新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言が発出されてすぐにデモCDを発表し、続けて配信アルバムとシングル、さらにスタジオライヴ作品もリリースと、早くから音楽を止めないアクションを起こしていた怒髪天。そして7月26日、10年以上続く自主企画〈響都ノ宴〉を開催してきた、いわばバンドのホームグラウンドともいえる京都磔磔からライヴ活動も再開させた。〈カラダ立ち入り禁止。第一回、タマシイ限定ライブ〉と題して行われたバンド初の無観客生配信ライヴに続き、横浜、名古屋ではファンクラブ限定の有観客ライヴを行い、9月6日には、2度目となる日比谷野外音楽堂でのワンマン〈怒髪天 必要至急特別公演 キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~〉を開催と、いずれもガイドラインを守り、段階をしっかりと踏みながら動き出したのだ。
本誌6月号にて、いち早くコロナ禍における思いを増子直純には語ってもらったのだが、あれから約4ヵ月。怒髪天をはじめ、さまざまなロックバンドがライヴ活動を再開させるなど、徐々に動き始めた今だからこそ、改めて話を聞きたかった。むしろ4ヵ月前よりも、苛立ちや憤りを抱えているという兄ィが思う、今一番大事にすべきものとは。
10年以上、毎年のように自主企画を開催していた京都磔磔での無観客配信ライヴから、約半年ぶりにライヴ活動を再開されましたね。
「そうだね。そんな大きいものじゃないけど、磔磔っていうライヴハウスを助ける、何か力になりたいなってのもあってさ。ただ京都まで車で行ったんだけど、1回しか休憩してない。やっぱこういう状況だからね」
なるべく、人と接触しないように、移動の際も細心の注意を払って。この日は、フロアライヴ、かつ15台のカメラによる配信となりましたが、いかがでしたか?
「やっぱり配信でやるなら、普段通りステージにセッティングしてやったライヴを、ただカメラで映しても、生でライヴを観た時に感じるものには絶対に敵わないんだし、プラスアルファというか、配信ならではの何かしらを考えないとっていうのはあったよね。で、せっかく(会場を)広く使えるなら、それを逆手にとってなんでもやらないと意味ないよなってことで、ああいう形でやったんだけど、めちゃくちゃ目に入るんだよ、坂さん(坂詰克彦/ドラム)が(笑)。まあ仕方ないんだけど、ライヴ中ずっと坂さん見てるっていうのは……ねえ」
あはははは。円陣配置でしたし、否が応でも坂さんが視界に入るという(笑)。
「なかなかないよ、あんなの(笑)。だけどやっぱりバンドは楽しいな、ライヴ楽しいな、ってことをより実感したね」
最初は緊張感もありましたけど、何より4人から、ライヴができることに対する喜びが溢れ出ていて。〈ああ、久しぶりの怒髪天のライヴだ!〉って思えて、観ている側も嬉しくなったといいますか、もうド頭の4曲でグッときちゃいました。
「終わったあと、配信なのに普段と変わらないとか、迫力あるって観た人たちに言ってもらえたけど、当たり前だよ。もう本気だからね。本気でやる楽しさっていうか、そこに特化してきた人間だからさ。あと、バンドのメンバーって、いわゆる普通の友達じゃないわけよ。バンドメンバーとしての信頼がお互いにあって、だから30年以上も付き合っているわけなんだけど、〈こいつじゃなきゃダメだ〉と思うのが、ライヴの時は最大限に出る。それこそ4人とも、人生の中でバンドを最優先にしてきたから、それを感じる瞬間は感情が爆発するし、それがメンバーとの繋がりの中で一番大事なものでもあって。だからあの日はお客さんがいなくても、もうすげえ楽しいなってことしか思わなかった。まあMCの時ぐらいじゃない? お客さんがいなくて困ったなっていうのは(笑)」
いつもの「よく来た!」という言葉のあと、みずから「シーン」と言って苦笑いしてましたもんね。
「反応ないからね(笑)。でもそのぐらいだよ。楽曲やる時は全力でやるだけだから、ライヴが始まりゃ何も変わらないね」
あと磔磔のライヴを観て感じたのは、今の状況にリンクする曲がいっぱいあるなってことで。どの曲もできた時は新型コロナなんてなかったわけですし、パンデミックを想定して増子さんも歌詞を書いてるわけではないんですけど。
「最悪を想定した状況から、じゃあ次どうするかってことを常に考えて生きてきたし、その自問自答の中で、俺はこう思うよってことを歌にしてきただけでさ。それは誰に向かってっていうことでもなく、その問題が大きいことであれ、小さいことであれ、重大なことであれ、くだらないことであれ、いち人間として思うことを歌にしてるだけというかね。それに俺、正解じゃなくてもいいと思ってるから」
世の中の正解と一緒じゃなくていいと。
「そうそう。俺が思ってることを言ってるだけ。正解の歌を作ろうと思ってるわけじゃない。俺はこう思うよっていうだけの話でさ」
増子さんの中での正義があって、それを歌にしてるというか。今はとくに、何が正解なのか、かなりあいまいな状況で。
「コロナに対して、受け取り方も対処の仕方も人それぞれで違うしね。ただ俺は個人的な考え方で言うとさ、こないだ『音流〜ONRYU〜』(註:増子がMCを務める音楽番組)にHOTSQUALLって千葉のバンドが来てたんだけど、やつらとか千葉LOOKをホームにしてるバンドが、『コラボネームとかでTシャツを作って、その売り上げをLOOKに渡したい』って言ったんだって。そしたら『そんな恥ずかしいことはしないでくれ』って言われて。『お前らがバイトやりながらバンドやって、バイトがなくなってバンド続けられないような目に遭ったことが何回もあるだろ。その時俺ら何にも助けてないのに、自分が困った時に〈助けてください〉って言えるかよ。潰れたら潰れたで自己責任だから、そしたらまたやるわ』って」
おお。
「それ聞いて、さすがサイトウさん(註:千葉LOOK店長)って思ったし、俺もそういうもんだと思うんだ」
〈俺がやりたいからやる〉という心意気、つまり主体性といいますか。
「そうそうそう。もちろん人それぞれのやり方、ライヴハウスの在り方があっていいわけだけど、その気概っていうのはすごい大事だなって。まあ、そこまで突っぱねなくていいんじゃない?とは思ったけど(笑)」
HOTSQUALLの面々含め、自分たちのやる場所がなくなっちゃうのは嫌だっていう思いからの申し出なわけですしね(笑)。
「そう(笑)。やっぱ自分たちの場所、ホームは残っていてほしいじゃん。でも俺はその気概にすごい漢気を感じたし、こういう時だからこそ人間性って出るんだよなと思ってさ」
そういう意味では、磔磔という場所は、怒髪天にとって思い入れのある場所であり、まずはそこから始めようと。
「そう。俺らだけじゃなく、ここが潰れたら困ると思ってるヤツらがいっぱいいるから、磔磔には。磔磔自身も、配信ライヴとかいっぱいやって、なんとかしようって動いてるわけじゃない。だからそこに協力する。その相互作用がちゃんとあるべきでさ。〈ここは自分たちにとって大事にしたい場所だ〉って思う人間が何人いるかっていうことが大事というか。だから、そういう繋がりすら持ってないようなヤツが、声高にライヴハウスの存亡をどうのとか言うのは違うなって思うし、そういうのと他のライヴハウスを一括りにされるのは、すごく良くない」
このコロナ禍によって、バンドやライヴハウスであったり、その関係性とかいろいろ見えたところはありますよね。
「ライヴハウスの対応もそうだし、各バンドのスタンスや力量とか、すごくシビアにいろんなものが見えてきたなって思うよね。いろんな意味で真価が試される感じはあるな」