心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、通算5作目のアルバム『D o n’ t L a u g h I t O f f』をリリースした羊文学の河西ゆりか(ベース)が登場。児童文学の名作から、自身に気づきをもたらした言葉を紹介します。
(これは音楽と人2025年11月号に掲載した記事です)
『モモ』
一度に道路全部のことを考えてはいかん、わかるかな?
つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。
いつもただつぎのことだけをな
作品紹介
『モモ』ミヒャエル・エンデ作
少女・モモが、時間どろぼうにぬすまれた〈時間〉を人々に取り戻すために奮闘する物語。1973年に発表された〈時間〉の真の意味を問う児童文学の名作。
『モモ』は、小さい頃から知っている作品ですけど、しっかりと読んだのは、大人になってからで。たまたま絵本と雑貨を扱ってるお店に行ったら、これが置いてあったんです。名作と言われる作品だし、もう一回ちゃんと読んでみたいなと思って買って読んでみたら、昔、手にした時とは、また違った響き方をしたんですよね。
この言葉は、主人公のモモの親友のひとりで、すごくゆっくり話をする道路掃除夫のおじいさんのセリフですね。長い道を掃除する時の自分の考えを話してる中での言葉なんですけど、この一節を読んで、少し気持ちが楽になったというか、視点を変えることができたんです。
バンドで動いていると、メンバーやチームのみんなと先々の目標を決めたり、やりたいこととかを話し合うことがあるわけなんですけど、そういう時にいろいろ考えすぎて、〈自分は一体何をすべきなのか……?〉となってしまうこともあって。もちろん計画を立てることや森を見て考えることも大事なんですけど、遠くを見すぎて、途方もない気持ちになってしまうことも多いから、まずは自分の手が届くところだけに集中する。目の前のこと、その次にやるべきことをしっかり考えればいいんだって、この言葉から気づかされたんです。
あと話が進んでいくと、モモが住む街に〈灰色の人たち〉が現れて、〈時間貯蓄銀行〉を作るんです。そこにみんな時間を預けるようになるんですけど、時間貯蓄のために効率や合理性を追求するようになって。どんどん〈無駄な時間〉を排除していって、その結果、街全体がギスギスした空気になってしまうんですね。でもそれってなんかタイパ、コスパ重視の今の世の中の風潮ともリンクしてるなと思ったりして。
それこそ音楽の聴き方も、今はストリーミングが主流になっているじゃないですか。もちろん、いろんな曲をすぐに聴ける良さはあるんですけど、CDやレコードで聴いた曲や作品のほうが、自分の中にしっかり残っているなぁって思ったりするんです。ライヴ会場に足を運ぶこともそうですけど、CDやレコードを手にするための労力であったり、どこで何をしたかっていう経験と音楽が結びついてこそ、自分の記憶や心にずっと刻まれていくというか。だから〈無駄な時間〉にも価値があって、それは生きていく上で大事にすべきものなんじゃないかってことも、この本を読んで気づかされたり。『モモ』は、児童文学ではあるけど、社会に出て生きる私たちにも響く作品だと思うし、むしろ今こそ読むべき1冊なのかもしれませんね。
NEW ALBUM
『D o n’ t L a u g h I t O f f』
2025.10.08 RELEASE

- そのとき
- いとおしい日々
- Feel
- doll
- 声
- 春の嵐
- 愛について
- cure
- tears
- ランナー
- 未来地図2025
- Burning
- don’t laugh it off anymore
〈羊文学「SPRING TOUR 2026」〉
2026年
2月24日(火)神奈川・KT Zepp Yokohama
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3月5日(木)福岡・Zepp Fukuoka
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