「こんな直太朗見たことない。2019年、ありのままの、森山直太朗。」――そんな鮮烈なキャッチコピーのついた映画「森山直太朗 人間の森をぬけて」(12月13日公開)。これは今年6月2日にNHKホールで千秋楽を迎えた〈森山直太朗 コンサートツアー2018〜19『人間の森』〉の記録、つまりドキュメント映像であることに間違いはないのだが、ここには森山と彼の共作者である御徒町凧との長い関係において、〈先送りにしてきたツケ〉をついに支払う季節が訪れたことを告げる物語が立ち上がっている。ファン以外の人に説明すると、森山は高校時代からの親友である御徒町との二人三脚でここまで活動を続けてきた。つまり彼の音楽や表現において森山本人の次に重要な存在なのだが、そんな彼との長らく続いた関係にひとつの区切りをつける過程がこの作品には描かれているのだ。作中では明言されていないだけに、以下のインタビューで本人から「関係を解消した」と聞かされた時はさすがに驚いた。でも、きっと今の決断は彼の未来にとって悪いことじゃないはずだ。だって彼と御徒町は仕事のパートナー以前に、長らく人生を共にしてきた友達なのだから。
映画を観まして。
「あ、観てくれたんですか」
観たからここにいるんだけど(笑)。
「そっか(笑)」
ツアー終わった直後に取材したじゃないですか(記事:森山直太朗コンサートツアー〈人間の森〉51公演、ついに完結。とある理想を求め続けた旅路を自身で振り返る)。で、その時に話したことがそのまま作品になってるなと思ったんですけど。
「どんな話しましたっけ? グチとか言ってませんでした? たぶんその時の俺って、自分なりに頑張って話してたと思うけど、本当はすごく鬱屈していたというか。ツアーの千秋楽でちょっと甘えたステージをしたことに御徒町から言われたことをずっと引きずってたから」
それも取材で言ってましたよ。観客のアンコールに応えて「君は五番目の季節」をやってわかりやすくツアーを締め括ってしまったことが、〈人間の森〉というツアーの目的を台無しにしてしまった、みたいに言われたと。
「そう。だから、このままじゃいけないっていうことがずっとあったから……その時の俺、なんて言ってました?」
台無しにされた、そのことをすごい責められたって話をして、「いや、それでいいんだよ、間違ってないよ」ってこちらは擁護しましたけど。
「……思い出してきた。インタビューっていうか単なるカウンセリングですよね(笑)。特にその時は一番……グチを言ってたかもしれない、御徒町に対する」
「言い方がね」みたいな話もしました。
「そうだそうだ」
で、そんなインタビューをして月日が経ち、「あのツアーが映画になるんですよ」という連絡があったんでさっそく拝見したんですが、ツアーを振り返る冒頭のシーンから御徒町くんに対する発言がけっこうシビアで。
「アイツのグチだったらいくらでも話せますよ(笑)。でも確かに言い方がアレなんだけど、彼はいつもそうやってむき出しの言葉というか、自分の思いを繕わないヤツだからずっと友達でいられるんですね。で、そんな友達であると同時に、これまで創作だったり表現のパートナーという関係でもあった彼と、このツアーを経てその関係が解消されることになったんです」
え、そういう話なの?
「うん。それがあのツアーの結末だったというのは、誰も想像してなかったんじゃないかな。ツアーが終わってしばらくしてから『このままの関係だと自分が舞台に立てなくなる。だからお互いに自分の本当にやりたいと思うことをゼロから好きなようにやらないか』って話をしたんで。俺は俺で、今までとは違う関係でゼロから表現をしたいと思ったんです」
ということは、森山直太朗と御徒町凧は長年のコンビを解消したと?
「この先どうなるかはわからないけど、とりあえず今は僕の舞台の演出とかプロデュースから離れることになりました。けど友達っていう関係は何も変わってないです。そこには何の利害もないところから始まってる関係だから。今朝も駅前のフレッシュネスバーガーに呼び出されたし(笑)」
フレッシュネスバーガー(笑)。
「でもパートナーとしての関係はいったん解消して、お互いの主体性とか自立性――これってツアー中に彼が俺をはじめとする周りのスタッフにずっと求め続けてきたことで、あの映画を観てもらったらわかると思うんだけど、結果的に今までの関係を解消するという形でお互いの自立を促すことになって。そういう話をした3週間後、彼は晴れてユーチューバーになったわけなんですけど(笑)」
はははははは!
「『俺は俺でできてないことだったり未熟な部分がたくさんあるけど、お前はお前でやってみろよ』っていう話をした3週間後、彼はユーチューバーになってた。〈オカチャンネル〉っていうタイトルでやってるんで、ぜひチャンネル登録よろしくお願いします。これは友達としての告知」
あの、さっきからまったく映画の宣伝にならない話に終始してるんですが(笑)。
「宣伝なんてできないですよ。だってバンバン(番場秀一/『人間の森をぬけて』の監督)も最初は映画なんか撮るつもりなかったんだから。もともとWOWOWで放送するツアードキュメンタリーとして撮ったものを、制作ディレクターとWOWOWが意気投合して『これを映画にしたい』と言い始めて」
で、あのドキュメントにさらにいろんなシーンが加わったことで、〈人間の森〉というツアーが森山くんと御徒町くんの関係にもたらした変化、という作品になったと。
「だから正直、こんなモヤモヤしてる自分なんて見せたくないし、恥さらしだとも思ったけど、ちゃんと音楽が聴こえてくる作品になっていたから。音楽が音楽としてそこにしっかり立ち上がってるドキュメンタリーだったから。つまりそこだけはこのツアーの成果だと思ったし、みんなで這いつくばりながら頑張った価値があるなって」
そう。だから森山くんのパブリックイメージとは掛け離れた作品になっていて。御徒町くんとのヒリヒリする会話とか、2人の関係を知らない人が観たらビックリすると思います。
「そうかもしれない。で、さっきも言ったけど、ツアー終わってしばらくはツアー中にアイツから言われたことに対して鬱々としてて。でもそれはちゃんと俺が言い返さないからだったし……そうやって自分たちの関係の中で抱えていた問題を先送りにしてただけなんだけど」
つまりこの作品の中では森山直太朗と御徒町凧がこのツアーを経てコンビを解消することになった経緯が生々しく描かれている、と。
「そうですね。元々の関係に戻るだけの話なんだけど。SETSUNA INTERNATIONALっていう事務所だって、俺が御徒町に『ゲームとかパーティーをまとめるのがうまいから事務所やんない?』みたいな無茶振りから始まってるんですよ。で、アイツもちょうど自分がやってたバンドを辞めた時期だったのと、友達の頼みを断れなくて引き受けてくれたんだろうけど。で、アイツが前田っていうバンド時代から仲良かった仲間を誘って事務所を立ち上げて。そうやって仲間内で何かやるのが楽しかった」