2020年、ORANGE RANGEは〈原点回帰〉と〈初期衝動〉をテーマにしたアルバム『NAKED×REFINISHED -3mics and back sounds-』を引っさげたライヴハウスツアーを行う予定だったが、新型コロナウィルスの影響により全50公演中48公演が延期。現在は来春以降での開催を目指し日程を再調整中である。そんな中、彼らは積極的に新曲を配信でリリースしている。4月の「KONOHOSHI」と8月の「気分上々」に続けて今回リリースされる新曲「Imagine」は、東日本大震災の復興支援と震災の記録を残していくことを目的とした自転車イベント〈ツール・ド・東北〉に書き下ろされたもの。イベント自体はコロナの影響で開催中止となったが、この曲を手がけたYOH(ベース)に東北への思いをリモート取材で語ってもらった。彼は震災以降、復興支援の活動に携わってきたバンドマンのひとりだ。何度も被災地を訪れてきた彼が見てきた景色や思いが、「Imagine」には込められていることがわかるインタビューとなった。
今年はいろいろ予定が変わって大変だと思いますが。
「そうっすね。でも大変なのはみんな同じなので、感傷的な気持ちに囚われるよりも、少しでも自分がやれることとか、いち人間としてちゃんと生活することとか、そういうのを大事にしてます」
メンバーとは会ってますか?
「あんまり(笑)。リモートでのミーティングはやってますけど、全員で集まることはほぼないですね。基本ORANGE RANGEはリモートでも音楽を作れるバンドなんで、曲作りなどに関してはそこまで支障はないですけど」
ツアーで全国を細かく廻る予定も延期になってしまいました。
「ツアーは2本だけやって、あとは全部来年に振替で。感染のリスクがクリアになってから動き出したほうがいいと思いつつも、タイミングが合えば知り合いのバンドの配信ライヴとかちょくちょく観てますね。早く今までと変わらないスタンスでライヴができるようになるといいんですけど」
そんな状況下でORANGE RANGEは4月と8月に配信シングルを出して、今回はYOHくんの書いた新曲がリリースされます。
「〈Imagine〉に関しては、去年のツアー中に話があって。もちろん嬉しかったけど、レンジがこういう形で曲をやる場合、どういう着地点にしたほうがいいんだろう?っていうのがまずあって。〈ツール・ド・東北〉っていうイベントにちゃんと寄り添いつつも、本来レンジが持ってる明るい色をちゃんと出したものにしようと思って」
あとはYOHくん自身が見てきた東北の風景だったり。
「そうですね。けど、自分の思いを押しつけただけのようなものになるのは違うと思ったし、かといって気持ちを薄めたものにしたら伝わらないし、そこはバランスを考えました。あと、〈ツール・ド・東北〉のことは知っていたけど、具体的にどの町がコースに入っているのかとか、参加する人たちが全国から集まってるとかは知らなかったんで、大会についての情報をいくつかもらいながら進めていきましたね」
〈ツール・ド・東北〉とYOHくんが参加してる幡再(註:幡ヶ谷再生大学復興再生部/BRAHMANのヴォーカルTOSHI-LOWが立ち上げた被災地での復興支援活動を行うNPO法人)との繋がりはなかった?
「幡再は人間レベルというか、町の人とのマイノリティーな繋がりで動く団体なので、また違った角度での復興支援というか。でも過去に開催された映像を見て印象的だったのは、そのイベントに参加している地元の人たちの笑顔がたくさん見られるところで。そこは自分が幡再で見てきた風景と近いんだなって」
その風景を具体的に言うと?
「東北のいろんな景色に触れながら自転車で移動するイベントだから、当然ライダーはいろんな街に行くんですけど、途中で設けられたエイドステーションで休憩しながらコースを進むんですね。で、そのエイドをやっているのは地元の人たちなんですけど、そこで生まれている人と人との触れ合いの光景が、自分が東北に行かせてもらった時の雰囲気とすごく似てて」
コミュニティの空気とか?
「そう。例えば自分が被災地に行って朝から公園作りや農作業などのお手伝いをしていると、お昼に地元の人たちが近くで採れたばかりの海の幸や、山の幸を食材にしたお昼ご飯を振る舞ってくれることがあって。エイドステーションで地元の人がライダーに食べ物を振る舞ったり、あとは沿道で子供たちが応援してる感じとか、そういうのが、自分が地元の人とコミュニケーションをとった形に近かったんです」
それで歌詞にエイドステーションが設置されてる地名を入れたと。
「うん。あと意識したのは自転車のイベントにふさわしい曲調で。サイクリングっていうのがポイントだと思って」
だからレンジにしては珍しくモータウン・サウンドなんですね。
「自転車を漕ぎながら景色を見ている時にフィットするテンポとか、あとはイベントの会場の賑やかで元気な感じとか。曲の方向性について考えていると、今回は自分たちがしっとりした曲調でシリアスなことを唄うのは違うと思ったんです」
イベント会場ならではの高揚感みたいなものをイメージしたと。
「ライダーの人もボランティアで参加している地元の人たちのテンションとか気持ちってこういう感じなんじゃないか?って。でも書いてる途中でコロナがやって来て、自分はまったく外に出れなくなってしまったんですけど、今までにないぐらい歌詞はスムーズに書くことができましたね。左右されなかった」
それだけ東北がYOHくんにとって馴染み深い場所になってるってことなのでは?
「今まで何年も積み重ねてきたものが自分の中にあるんだなって思って。そういえば東北のイントネーションも沖縄とそんなに変わらない感じで聞こえるし、方言とかもなんとなくわかる。前にツアーで東北に行った時、向こうで知り合った人たちがライヴを観にきてくれたんですけど、楽屋でその人と話をしてたら他のメンバーには会話が理解できなかったり(笑)」
それはすごいな(笑)。
「いわゆる浜言葉ってやつだと思うんだけど、メンバーは『え、なんて言ってるの?』みたいになってて、自分だけ会話が成り立つっていう。いつの間にかそうなってる自分にちょっと驚いたんですけど」