今日でも明日でもない狭間の時間――0時2分。
ウソツキのミニアルバム『0時2分』は、そんな曖昧な時間に起きたであろう5つの物語をパッケージしたコンセプチュアルな作品だ。彼らの楽曲には、非現実的な要素が多く存在する。ある時は銀河鉄道を走らせたり、ある時はエイリアンが登場したり。それは竹田昌和(ヴォーカル&ギター)の未知のものへ対する興味から来るところが大きい。音楽の魔法を使って、現実と幻想を混ぜ合わせていく。最新作は、そんな竹田の根っこにあるものが詰め込まれた一枚と言えるだろう。落ち着いたリズムと浮遊感あるギターサウンド。これまでのギターロック然とした彼らの楽曲からは少し異なる印象を受けるが、その音像は、現実か幻がわからない、そんな曖昧な世界に浸るような感覚にさせられる。その中で綴られる、人と人の曖昧な関係や感情。それは竹田が今こうしてバンドで音楽をやっていることと、とても大きな繋がりがある気がしてならないのだ。
最近のバンドの調子はどうですか?
「いい感じですかね。最近はメンバーが『こういうのやりたいんだよね』って言うことが増えてきたので、やってて楽しいです。変な話、最初の頃はメンバーから影響受けることは少なかったんですけど、今は2人が提案するものを取り入れたりしてて。そういう面では、すごくいいかなと思います」
それは何が変わったんでしょう。
「一人ひとりがプレイヤーとして成熟したというか、自分がやりたいことがわかってきたんでしょうね。それに、〈ウソツキはこういうものだよね〉とか、〈これはウソツキじゃないよね〉っていうのも、それぞれあって。そのベクトルが、完全に一緒じゃないけど同じ方向を向いてきてて。今日もスタジオで曲作ってて、『これはウソツキにはカッコ良すぎるね』『じゃあこうしよう』みたいな」
カッコ良すぎるって(笑)。竹田くんの中にあるウソツキらしさって、具体的にどういうものですか?
「僕自身が思うウソツキらしさは……自分です、としか言いようがないというか(笑)。僕は感動より笑いを求めるタイプなんですけど、そういうのは出てると思いますね」
それこそカッコつけるだけじゃなくて、どっかでユーモアを混ぜたくなってしまう。
「そもそも僕は難しいことができないんですよ。歌詞でも文学的なこととか書けないし。昔から国語の成績2でしたから」
ああ、理系ですもんね。
「はい。文法とかもわかんないし、自分はそこで人と勝負はできないなってわかってたので。だからこそ……僕は発明って言ってるんですけど、これはまだ誰も思いついてないんじゃないかっていうのを見つけて曲にしていて。例えば、僕はいまだに愛とか恋の意味がわかってないんで、それってなんだろうって強く感じるものがあって。愛を全部擬音で表現したらどうなるんだろうってところから、〈名もなき感情〉って曲を作ったんですね。そういうアイディアが自分にとっては重要なんです」
答えがわからなかったり、白黒はっきりできないものに惹かれるし、その答えを曲の中で見つけていきたいというか。
「それしかない気がしてますね。白か黒かわからない、グレーな感情というか、どっちにも染まってない感情を唄っていきたい。それで歌詞を書いてるうちに自分の気持ちを知れるというか、シンクロするものが見えてくる。それは予想通りであったり、思わぬ展開になったりすることもあるんですけど」
それも面白かったり。
「はい。もともと〈こうだ!〉って言い切っちゃう曲はあんまり好きじゃなくて。まあ理系だからなのかもしれないですけど、まだ解明されてない、未知の世界みたいなものに惹かれるんですよ。何もないかもしれないけど、無限の可能性もあるようなもの。なぜこういう現象が起きてるのかっていうのを考えるのが好きだったんで。例えば、水が蒸発するのはなぜだろうとか、氷になるのはなぜだろうとか。あと、月がずっと地球に同じ面を向けている理由とか。知ってます?」
……学校で教わった記憶はある。
「月の自転と公転周期が一緒だからなんですけど。そもそも太陽系が平面上に並んでるのとか、神の存在を感じるじゃないですか? そういうのを見るといいなって思うし、だけど理由はあるはずだって考えるんです。で、やっぱり理由があって、理由を知った時には〈……神じゃないんだ〉って悲しくなるんですけど(笑)」
はははは。
「だから答えは実はほしくないんですよね。考えてる時が一番楽しいっていう」
そういう未知のものに対する興味が竹田くんの根っこにはあって。今回の作品は、そういう答えのハッキリしない曖昧なものがコンセプトになっていますよね。
「そうですね。タイトルの『0時2分』っていうのが僕の中でまさに曖昧な時間で。明日でも、今日でもない時間というか。ツイッターでも書いたんですけど、『また明日』って言ったら、『明日というか、もう今日だね』って言われたことがあって。たしかに日付は今日なんだけど、俺にとってはまだ今日になったっていう感覚はなくて。相手と矛盾してる感じが自分の中でいいなって思ったんですよね。相手はもう翌日にいるのに、僕はまだ今日のままっていう。人間っていうのは今日しか生きれないはずだから、そういう曖昧な世界って地球上には存在しないと思ってたんですけど、こんなところにあったんだっていう」
相手との意識の違いっていうだけだけど、自分が別の世界にいるような感覚になったと。
「そう。そういうのをやっぱりどこか探していたところはあって。本当は魔法も使いたいし、空も飛びたいんです。モラトリアムがずっと続いてるだけかもしれないけど……諦めきれてないんですよ。現実を受け入れられないタイプなので。だから摩訶不思議なものを期待してるけど、どこにもなかった。けど、0時2分に『明日っていうかもう今日だね』って言われた時、そこには現実の世界じゃない、異次元の空間が存在する気がしたというか。意識の違いだってことはわかってるけど、2人の間で、ぐわぁっと空間がねじ曲がった狭間みたいな世界が生まれたような」