昨年11月に行われた全国ツアー〈GOD SAVE THE わーるど〉の最終日、11月30日@仙台GIGS。東日本大震災で津波の被害を受けた仙台新港から5キロと離れてない場所に約1年半前にオープンしたライヴハウスのステージにアコギを抱え出てきた峯田和伸は、目の前にいる人たちに親しみを込めながら山形弁丸出しで話をはじめた。そして、「元々のメンバーはいなくなったけど、一人でも音楽をやっていこうという気持ちで、この曲を作ったの。あの日の映像をテレビの前で見て、ぐるぐる回って何年も経ったけど、ようやく今のメンバーに会って曲ができた。そっから今日は始めたいと思います」と語り、「生きたい」からライヴをスタートさせたのだった――。 新曲「GOD SAVE THE わーるど」も披露し、サポートメンバーとのグルーヴも強固なものとなったことを感じさせたこのツアーを経て、数日後には2度目の武道館に立つ銀杏BOYZ。そんな〈今の銀杏BOYZ〉が動き出したばかりのタイミング、映像作品『愛地獄』、シングル「生きたい」リリース時のインタビューを再掲載。なお、2月5日発売の『音楽と人』にて、2度目の武道館ワンマン後の峯田和伸へのインタビューを掲載予定。こちらもお楽しみに。
(『音楽と人』2016年4月号に掲載された記事です)
過去へのけじめ、そして未来への希望と不安。ざわざわとした感情が、2つの作品を通して押し寄せてくる。銀杏BOYZが動き出すといつもこうだ。
ひとつは3月16日にリリースされる、初の公式ライヴ映像作品『愛地獄』。これはただただライヴの模様が映し出される。2008年の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO〉と、昨年9月20日に峯田和伸単独で出演した福島club SONIC いわきでのライヴ、さらに2011年7月、峯田、チン中村、安孫子真哉、村井守の4人では最後のライヴとなった〈スメルズ・ライク・ア・ヴァージン・ツアー〉のファイナル、盛岡公演。これらをすべてノーカットで収録している。カメラの数も少なく、特別なものはなにもない。合計4時間30分。バンドの空気が変わっていくのが生々しく感じられる映像。
もうひとつは4月13日にリリースされるシングル「生きたい」。「人間」「光」と続く3部作のラスト。15分11秒の激情。みずからを断罪し、そこから次へ進もうとする峯田和伸がここに居る。サポートメンバーを迎え、銀杏BOYZを再始動させようとする彼は、失ったもの、そして手に入れようとしているものに、何を思うのか。
先月のイベント(註:音楽と人主催で2016年1月18日に行われたTHE COLLECTORSとの対バンイベント)ではありがとうございました。
「こちらこそ。楽しかったですよ」
バンドの方向性が固まりつつあることを実感した、いいライヴでしたよ。
「あの日から大阪、名古屋と連チャンでライヴして、だいぶバンドが固まってきたかな。名古屋は東京よりもっといいライヴができた」
バンドが固まってきた実感はどこに現れてきましたか?
「ちゃんと聞いたわけじゃないけど、サポートメンバーの佇まいから、かな。彼らもいろいろ考えたと思うけど、100回練習入っても、1回の本番には敵わない。だからこのサポートメンバーで、バンバン、ライヴやるしかないなと思う」
サポートメンバーを迎えて銀杏BOYZを続けていく決意はずいぶん前から聞いていましたけど、新たなメンバーとやってみた手応えはどうでしたか?
「前回の取材で、あびちゃん(安孫子真哉/前ベース)、チンくん(チン中村/前ギター)、村井くん(村井守/前ドラム)は結婚相手だったって話したでしょ? それに比べたら今の3人は、まだ付き合いたての彼女みたいなもんだよ。これから結婚するのか?って聞かれたらそうじゃない気もするし、籍も入れない状態で。彼女なのかセックスフレンドなのか、お互いの都合のいいタイミングで気持ちいいことしようよ、って感じでやったほうが、音楽しやすいような気がして。だから、前の、4人で作り上げてたあの空気感は、もう出せないと思う。でも今の形だと、より音楽的にはなるような気がする」
なるほどね。
「前はね、誰よりもバンド感はあったの。だけどアンチ・ミュージックなところがあって。イベント出たら、その場にどれだけインパクトを残して帰れるかどうかが大事だった。でも俺も、自分の人生を逆算するようになり始めて。音楽の世界における銀杏BOYZのポジションは、このままでいいのかな?ってふと疑問に思ってさ。俺、もともと音楽がすごく好きだから、ライヴで暴れてインパクト与えるだけじゃなくて、音楽やりてぇな、って気持ちでいるんだよね、今は」
じゃあ、なんとしてでももう一回結婚したい、って、求婚活動に必死になる予定はないんだ。
「そうだね。25歳くらいなら、そうなってたかもしれないけど」
ああ、年齢とか時間的なことも気になるんだね。
「何かがなくなってく感じが、自分の身体や周囲にポツポツ出始めていたんだよね。そうなった時に、なくなってくものを追いたくはなくてさ。ちゃんと自分に残っててくれるものを生かしていこうと思った。それが、自分にとっては声だったんだよね。この声を壊さないで、広げていきたい、と思ってる。ここ2年くらいは」
何かがなくなっていくことは、寂しいものですか?
「寂しいとはあんま思わねぇな……しょうがないな、って感じ。ヒトの細胞は毎日変わっていくって聞いたことあるけど、60個の古い細胞が消えても100個の新しい細胞が生まれてたのが、今は新しいのが90個くらいしか生まれてないのがなんとなくわかるんだよ。だから、前の銀杏BOYZが持ってたあの感じをやろうと思うと、それは演出になっちゃう。本当は自分に90しかないのに、100あるように見せようと10を演出する。そんな姿を見せるより、今の自分が持ってるものを広げて見せたほうが気持ちいいし、有益だなと思った。最初からビジョンに固められちゃうと、疲れちゃうんだよね」
じゃあ、ようやく完成した『愛地獄』という映像作品は……。
「けじめ(キッパリ)。バンドメンバーと結婚してたこれまでの自分へのけじめ。でも同時に、一人でやってたライヴも入れて、音楽やってくぞ!ってなってる俺の姿も同時に見せたかった。だから去年、弾き語りでやったライヴも入れたの」
嫁に逃げられた男が、結婚してた頃の幸せなホームビデオを観るようなもんでしょ?
「そうね(笑)。DVDを作ろうって話は、結構早い段階からあったんだよ。でも、その素材を観るのが怖くて。4人でのライヴの映像観るまでに、すごく時間かかっちゃった……だってキツイじゃん! 本棚掃除してたら、たまたま本と本の間からポロっと何か落ちてきて、なんだろ?と思って拾ったら、前に付き合ってた女の写真。それも笑顔、とかそんな感じだもん。でも俺、編集に携わってるから、全部ちゃんと観ないと進まない。だから周りからせっつかれるまで放置して〈観なきゃなあ…………でも、やっぱ無理!〉の繰り返し。だけどこれは出すべき作品だし、出さないと自分が次に進めないと思ったから、腹括ってちゃんと観た」
それを観てどうでしたか。
「面白いよ……当事者じゃなければね(笑)。2008年と2011年に銀杏BOYZでやったライヴが入ってるんだけど、その3年間でみんなだいぶ顔つきが違うんだ。2011年のライヴは、結果的に4人で最後のライヴになったけど、その時はみんな辞めるなんて思ってないし、ツアーやりきった!って顔してるんだけど、4人で最後のライヴだったなって思えてしまう姿もあって。いい映像残せてよかった」
2枚組で、どちらにも最後にシャワーとトイレのシーンがあったんですが、洗い流す、という意味合いのように思えました。
「うん……まあ、ずっとライヴ映像だと力が入っちゃうんで。いい食材はね、いい状態で食ってもらわないとほんとに美味しいと思ってもらえないんで、ああいう味噌を入れないと(笑)。あとエンディングの前に入ってるのは、中野の公園で弾き語りで唄ってる〈イラマチオ〉って新曲」
もうこの映像作品を最後に、振り返らない、と。
「うん、もう振り返らないよ。けじめもついた。だって、銀杏BOYZのライヴ、観たことない人が多いんだよ。2011年の最後から、ずっとレコーディング期間に入っちゃったから。みんな名前は知ってても、どんなライヴしてんのかな?ってなった時、YouTubeとかで観るしかないわけ。だから勝手に〈銀杏BOYZのライヴはすごいらしい〉って噂が一人歩きしてんの。それは自分にとって、あんまりいい状態じゃないんだよね。だから、ちゃんとオフィシャルのライヴ映像を残さないとダメだ、と思ったの。ドキュメンタリーじゃない、純粋なライヴDVDは自分でも出したかったんで」