自分を断罪しないと進めねぇって思った。今の俺にとってのロックは罪があった上で抱きしめる姿にあって。だから最初の音源は「生きたい」しかなかった
その身に覚えっていうのは?(笑)。
「いっぱいあるよ! だからもう、自分を断罪しないと進めねぇって思ったの。世界と戦う、ってさっき言ったけど、でも一番キツイのは、自分の中にある誰にも言えないような罪悪感。これがある限り、進めない気がするんだよね。〈BABY BABY〉は、19歳の時に作った簡単な歌で、抱きしめていいですか?って歌なんだけど、当時の俺は、まだ女の子と付き合ったこともない童貞だったのに、そんなこと書いてた。でもたぶんあれが、俺の中にあるすべてなんだ。まったく罪を感じてない、純粋な気持ちで好きな人を抱きしめたいと思う気持ちと、抱きしめる相手にちょっと罪の意識を持ったまま抱きしめる気持ちなら、後者のほうがロックだなと今は思ってて」
ほう。
「俺にとってのロックは、罪があった上で抱きしめる姿にあるんだ。ほんとにまっさらで、大好きで、相手のことも100%信じてるってものは歌にしたくないし、自分の中にもうないものなのよ。嘘だろ、って思うしね。俺が唄わなくちゃいけないのは、恋人がいなくて奥さんもいなくて一人で寂しいっていう〈寂しい〉じゃなくて、恋人がいるのに、結婚もして子供もいるのに、家族もいて友達だっているのに、何故か感じる寂しさ。こっちの〈寂しさ〉を唄いたい。どっちがタチ悪いかっていうとね、こっちだと思うんだ。で、これはたぶん取り除けないから。それをわかった上で抱きしめないとダメじゃねえかなって。だから今回は、まず自分がそういう〈寂しさ〉や罪を抱えた生き物なんだって断罪しないと、始まんないと思ったんだよね」
この三部作は、その断罪という行為をやらなきゃという思いが最初からあって書き始めたんですか?
「や、最初は自分を疑ってなかったの。〈人間〉はシンプルな対・世界。〈光〉は一歩も外に出れなくて部屋の中。対・世界じゃなくて、自分側の世界。で、やっと今回〈生きたい〉で部屋から出た。その瞬間に自分の黒いところもバレちゃうけど、でも、それでもいいからって」
部屋から出るというのは、銀杏BOYZが一人になって、これからまた始めようとしてる自分にも結びついてるというか。
「うん。アビちゃんチンくん村井くんがいなくなって、その状態でなんかやろうってなった一発目の音源は〈生きたい〉しかなかったんだよ。これをまず出してからじゃねぇと動けなかった。しっかりしてて生活力もあって、家族もあって、ちゃんと生活ができてる人からしたらさっぱり響かないかもしれないけど、そんな人ってあんまいない気がするんだよね。ちゃんとしてるんだって思い込もうとしてるだけというか」
自分自身もそういう感覚があったわけですよね。で、みんなそういうところがあるんだから、ひとつになれるわけない、というか。
「そう。だから〈この世界がひとつになれませんように〉って思うし、バラバラでいいって思うんですけどねぇ」
でもバラバラでいようとしないですよね、みんな。
「俺、スマホでネット見るけど、誰かを叩こうって流れになると、みんなその流れに乗っちゃって、そこの書き込みを読んだ上で書くでしょ。場の流れを見ながら書くから、自分の本心はさっぱり書いてないんだよ。自分の前に誰かが書いた書き込みとか見れないようにすれば、みんな絶対バラバラなはずだよ。映画のレビューでも何でも、鑑賞したあとに自分の自然な感想をただ書けばいいのに。でも絶対さ、他のレビューはどう書いてるか気になって、それをチェックしてから書いてる。それがすごく危険なんだよね。俺インターネットすごく使うから、いいところはもちろんあると思ってるけど、でもそうやって意見が右ならえにされていってしまうところが、すごく気持ち悪い」
一人誰かが叩かれたら、これは叩くもんなんだなと認識してどんどん加勢していきますからね。
「そう。だからみんなで考えることもしなくなっちゃうし、自分の本心を隠したがる。これから世の中がどんどんそういう流れになっていくかもしれないけど、最初に自分の中で自然に生まれた気持ちを、俺は忘れたくないんですよね。好きでも嫌いでもヤリたいでも何でも、それが社会のルールから外れててもいいの。それがあって初めて、本気で他の人と握手できると思う」
そうですね。あと、最初に話に出た、自分にもう時間がないというか、老いていく実感をリアルに感じることが、自分に影響してるとは思いますか?
「思うよ。やっぱ自分の命って有限だし。俺、こないだ携帯をテーブルからポロって落としちゃったの。そんな大げさな落ち方しなくて、〈あ、落ちた〉と思って拾い上げたら、電源ついてんだけど、画面真っ暗でさ。俺パソコン持ってないから、その携帯に新曲の音声データに、デザインで使おうと思ってた画像や写真とかエロ画像とか全部入れてたの」
エロ画像(笑)。
「しかも4万枚もあったんだよ。それ修理に出したんだけど、動画と画像はパーだって。音声ファイルもパー。だから、無限だって思ってるものって、実はないんだってことなんだよね。今iTunesとかあって、CDやレコードを買わなくても音楽とか簡単に携帯で聴けるじゃん。機械さえあればこのデータはずっと自分のものだ、ずっと聴けるって思うかもしれないけど、それ大きな間違いでさ。なんかのきっかけで一気に消えるんだよ。人間と同じで、打ちどころが悪ければ弱いパンチでも死ぬわけさ。例えば俺が25歳の時だったら、これもあれも唄いたい、とかあったんだけど、昔に比べれば限られてくるんだよね。このあと何年、俺は何を唄えるかって考えたら、もう取捨選択して、これをまず先に唄わないととか、だんだんはっきりしてくんだよね」
何を唄いたいか、何をやんないといけないかって。
「だからといって、今やりたいと思ったこと全部やろうとかそういうことでもないんだけど。降ってきたものがあったとしたら、前なら、〈今めんどくせぇからいいや〉ってなってたんけど、今は、それを大事にして捕まえないとダメだなって」
昔と違って、そういうことを感じるようになった、と。
「うん。1月のイベントでさ、コレクターズが〈深海魚〉やってたじゃない。〈あー、今の感じでこの曲聴けるのもいいなぁ〉って思った。一緒にやった〈チョークでしるされた手紙〉もさ、あれって自殺の歌じゃん。(加藤)ひさしさんの俺の中で一番好きなところは、そういう憂鬱な部分なんだよ。スーツとかで様式美を作った上で、内面がポッと出てくるあの感じがたまんない。コレクターズや当時のブルーハーツとか、あのへんのモッズやパンクって型があった上での青臭い歌。あれを拡大解釈してるだけだから、俺は(笑)。顕微鏡でそこの部分だけを映しとってる。だから、俺にとってあの対バンは、けっこう大っきい出来事だったんだ。ちょっと頑張ろうと思ったもん」
やっぱりあの青臭さを持ち続けられているのって、結局自分で何かを勝ち取って満たされた感覚がないからですよね、きっと。まだたどり着いてないから、というか。
「だと思う。たぶん逃げらんないと思うんだ。今自分は38歳だけど、ゴイステの頃から聴いてくれてるお客さんばっかりが集まるライヴは絶対したくないから。やっぱり中学生が来るようなものでありたいし、同世代の人も、年上の人も〈うわ、俺明日ギター買いに行こう!〉とか思えるようじゃなきゃ。ようは、若いヤツにモテたいってことですよ。何歳になっても20代前半の女とヤりたいってことですよ(笑)」
はいはい(笑)。年上でも魅力ある人はいますよ。
「僕もそう思ってますよ……なくした4万枚のフォルダもね、熟女フォルダだけで8000枚ある。あれが消えたのがほんとね……。また一からなんですよ……熟女8000枚消えるってキッツいなぁ……」
まだまだ家庭だとか、そういうものを求めるようにはならないですかね?
「そうですねぇ。自分のものにしちゃダメなんですよ。といって、出会い系使ってヤろうとかじゃないんですよ。そこはね、違うんだよねぇ。実際にヤっちゃう人とは」
そういう俗っぽい欲に溺れるんじゃなくて、どっかでそれを律しながら抱えつつ、頭がグルグル回った状態を抱きしめるというか。
「あー、カッコよく言えばね。俺的に言うと、最初気持ちよさもなんも知らない時は早くキスしたいとか、セックスしたいとか、そればっかり求めるけど、経験すると、実は挿入する前のあの瀬戸際が一番気持ちいいってわかるじゃない。あの気分をずっと持ってたいの。もちろん挿入してからの絶頂とかね、そういう気持ちよさもあるんだけど、それはオーガズムだから、オナニーでも一緒じゃん。でも、一人ではあの挿入寸前の二人の距離、あの見つめ合って〈挿れていいっすか?〉〈うん、いいよ〉みたいな、あの感じは作れないんですよ。触れそうで触れないところ。それが俺はすごく好き。そういう音楽を作りたい」
その感情を音源化したい、と。
「うん。カッコいい人はいっぱいいるけど、カッコいい人達ってオーガズムをちゃんと音源化してる人たちじゃん。でも俺はそこ音源化しなくていいやと思ってて。俺が音楽に求めてるものっていうのは、そういうとこじゃなくて、その寸前にあるもの。恋愛で言うとラヴストーリーではなくて、パって目が合った瞬間のことっていうか。一目惚れまでもいかない、〈これって恋かな?〉って思う瞬間。あのときめきを音源化したいの。家に帰って〈あれ? なんであいつのこと考えてんだろうな〉って思ってる、恋かなんなのかわかんない時のことを音源化したいですよ。だから俺、『さくらの唄』(GOING STEADYのセカンドアルバム/2001年作)を今の気分でもう一回作りたいなと思ってるの。あん時は23歳の俺の正直な気持ちをメロディにして音にしたけど、38歳の俺がそれとおんなじやり方でやってみたらどうなるのか。メンバーも違うし、使ってるアンプも持ってる楽器も違うんだよ。でも今の気分でそれを形にしないとって思ってるからさ」
文=金光裕史
撮影=高木亜麗