ロックンロール。この言葉が使い古されて、むしろ時代に取り残されたもののように扱われはじめてずいぶん経つ。イントロは短め、すぐ歌から聴かせろ、ギターソロなんて無用。そんなサブスク時代のフォーマットが幅を利かせる昨今だが、それは、存在感を持つ圧倒的な、そして腹を括って向き合うロックバンドが少なくなってしまったからだ。そんな2020年。〈圧倒的なロックンロールアルバム〉と自ら言い切る作品を生み出したのがa flood of circle。『2020』と名付けた10枚目のこのオリジナル・アルバムは、その言葉に嘘はない。12曲すべてに佐々木亮介(ヴォーカル&ギター)の感情があふれかえっていて、怒りも悲しみも喜びもすべて爆発している。そうだ、こんなアルバムをきっと待っていたんだ。これを聴いたその日から、ロックンロールという言葉は彼らが独占する。ここに至るまでにあったバンドの様々なストーリー。ロックンロールがここからまた始まる。
(これは『音楽と人』11月号に掲載された記事です)
非常に多忙なようですね。
「先週まで大変でしたね。今進行中の別ユニットのレコーディングをして、アルバムのプロモーションを1日みっちりしてから、福山、宮古、大船渡、石巻で弾き語りツアー。ユニゾンのイベントに出て、教習所にも通ってます(笑)」
コロナ前より忙しい(笑)。
「でも充実してますよ。バンドマンの活動に制約はいろいろ出てますけど、やり方次第でできることはいろいろあるし、得るものもある。ライヴはもちろん感染対策をきっちりやったうえで、お客さんとの信頼関係がないとできないけど、少しずつでも扉を開いていかないと、って思います」
そして昨日は、UNISON SQUARE GARDEN主催の配信イベント(註:fun time HOLIDAY ONLINE)でした。
「みんな緊張してたな(笑)。ユニゾンと楽屋が一緒だったんですけど、ステージも、新木場スタジオコーストのフロアに2ステージ組んで、向き合ってるんですよ。出てるのがわりと知ってるバンドばかりだから、俺らがセッティングしてる時は9mm Parabellum Bulletが目の前でやってて、こっちの本番中はバックホーンがセッティングしてて。すげえ観られてる感じのバチバチ感がよかったです」
配信というスタイルには慣れましたか?
「慣れたというか……ちょっと違う話ですけど、こないだテレビの取材の時に、昔、バイト先が一緒だった先輩が収録現場に来てたんですよ。ちょっと話したんですけど、どのバンドも配信になると、お客さんがいないからカメラ用のパフォーマンスになって、カッコつけるし、カメラの向こうを観ないし、動きも固くて撮っててつまらない、って言ってて。それじゃいかんな、って思いましたね。どんだけ裸になれるかだな、って」
なるほどね。そして『2020』というニューアルバムは、前作と違って、かなり佐々木色が強く出ていますね。
「そうですね。とにかくこの何年かは、新しい体験をして、いろんな意見ややり方を取り入れよう、としてきたんですよ。ロンドンでレコーディングして、向こうのエンジニアの意見をふんだんに取り入れたし、俺は俺でソロを始めて、メンフィスでレコーディングして。そのうえで、前作の『CENTER OF THE EARTH』は、テツ(アオキテツ/ギター)が加入して初の作品でもあったから、バンドとして腰を据えて、あんまりジタバタせず、4人の物語をまず始めようみたいな気持ちだったんです」
バンドでひとつのものを造りたい、と。
「そうですね。でもいざ始まると、曲に対する意見は出てくるんですけど、1から曲を持ってきたり、こういうアルバムを作りたい!って旗を振ろうとするでもない。これじゃ意味がないなと思ったから、今回は逆に、こういうアルバムを作らないか?って、最初に全部提案したんですよ。去年の終わり、メンバーでミーティングした時、ホワイトボードに1曲目から12曲目まで全部書いて、1回骨組作っちゃおうと思ったんです。もうイメージは全部あったので」
もう曲はあったんだ?
「そうです。あとその時、メンバーに大事なことだけ言っておこうと思って、ふたつ言ったんですよ。とにかく圧倒的なロックンロール・アルバム作ろうぜ、って話と、もうひとつは、けっこう恥ずかしいセリフですけど『俺、ひとまず、死ぬまでみんなとやる気だから』って」
ひとまず、ってのが気になる(笑)。
「バンドって、いつまでやろうって約束するもんじゃないから(笑)。あとそれを言葉にしたのは、今回はこうやって俺が全体像作って、そこに乗っかってもらうけど、嫌だったら次回は変えればいいじゃん、って伝えたかったんですよ。まだまだ4人で歩く道は長いから、って」
いい話ですね。
「そしたらけっこうみんな納得してくれたんですよ。とはいえ、じゃあ佐々木に言われたことやりまーす、って感じでもなく(笑)。みんなのアイディアが肉付けされて、曲が形になっていった。中でも大きかったのは、テツが超やる気出してきたんですよ」
おお!
「だいたい12曲に絞れた頃、〈Whisky Pool〉をテツがすごく気に入って。最初からギターソロは長めに弾いてもらおうと思ってたんだけど、ある日『なんか、新しいの思いついちゃったんで』って、それをベースにしたまったく違う曲を書いてきたんですよ。嬉しくなって、ギターソロなくして、途中でテツが持ってきた曲にガラッと変えたんです。それは今までだったらマジであり得ない化学反応で。2つのアイディアが1つの曲になるって、初めての経験だったんですよ」
こんなに長くバンドやってきたのに!
「そう。このバンド作ったばかりの頃、岡ちゃん(岡庭匡志/初代ギター)との曲の作り方はそれに似てて。原曲があるけどそれがゴールじゃなくて。また全然違うタイプの曲の原形をそこにミックスして、どんどんセオリーにない曲になっていく。それが面白かったんですけど、テツとの関係の中で、また、何か新しいものを一緒に作った気がして。それはすごくよかったんですよね」
ようやくそんな喜びを得られましたか(笑)。
「バンドも15年目を迎えようとしてて、歳もそこそこ重ねてくると、メンバー内で役割分担がある程度できて、まあこんなもんなのかなって思いがちじゃないですか。それが大人になるってことなんだろうけど、まだこういう驚きがあって、出てくるものにワクワクできるなら、これだけギターが固定しなくて、遠回りしたバンド人生も、悪くないのかなと思えて」
そうですね。
「俺のせいなのかなって自分を責めたり、一緒に夢を見ようと約束したヤツが辞めていったり。大好きなはずのバンドが嫌いになりそうだったけど、こういう喜びが待ってるのなら、遠回りも悪くないなって。人生もそうだなと思った。だって俺、これからバンドの喜びを楽しめるんだから」