リーガルリリーのファーストEP「the World」は「東京」という曲で幕を開ける。ここで描かれているのは、東京都福生市の近くで生まれたたかはしほのか(ヴォーカル&ギター)から見た「東京」という街のことではあるのだが、それ以上に彼女自身の生き方や心の在り方が浮かび上がってくる。これまではおとぎ話の世界へ連れていくように、浮遊感あるサウンドと幻想的な言葉を使うことも多かった。しかしこの作品では、タフなバンドサウンドが響き合い、たかはしが紡ぐ言葉も飾らない素直なものばかり。何が正しいのか、未来がどうなるのか、そんな不安や暗闇を撃ち抜くような大きな光のエネルギーに満ちている。その変化について、たかはしに話を聞いた。初めてインタビューした10代の頃から彼女は少しも変わらず、でも確実に自信をつけて逞しくなっていた。進むべき道が見えなくなったら、この一枚を聴いてほしい。彼女たちが放つ光が未来へ導いてくれるから。
(これは『音楽と人』5月号に掲載された記事です)
前作『bedtime story』とは雰囲気の違う3曲が揃いましたね。
「リーガルリリーのライヴの衝動や攻撃的なところが素直に出た3曲になったんじゃないかなと思います」
そういう曲を作ろうと思ったんですか?
「いや、コロナ禍で自然とこういう曲が生まれていきました。去年の夏くらいから曲を作って、最初に思いついたのが2曲目の〈地獄〉で。そのあとに〈天国〉と〈東京〉ができていったんですけど、その時にはEPにしようとは思っていなかったので」
この曲を作っている時はどんな状態でしたか。アルバムツアーが中止になってしまい、バンドの動きもストップしていた時期だと思うんですが。
「隠さずに言うと、何も楽しいことがなくて、ずっとお酒を呑んでました。何もしてないと悪い思考のループに入ってしまうので、それから解放されようとしてたんですけど。でもお酒じゃ全然解放されなくて、やっぱり曲を作り始めました」
バンドを続けられるんだろうか、みたいなことを考え込んでしまったんですか?
「そういうのはないですね。もっと生活のことというか、周りで起きてることについていけなくて。寂しかったんですよね、コロナになって。メンバーにも会えない、ライヴもできない。それを最初はお酒で埋めてたんですけど、やっぱりずっと寂しくて」
曲を作ることでその寂しさが埋まったと。
「はい。音楽を作ることで未来が見えて、すごく前向きになれました。高校2年生ぐらいの時からライヴをしてきて、ライヴが息抜きみたいな感じだったんですね。それが一切なくなってしまったから、曲で発散させるしかなかったんです。曲を作ることで、自分の気持ちがかなり整理されました」
曲が作れないって人もいましたけど、そうはならなかったんですね。
「それは全然ならなかったですね。私が曲作れなくなる時は、好きな音楽を聴かない時なんです。でも去年はけっこう音楽に救われたので、いろんな曲を聴く中で、私も曲を作って発散させたいなっていう思いが自然と湧いて。それが高校の頃に音楽を始めた時の感覚にすごく似ていたんですよね。〈あ、私こういう感覚から解放されたくて音楽を始めたんだな〉って、原点回帰したんです」
〈こういう感覚〉とは?
「うーん、支配みたいな? 〈何々しちゃダメ〉とか。学校はそういう息苦しさがあったから、苦手だったんですけど、コロナにも同じものを感じて。外に出ちゃダメとか、ライヴしちゃダメとか。だから外に出ず、家にこもって曲を作って。学校行かないで部屋にこもって音楽聴いて曲作ってた頃と同じ感覚。それがちょっと面白かったというか」
面白い、なんですね。
「ずっと考えてること一緒なんだなと思って、うれしかったんです。高校生の時に音楽をはじめて、だんだん大人になっていって、私すごく変わっちゃったなと思ってイヤになる時があったんです。大人になるにつれていろんな人の影響を受けるじゃないですか。それがアカみたいに自分にまとわりついて、徐々にダサくなってる気がしてすごく辛かったんですけど、考えてみたら根底は一緒だなと。自分がどうして音楽をやりたいのか、どういう時に曲を作りたいのか、曲を作ったらどういう気持ちになるのか、そういうものは変わってなかった。だからコロナはイヤだけど、こういう機会がなかったら、なあなあで音楽を続けていたかもしれないから、考えるいいきっかけになりました」
立ち止まったことで、あらためて自分を見つめることができたんですね。
「はい。私、けっこう流されるタイプなんです。時代に流されて悪い意味で変わっていくのかなって思ったんですけど、コロナで周りがけっこう変わっていったのに、私は変わらなくて。ちゃんと自分の足で立ってたんだって、自信持てました」