだけで良かったから、それに甘えちゃってた。ああいうスタイルは、逃げ道いっぱいあるんですよ。ちゃんと唄わなくても誤魔化せるというか」
勢いや破壊的な雰囲気にまぎれてしまえるから?
「そう。リズムが入ってくるとお客さんも乗れるから、それに甘えちゃえるの。弾き語りだと逃げらんない。お客さんも別にジャンプしないし。だからイベントになると不安なんだけど、どのバンドもみんな四つ打ちでやってる中に俺が出てって、弾いて、そこで大合唱とか起きたりすると、たまんないんですよ。お客さんと俺の声でここまでの空気作れるんだって。もうこれ、OASISだと思った。一人OASIS。バンド編成のライヴはもちろんやりたいよ。でも俺が身を持って体験した弾き語りの形も続けていきたいんだよね」
でも分ける感じじゃないんだよね。峯田和伸の弾き語りと、銀杏BOYZというバンド、という形に。
「ないないない。全部銀杏BOYZ。峯田和伸って名前では音楽活動したくないもん」
何で?
「簡単に言うと、恥ずかしいから。峯田和伸って、芸名じゃなくて本名でしょ。だから、銀杏BOYZって名前が身代わりになってくれるんだよ。俺は、銀杏BOYZの名の元であれば、いくら攻撃されても、いくら叩かれても平気なの。盾になってくれる。これが峯田和伸としての活動になると、直接刺さってくんのよ。ゴイステの後期とか、すごくキツかった。だんだん規模が大きくなって、〈ありがとう〉とか〈頑張れ〉って声が増えると同時に、ネガティヴな言葉も増えて、逃げらんなくてさ。銀杏BOYZになってもそうだったんだけど、でもある時期から、もう〈銀杏BOYZの峯田〉になろう、って思ったの」
本当の自分自身は心の奥に隠すというか。
「そう。ステージ入る直前にルーティンみたいなあることをやって、それやったら銀杏の峯田になるんですよ」
そのルーティンってなんなんですか?
「教えない」
いいけど、みんな、〈峯田はルーティンでライヴ前にオナニーするんだろうな〉って思うに違いないよ(笑)。
「はははは、しねえよ! 言っとくけど俺のバンド人生、ライヴの前は禁欲してっから! ライヴ終わったらすぐ出すけど」
くくくく。
「そうやって〈銀杏BOYZの峯田〉を意識するようになったら、音楽的なものを求めるようになってくんの。まあ今は〈生きたい〉が完成したからこういうモードなのかな。でもこないだ〈東京〉を越える新曲ができたんですよ。それをライヴでできるのが楽しみで」
それはもうメンバーと合わせたりしてるの?
「まだこれから。今歌詞作ってるけど、メロディは大体出来てる。〈BABY BABY〉タイプの曲は作れんのよ。でも〈東京〉みたいな曲って、待ってくれてる人は多いんだけど、作るのが難しいの。でも、やっと出来た」
そもそも、今のサポートメンバーでやる経緯は何だったの?
「リズム隊はバラバラで入れるんじゃなくて、もうお互いのノリを知ってるヤツがいいな、と思ったの。それで、解散してたandymoriのメンバーを誘ったんだよね。ギターの山本幹宗は、自分から『俺に銀杏BOYZでギターを弾かせてくれ』って来たの。初対面なのに。でも俺、そういうやつ好きだから」
なんて言ってきたの?
「初めて会った日の夜に、二人で中野新橋で呑んだの。あいつ酔っ払ってきて、饒舌になってきて『俺、〈ぽあだむ〉のギターだったら、日本で一番うまく弾けますよ』って。それが一番忘れらんない(笑)。でも幹ちゃんは、元から持ってるものがあんの。ただ彼自身の中にいろいろ邪魔してるものがあるから、それを取り除いていけたらもっといいんだけどね。うん」
その取り除いていきたいものが、きっと、峯田くんが本質的にバンドメンバーに求めてるものなんでしょうね。
「うん、そうだね。まあ言っちゃえば、俺がそこまで踏み込んでいいのか?ってことなんだけどね。これ以上いったら結婚しちゃうんじゃねぇか、セフレのままのほうがいいんじゃねぇか、って」
つまりそれって、相手の心に踏み込んで、その関係が壊れちゃうのが怖い、ってことでしょ?
「最近の俺の気分なのかもしれないけど、全部わかり合うより、わからないままのほうがいいな、って思いもちょっとあって。それは恋愛にしてもそう。前は、相手のこと全部わかろうとして、自分のことも全部わかって欲しくて、裸になって、汚いところも全部見せ合って。その中から共通言語を見つけて、ふたりだけの秘密を共有してやっていこう、って感じだった。けど、疲れちゃうんだよね。実際俺も、それでバンド壊しちゃったし。今はわからないまま、勘違いのまま、いいものが作れればいい気がする」
なるほどね。
「メンバーが抜けて、関係が壊れて、実際バンドは停止状態になったわけで。それは勝ち負けで言うと、どう見ても負けなんだけど、俺、そうは思ってないのね。引き分けたんだよ。大それたこと言えば、ずっと世の中とか世界に対して、戦ってたわけさ。〈絶対あいつらに負けない〉って。あいつらって、誰だかわかんないんだけど(笑)、俺以外の外の世界に対して、音楽っていう武器で戦いに行ってた。あっちが死ぬか、俺が死ぬかの勝負だった。でもまだ、負けてねえんだ。この関係はずっと続くと思ってたヤツらがみんないなくなって、独りぼっちになっても、俺は負けたとは思ってねぇの。俺が生きてて、俺から歌が生まれる限り、まだ勝機があると思う。世界を覆せる。みんながいいと思ってるもの、みんながカッコいいと思ってるものを、俺はさっぱりカッコいいと思えない。その気持ちは、17歳くらいからずっとあるのよ。もう38歳になるけどまったくそこはブレてないわけ。相変わらず世界に対して、〈お前らがカッコいいと思ってるものはそんなものなのか?〉〈俺が本当にカッコいいと思ってるものを見せてやる!〉って。一人になってもその戦いは終わってない。ただ戦い方を変えないと、共倒れしちゃうんだなってことはよくわかったから。俺が世界に勝つためには、戦い方を変えないといけないんだ、って」
だから、今までみたいに仲間を見つけて、共通項を見つけて、みんなで外に向かって戦おう!ってやるつもりはない、と。
「うん、俺には親もいるし、兄弟もいる。スタッフもいる、好きな人もいる。お客さんもいる。そういう人たち全員が死んでしまって、俺だけが残される、のはキツいんだ。前は自分の何かをみんな共有してて、わかってくれてると思ってた。だからどんなに俺が無茶したって、みんな〈外の世界と戦う〉つもりなんだから、絶対わかってくれるって。でも気づいたら、みんないなくなってた。だから一人で生き残って世界に刃向かってるより、周りが笑って楽しそうにやってるほうがいいんじゃないかな、って思ったんだよね。だからこの間のライヴで〈大人全滅〉って曲をやったの。あれは、今唄わなくちゃなって思ったから」
GOING STEADYの「DON’T TRUST OVER THIRTY」をアレンジ変えてやったんだよね。
「うん(笑)。でも、この歳になって思うことはあったんだよね。ちょっと前までの俺はさ、自分たちは絶対正しいとか、今自分たちが幸せなんだからそれでいい、みたいな感じだったけど、でもその裏で、泣いてる人が絶対いるわけじゃん。みんなで幸せになりましょう、なんてことはありえなくて。99人笑ってても1人は絶対泣いてる。なのに、100人みんなで笑いましょうなんて考え方、それ自体、俺はどうかしてると思うの。それで今回〈どうかこの世界が、ひとつになれませんように。〉ってコピーをつけたんだと思う」
それってつまり、罪の意識、だと思うんですよね。どこかで泣いてる人がいることを知る、というか。
「うん。唄わなきゃいけないことが、音楽演ってきて17年くらい経って、ようやく見え始めてきてるんだよね。俺、LINEやってないけど、今はみんなやってるじゃないですか。ああいうのが普及したおかげで、誰もが秘密を前より簡単に持てるようになってさ。彼女と一緒に暮らしてても、脇でテレビ見てる彼女をよそに、自分は他の女とLINE出来るわけでしょ。そういう時って、相手に対する多少の罪深さはあると思うけど、すごいライトでマイルドな罪の意識だと思うんだよね。昔、携帯もない時代はさ、用意周到に公衆電話から電話して〈何月何日にどこで待ち合わせ〉って、手帳にそのままメモしたらバレちゃうから、偽名使ったり、憶えるようにしてたでしょ。でも今って、簡単に出来るじゃん。もし罪ってものに体重があったら、軽くはなってるんだよ。それは自分にも身に覚えがあるし。だからなんか、気持ち悪いんだよな」