〈2019年プレイバック&MY BEST MUSIC〉と題したこの企画では、音楽と人にゆかりのあるミュージシャンの方々に登場いただき、今年1年間を振り返るインタビューをお届け。さらには2019年、心に響いた作品、または楽曲をセレクトしてもらい大公開していきます! 今日は、結成35周年を迎えた怒髪天の増子直純が、贅沢で、幸せだったという1年間を振り返ります。
〜増子直純(怒髪天)の2019年〜
2019年は結成35周年だったわけだけど、「オトナノススメ」トリビュートとフジロックのグリーンステージ、それと『いだてん』の3つが強力なトピックだね。
まず、「オトナノススメ」トリビュート。そもそもは、25周年の時に仲間たちに集まってもらってライヴをやったんだけど(註:〈オールスター男呼唄 秋の大感謝祭−愛されたくて...四半世紀−〉。総勢48名の豪華ゲストが駆けつけ、怒髪天の曲をカヴァー。この日メンバーは、ほぼ演奏することなく主に司会進行を担当した)、それがまあ大人の事情で映像化できなかったんだよね。だから35周年は、作品に残そうってことで始まった企画だったんだけど……思っていた以上に事が大きくなったというか、時間も予算も想像以上で(笑)。最初はさ、面白そうだねって軽い感覚で、それこそ〈何でみんな、やんねえんだろう? こんな面白い企画〉と思ったんだけど、そりゃあ、やんないわ(笑)。
俺らは、各パートそれぞれこの人にやってもらおうっていう、要は設計図だけ渡した感じだったんだけど、楽器隊だけでも、ドラム6人、ベース6人、ギター13人。それを繋げて1曲にできるのか?っていうところから始まり、制作期間も結果8ヵ月か、もう最後のほうはディレクターがノイローゼになりそうだったみたいよ(笑)。で、いざ完成したものを聴いて、ドキュメント映像を見た時は、もう泣いたね。しかも220人もの仲間たちが協力してくれるなんてさ、なんか生前葬みたいだなって思ったよ。本当にありがたかった。
そしてフジロックのグリーンステージ。今や乱立気味だけど、日本におけるロックフェスの草分けでもあるフジロックのメインステージでやるっていうのは、やっぱ日本のロックバンドにとって一つの勲章だと思うんだ。少なくとも武道館とフジロックっていうのは特別なものであってさ。それこそ某巨大フェスのメインステージなんかとは意味が違う(笑)。最初、「フジロック決まりました。グリーンステージで」ってマネージャーから聞いた時、「それヤバくないか!? ホワイトステージ(註:フジロックの中で二番目に大きなステージ)でいいって!」って言ったよね。そしたら「35周年だし、せっかくのオファーなので」って言われてさ(笑)。〈いやいや、せっかくつったって……どうする、オイ〉って思ったもん。でも当日ちゃんと人も集まってくれてね。ステージからの景色は最高だったな。
結成30周年の時に武道館アーティストという看板を手にし、今年フジロックメインステージアーティストっていう看板も手に入れたわけだけど、まさか〈大河俳優〉って看板まで増えるとは思わなかった(笑)。我ながら驚きだよ。まあ、『いだてん』の放送が決まった頃に「三波春夫役あるんだったら、歌唱シーンもあるだろうし、俺やるよ」なんてクドカンに冗談半分で言ってたりはしたんだけど、黒澤明監督役とはね。世界の黒澤だよ。まあ、むしろ俳優の人たちは恐れ多くてやりたがんないだろうっていうのがあって、俺に役が回ってきたのかなとも思うけど、まじかよ!?ってビックリした。撮影自体は、すごく楽しめたし、2年前に舞台をやった時にも思ったけど、音楽とはまた違う世界を体験することは、すごく刺激を受けるし、やっぱ勉強になるよね。50過ぎて、こういう経験ができることもありがたいことだなって思うよ。
今年は、俺たちにとって、すごく贅沢な、幸せな1年になったよね。ただ、思った以上に豪華な年になってしまって、40周年の時はどうすんのよ!?って、この1年を振り返って思うところで(笑)。え、40周年で紅白? 確かに武道館、フジロックメインときたら、あとはもう紅白アーティストって看板くらいしか残ってないよなぁ。NHKのアニメ主題歌(「団地でDAN!RAN!」/2013年作)もやって、去年、BS-NHKの旅番組にも出たし、さらに今年大河ドラマにも出させてもらったから、NHKのスタンプカードはだいぶ埋まってきてるもんな。あとは『みんなのうた』、それと『SONGS』への出演かね? そしたら、だいぶ紅白への道が近づいてくるかもな(笑)。まあ2020年は、いつも通り、とにかく健康第一で頑張ってやっていくんで、よろしく頼むよ!
〜MY BEST MUSIC〜
怒髪天「オトナノススメ~35th 愛されSP~」
やっぱ今年の1曲といえば、まずはこれでしょ。上は柴山さん(柴山俊之/サンハウス、ELECTRIC MUD)から、下は22歳のトライシグナル(元ひめキュンフルーツ缶のメンバーによる音楽グループ)のまいちゃんまで。山本譲二さんや川中美幸さん、影山ヒロノブさんやROOTS66の面々であったり、もはや三世代、ジャンルも多岐にわたる人たちが参加してくれてね。本当に俺ら幸せもんだよ。
LOUDNESS「Crazy Doctor」
これは今年よく聴いた! 去年末に〈Rock Beats Cancer FES vol.6〉で一緒にやらせてもらったんだけど、そこからメタル熱が上がっちゃってさ。この曲が入ってるアルバム(『DISILLUSION 〜撃剣霊化〜』/1984年作)が出た当時も聴いてはいたけど、自分の中で今ヘヴィメタル再評価が起きてて。LOUDNESSはもちろん、ジューダス・プリースト、アンスラックス、あとダンジグも最近よく聴いてるな。うちにはメタルキッズの友康(上原子友康/怒髪天・ギター)がいるから、けっこういろんなバンド教えてもらってもいるね。
μ-Ziq「Tango N' Vectif」
YMO世代だし、普段、家ではエレクトロ/テクノを聴いてることが多い。ソフトセルとか80年代ニューウエイヴ、あとエイフェックス・ツインとかね。その流れでμ-Ziqを知ってね。今まで気になったけど買うまでもなかったやつとか、いろいろ調べてる中で見つけたやつとか、今はSpotifyとかApple Musicとかサブスクで聴けるじゃない。μ-Ziqも、当時はちょっとショボいなと思って買うまでに至らなかったけど、今聴くと、シンプルだしすごく良くできてるんだ。これはほんと家でよく聴いたね。
The Prodigy『Music For The Jilted Generation』
テクノとパンク/ロックを融合させた先駆者だよね、彼らは。俺すっごい好きで、ずっと聴いてるんだけど、ライヴは観たことなくて。いつか観たいと思ってたけど……今年キース(・フリント/ヴォーカル、ダンサー)が亡くなっちゃってね。それもあって、けっこう聴いたな。でも、まさか俺より年下、髪型だけはキースに似てるうちのシミ(清水泰次/怒髪天・ベース)のひとつ下だとは思わなかった(笑)。でも、もうあのパフォーマンスが見れないのは、すごく残念だよ。
Television『Marquee Moon』
事務所で作業してた時、隣の部屋でスタッフがこれを聴いてたんだよ。それで何十年かぶりに耳にしてさ。〈久々に聴くといいなあ〉と思って、家にあったやつを掘り起こしてね。自伝本での兄弟対談でも言ったけど、学生の頃、隣の部屋で弟(増子真二/DMBQ、ボアダムス)がよく聴いててね。でも当時の俺は、パンクとかハードコアばっかり聴いてたから、〈全然力入んねぇヘロヘロな音楽だな〉って思ってたんだけど、今聴くとすごくいい。中年になってようやくTelevisionの良さがわかったね(笑)。
全部古い曲ばっかりだな。でも若い頃はわからなかったものでも、年齢や経験を重ねることで解釈できるようになるんだよね。食べ物だったら美味しいと感じるポイント、音楽だったら面白いと思う部分が変化して広がっていくというか。そこでの発見や刺激は、とくに50代になってから多々あるんだよな。だからまあ、見た目はさておき(笑)、まだまだ枯れることはないね!
Information
220名が参加した「オトナノススメ~35th 愛されSP~」も収録された結成35周年記念盤『怒髪天』が発売中。現在、2月8、9日@沖縄・桜坂セントラルまで続く全国ツアー〈怒髪天、もっと!もっと!愛されたくて35年。2019~2020年日本の旅 "モノリス=ヅメリス?"〉を敢行中。
怒髪天 オフィシャルHP http://dohatsuten.jp/index_gate.html