【LIVE REPORT】
フジファブリックLIVE&ONLINE〈I FAB U FAB ME〉[2nd]
2020.11.13 at KT Zepp Yokohama
「恩返しの思いを込めたツアーが中止になってしまい、全国の皆さんに恩返しが済んでいない事を感じた」
バンドのオフィシャルHPに掲載されていた、今回のライヴ開催に至った彼らの思い。この一文に、どこまで誠実な人たちなのだろうと胸が熱くなった。
フジファブリックが11月13日にKT Zepp Yokohamaで開催した公演〈I FAB U FAB ME〉。このライヴは、彼らの切なる思いから実現したと言っても過言ではないだろう。もともとは昨年デビュー15周年を迎えた彼らが、ファンへの恩返しの思いを込めて今年の2月より全国ツアー〈I FAB U〉を行っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によりやむを得ず中止に。それにより、彼らは感謝を伝えきれなかったもどかしさをずっと抱えていたが、また新たな形で恩返しのリベンジを果たす形になったのだ。当日は客席を1席ずつ空け、キャパシティも50%以下に抑えて1日で2公演開催することになったが、2公演目はバンドとして初めて生配信も同時に行うことが実現。この複数の開催形態からも、会場に足を運べないファンにも感謝を伝えたいという彼らの思いの強さが窺えた。このレポートでは、会場で実際に観た上で、場内の温度感なども交えながら感じたことを綴っていく。
「今日はここからまた新たな絆を見つけていく日です。最高の夜にする準備はできてますか?」。山内総一郎(ヴォーカル&ギター)の呼びかけに応えるように、大きな拍手を鳴らす観客。コロナウイルス感染防止のため、当然観客はマスクの着用が必須で、声を出すのはNG。それでも、メンバーも観客もライヴハウスで久しぶりに再会できた喜びが内側から溢れていることが伝わってきた。そのせいか、開演前は客席が1席ずつ空いている見慣れない光景に寂しさを感じてしまう瞬間もあったのだが、いざ始まってしまえばそんなことはどうでも良くなるほど、序盤から場内は熱気に包まれていた。
1曲目に披露されたのは「破顔」。〈会いたい人に会えたかな〉〈ただ息をする今日という日が何より素晴らしいことさ〉〈闇を切り裂け さあ鳴らそう 遮るものは何もない 何もない さあ行こう〉――曲中で綴られた言葉一つひとつがどうしても今の状況と重ね合わせずにはいられなくて、心に深く突き刺さる。この曲は15周年を祝して昨年開催された大阪城ホール公演のラストでも披露されたが、あの時とはやはり聴こえ方が違う。音楽を通じて心を通わせながら同じ時間を共有できることは、なんて奇跡的で幸せなことなんだろう。この「破顔」からの始まりが、よりその気持ちを増幅させた。サポートドラムの伊藤大地をはじめ、ステージ上の4人も同じ気持ちなのだろうかと思うくらい皆表情が活き活きとしていたが、普段は菩薩のような温かい空気感を醸し出している加藤慎一(ベース)が、自ら前に出て観客を煽るシーンがこの日はいつにも増して多い気がした。加藤は意識して落ち着きのある雰囲気を保っているわけではないはずだが、そんな彼が心の底から楽しそうな笑顔でいると、ついこちらも嬉しくなってしまう。そして、来年こそは彼の故郷である石川・金沢で開催予定だった生誕祭ライヴが無事に行われることを切に願っている。
山内の故郷である大阪という場所、そしてそこで出会った大切な人たちへの思いを綴った楽曲「手紙」が披露されると、やはり昨年の城ホール公演を思い出さずにはいられなかった。山内にとって、城ホールはデビュー前からの夢の舞台であった。そして当日は見事ソールドを果たし、ベストな環境で夢を叶える彼らの姿を観客が見守る、という感動や祝福が入り混じったあの温かい時間……そういえば、あの時も彼は「来てくれた人に贈り物ができないか」という思いから制作した楽曲「Present」を弾き語りで披露していた。今回のライヴの開催に至った経緯といい、改めて律儀な人たちであることを痛感したし、あくまで音楽を鳴らすことで応援してくれている人たちと向き合っていくんだ、というロックバンドとしての矜持も感じられた。
本編のラスト、「僕らが皆さんのこの先の光になりたいと思います。大変なことはあるけど、皆さんの光ある未来を願って唄います」という言葉とともに披露されたのは、6月に配信リリースされた新曲「光あれ」だ。〈光あれ/歩き出すあなたに/遠くまで 降り注ぐように〉という歌詞から、まるで暗闇に射す一筋の光のような印象を受ける楽曲だが、この日改めて聴くと、手を差し伸べてくれているかのような逞しさも宿っているような気がした。配信リリースされた直後にこの曲を聴いた時は、どこかトレンディドラマを彷彿とさせるようなキラキラとしたサウンドが新鮮でそちらにばかり気を取られていたのだが、きっと今日までの間に行ってきた配信ライヴだったり、様々なシーンで披露していく中で、日に日に彼らの思いやバンドとしての覚悟などが積み重なって楽曲自体が育っていったのだろう。正直、期待以上に味わい深い仕上がりになっていたので、今後ますますこの曲がどう進化していくのか非常に楽しみになった。
恩返しという名目で開催された公演ではあるものの、「光あれ」の力強い演奏に始まり、この日彼らは音楽を通じて観客に対してエールを送り続け、結果的には倍以上のパワーをもらってしまった気もする。恩を返しても返してもキリがないなと思う反面、与え合うこの関係性が何かに脅かされることなく、ずっと続いていけばいいなと心の底から思った。冒頭で述べたように観客は声出しがNGなので、タイトルになぞらえて「I LOVE YOU」だとか、ステージ上の彼らに対して言葉で思いをぶつけることはできない。だが、明確な言葉になんかしなくても、相思相愛っぷりを肌で感じるような時間だった。それに、決してメンバーの一方通行な恩返しにならなかったのは、観客の拍手があったからだろう。正直、このライヴを観るまで、拍手がこんなにも温かくて感情を如実に反映するものであることを私は知らなかった。コロナ以降、いろんなアーティストの有観客ライヴで、観客が拍手で反応を示す場面を見てきたが、このライヴでの拍手はいい意味で異色だったのだ。本編終了時とかのクライマックスだけでなく、冒頭から最後まで1曲終わるごとに、メンバーが声を発したり次の曲の演奏が始まるまで鳴り止むことはなかったし、〈ライヴを開催してくれてありがとう〉〈これからもついて行きたい〉といったバンドへの思いや愛情が乗っていることがしっかりと伝わってくるものだったので、今でもその温かな拍手が忘れられずにいる。そして、メンバーが喜びを噛みしめるような表情で拍手に耳を傾ける姿にもまたグッときたのだ。
この日のライヴ中、もう一つこのバンドの良さを感じたのは、今できることを最大限に楽しむ姿だ。例えば、金澤ダイスケ(キーボード)が曲中に「がちょ~ん」を披露し、それに合わせてカメラマンも画面を揺らしてみせたりと、配信の特性を活かした新たな遊びを見つけてしまう瞬間だったり、1席ずつ客席の間隔を空けなければいけないことに対しても、「私、このスタイルわりと好きですよ。こちらからも皆さんがよく見えるし、〈あ、そんな踊り方してるんだ〉みたいに発見もあります(笑)」とポジティヴな発言をすることで、ルールに雁字搦めにされた状況をも笑いに変えてしまったりと、どんな空間であっても、このバンドのライヴは張り詰めた心を一瞬で解してしまうような温かい空気で満たされることを実感した。
そして、今日12月2日にはアコースティックライヴ〈FABRIC THEATER 3〉を開催することが発表された。最後に開催されたのは2017年なので約3年ぶりの開催となるが、安全面などを考慮しながらこの状況下でも負けず、ファンに音楽を届けたいというバンドの思いから実現したのではないだろうか? いちいち開催に至った背景を勘ぐってしまうのもどうかと思うが、彼らのファンに対する実直な向き合い方から、そう思いを馳せずにはいられない。思えば、フジファブリックというバンドはこれまでにもいくつもの〈はじまり〉を提示して、歩みを止めることなくたくさんの景色を見せ続けてきてくれた。それはこれからも変わらないし、この日のライヴでより強固になった絆と共に、彼らは音楽を通じて生きる糧を与え続けてくれるはずだ。そう、自信を持って言い切れる。そのくらい、彼らの人間性と音楽をいつまでも信じ続けたいと思えるような公演だったから。
文=宇佐美裕世
写真=森 好弘
【SET LIST】
01 破顔
02 Green Bird
03 Sugar!!
04 LET'S GET IT ON
05 robologue
06 若者のすべて
07 手紙
08 Feverman
09 星降る夜になったら
10 LIFE
11 光あれ
ENCORE
01 SUPER!!
02 STAR
LIVE&ON LINE アコースティックライヴ〈FABRIC THEATER 3〉
公演日 2020.12.02 (水)
場所 東京・EX THEATER ROPPONGI
開場/開演 15:00/16:00
料金 [ライブチケット]前売:全席指定¥7,100(税込)+1Drink代込み
※電子チケットのみ
問い合わせ先 ディスクガレージ 050-5533-0888
発売日 2020.11.28 (土)
※上記公演は終了しました
公演日 2020.12.02 (水)
場所 東京・EX THEATER ROPPONGI
開場/開演 19:00/20:00
料金 [ライブチケット]前売:全席指定¥7,100(税込)+1Drink代込み※電子チケットのみ
[配信視聴チケット]
一般配信チケット(ライブ本編のみ視聴可能):¥3,500(税込)
FAB CHANNEL会員限定配信チケット(ライブ本編+アンコール視聴可能):¥3,000(税込)
問い合わせ先:ディスクガレージ 050-5533-0888
発売日:2020.11.28 (土)
※有料生配信あり
《配信視聴チケット》
チケット販売期間:2020/11/13(金)22:00~2020/12/9(水)21:00
見逃し配信期間:2020/12/9(水)23:59まで
▽一般配信チケット(ライブ本編のみ視聴可能):¥3,500(税込)
https://eplus.jp/fujifabric-s/
▽FAB CHANNEL会員限定配信チケット(ライブ本編+アンコール視聴可能):¥3,000(税込)
https://ch.fujifabric.com/fabrictheater_haishin_ticket/
開催についての新型コロナ感染症対策ガイドラインについては以下をご確認ください。
https://fujifabric.com/info/#info-523931
NEW SINGLE「楽園」
2021.02.03 RELEASE
■期間生産盤
CD only / アニメ絵柄トールデジパック仕様:AICL-4018
¥1,200 + 税
■完全生産限定盤
CD + Blu-ray:AICL-4016 ~ 4017
¥2,200 + 税
フジファブリック オフィシャルサイト https://www.fujifabric.com/