前作『VECTOR』で、「ようやく吹っ切れた」と語っていた田邊駿一(ヴォーカル&ギター)。その後のツアーでも、彼ららしい熱さとパワフルさを兼ね備えたライヴを繰り広げていたので、次はそんなバンドのモードが反映された作品が出来上がるんだろうな、と予想していたが、ほどなくして届いたニューシングル「FREEDOM」は、その予測や期待を見事に裏切るものだった。英詞で始まるオープニングに、音数を削ぎ落とし、スケール感を重視したサウンドとアレンジ。エネルギーに溢れるというよりは、感情の昂ぶりを少し抑えた、毅然としたロックナンバーで、言ってしまえば彼らのイメージとは少し異なるところで鳴らされた一曲だ。なぜこういった曲がこのタイミングで生まれたのか、田邊に話を聞くと、その背景にあったのはやはり常につきまとう不安や迷いであり、それを振り切って前に進んでいこうとする、とてもBLUE ENCOUNTらしいがむしゃらで真っ直ぐな姿だった。
(これは『音楽と人』2018年12月号に掲載された記事です)
私どうしても田邊さんと話したかったことがあって。
「え、なんすか!? 怖い怖い!」
あ、ブルエンのことじゃないんですけど(笑)。
「なんだっ!(笑)。なんです?」
8月のエルレガーデンのライヴ、どうだったかなと思って。
「ああー! いや、もうね、続けることと、止めることと、止めたものを元に戻してやり始めることの大変さというか、改めてバンドってすげー尊いなって思いながら観てましたね。でも一番は夢があるなって思いましたよ。10年以上前に出した音源が、育ちに育ってあんな景色が見れたわけじゃないですか。もちろん当時も、相当な動員数を誇ってたバンドでしたけど」
でも、活動休止前よりもモンスターバンドになってましたよね。周りの熱量や盛り上がり方もすさまじいものがあって。
「チケットの応募が何十万件来た、みたいなニュースも出てましたしね。それって活動してなかった10年の間にも新たなお客さんがついたってことで。だから俺があのライヴを観て最終的に思ったのは、たとえ足を止めても、音楽を聴き続けてくれる人たちがいて、メンバー自身もそれぞれ動き続けていれば、エルレって存在は生き続けるんだなって。人によっては空白の10年って言うかもしれないけど、あのバンドは止まってなかったんだなってすごく理解できたというか。そう考えると僕らは、まだまだだなって」
まだまだっていうのは?
「今俺らが止まったとして、周りの人たちは足を止めずにいてくれるかっていったら、まだ自信がないので。もしかしたらいつの間にか忘れられちゃうかもしれない。だからこそ、それは一つの糧になりましたね。ついてきてくれる人を増やすっていうのももちろんだけど、その人たちの中でBLUE ENCOUNTっていう物語が進んでいく、そういうものになれるようやっていきたいなって思えたというか」
自分たちだけじゃなくて、聴いた人の思いも曲に乗っかって、その存在がどんどん大きなものになっていくというか。
「そうそう。じゃあそうなれるようにはどこから始めよう?みたいなことはメンバーでもすごく話し合って。そこで出た究極の結論としては、自分たちがカッコいいと思う曲をしっかり作っていこうっていう単純なことで。これを求められてるからそういうものを作る、とかじゃなくて、俺ら4人のテンションが上がるものをもう1回考え直して、正直に作っていきたいなって」
そうなった時に、アニメの主題歌として新曲を書き下ろすっていうのは、ちょっと足枷だったんじゃないですか?
「普通そうなんですけど、今回はむしろすごくいい機会をいただいたなと思っていて。っていうのも、ブルエンのやりたい曲、自分たちが今カッコいいと思う曲っていうのを考えた時に、やっぱり今までのブルエンらしさ、みたいなものを裏切りたいって思ったんですよね。で、『BANANA FISH』のオープニングテーマの話をいただいて、制作チームの方たちから、『今回はBLUE ENCOUNTの熱さというものを一旦考えずに作ってください』って言われたんですよ」
あ、そういう要望があったんですね。
「はい。やっぱりBLUE ENCOUNTのパブリックイメージってそこなんですよね」
いわゆる熱さとか根性論とか。
「それは間違いなく俺らの武器ではあると思うんですけど、でもそれだけしかやらないわけでもないから。それこそ前作の『VECTOR』ではちょっと大人っぽいオシャレな曲をやってみたり、バラードの超しっとりした曲もやってきてて。ただどうしても、これまでのシングルで見せてきたような熱い部分がピックアップされがちで。だから今回は、アニメのチームの方にそう言ってもらえたこともあったから、タイアップだし、シングルの表題曲ではあるけど、セオリーに沿らないでやってみようと」