【LIVE REPORT】
銀杏BOYZ〈昭和100年宇宙の旅〉
2025.07.08 at Zepp DiverCity TOKYO
今年に入り、アメリカ西海岸6ヵ所を廻る〈銀杏BOYZ アメリカ西海岸ツアー〜YOU & I VS.THE WORLD 2025〜〉を敢行し、その後、全国ワンマンツアー〈昭和100年宇宙の旅〉も開催した銀杏BOYZ。現在発売中の『音楽と人』最新号では、2つのツアーを終えた峯田和伸へのロングインタビューを掲載している。そこで、ここでは実に7年ぶりとなったバンド編成での国内ツアー、そのファイナル公演の模様を振り返りたいと思う。

プリミティヴなビートとコーラスワークによって、よりサイケデリックな音像へと進化した「アーメン・ザーメン・メリーチェイン Remix ver.」でライヴは幕を開け、「若者たち」、「NO FUTURE NO CRY」「大人全滅」「SKOOL PILL」とパンクナンバーを畳み掛けていった序盤戦。ドラム台に駆けあがり、そこから高いジャンプを決めながら、ノイジーなギターを弾きまくる山本幹宗。鬼気迫る表情でビートを叩く岡山健二に負けじと、ベースの藤原寛は、アグレッシヴなリズムを刻みながらマイクに食いつくように声を張り上げる。そして、ステージに跪きながらギターを掻きむしる加藤綾太。彼らの真ん中で、剥き出しの感情を声に、ギターに乗せて放つ峯田は、「SKOOL PILL」では衝動の赴くままにマイクスタンドをフロアに放り投げた。ものすごい熱量を放出する5人。暴発寸前のエネルギーがステージに渦巻いている。


初日の横浜公演でも感じたことだが、これまでにないバンド感の高まりは、おそらく今年春のアメリカツアーが大きいのだろう。峯田以外のオリジナルメンバーがバンドを去り、現在のサポートメンバーが揃ったのが2017年。この面々で、2度の武道館公演を経験し、フルアルバム『ねえみんな大好きだよ』を完成させた。しかし、2020年10月にリリースされたこのアルバムのツアーはコロナ禍の影響により中止に。その後、感染症予防の観点からライヴの在り方が変容し、その間にアコースティック・ツアーや弾き語りでの47都道府県ツアーを行ってきた。そのこともあり、本来の〈銀杏BOYZのライヴ〉=バンド編成でのライヴを現体制でやる機会はさほど多くなかったのも確かだ。しかし今回、どさ回りに近いアメリカツアーを経験し、濃密かつ継続的なライヴによって得たものが国内ツアーにおいて結実したような、そんな圧倒的なバンドグルーヴがそこにあった。


2500〜3000人を収容する会場とは思えない、まるで200人規模のライヴハウスのようなグシャッとした音像から一転して、「エンジェルベイビー」や「夢で逢えたら」、「恋は永遠」などミディアムテンポの楽曲が続いた中盤では、現体制になって約8年という時間を経てきた、今のバンドメンバーだからこその表現力の豊かさを感じさせた。ノイジーな音像の中から立ち上るスイートなメロディとロマンティックな景色の広がり。とくに「夜王子と月の姫」では、情感豊かで抑揚のあるバンドの演奏によって、柔らかで美しいメロディが際立ち、楽曲の純度が高まっていたのだった。

2部構成で行われた今回のツアー。第一部最後の「夜王子と月の姫」が終わると、ステージは紗幕に覆われ、幕間では、アメリカツアーのドキュメント映像が流れる。オーディエンスとゼロ距離でのライヴ、終演後のファンとの会話や滞在先での食事風景、そして峯田の人生を大きく変えたひとり、ニルヴァーナのカート・コバーンゆかりの地、シアトル・ヴィレッタパークのベンチで佇む彼の姿などが映し出されていく。


映像が終わり、ふたたび幕が開き始まった第2部。ステージ上には、キーボーディスト兼コーラスのUCARY & THE VALENTINEが、いつものバンドメンバーに加わっていた。彼女は、アルバム『ねえみんな大好きだよ』に数曲参加しており、そういう意味でも今回のツアーは、5年前にできなかったアルバムツアーのリベンジという側面もあるのだろう。この6人編成で「二回戦」「漂流教室」、そして初日の横浜からプレイされてきた、まっさらな新曲も披露された。浮遊感のあるUCARY & THE VALENTINEのコーラスと同期を交えたドリームポップ的なアプローチのこの新曲は、最新アルバム『ねえみんな大好きだよ』からの流れを感じさせるものだ。と同時にサビの跳ねたメロディにあるパワーポップ感からは、今の銀杏BOYZのモードが見えてくるような気もした。

「ナイトライダー」に入る前のMCで、古くからの銀杏ファンでもあった大阪の友人が、不慮の事故により亡くなってしまったこと、彼と最後に会ったのが、このツアーの大阪公演だったという話をした峯田。今、自分と目の前にいる人たちが、どうにかこうにか生き延びて同じ空間にいる喜び、そしてこの曲を一緒に唄ってほしいと伝え、アコギを爪弾く。彼の声に合わせ、会場中から声があがり、その歌声が友人へのレクイエムのように場内に響き渡る。アウトロでは、〈泣いてないさ〉というフレーズをまるで泣きそうな顔で歌い放つ峯田。そこからUCARY & THE VALENTINEが、一旦ステージ袖に消え、ふたたび5人で演奏された「新訳 銀河鉄道の夜」では、「ナイトライダー」での感傷を引き継ぐように、せつなくもたおやかなメロディとまっすぐな歌声が会場いっぱいに放たれていった。

続く「人間」では、一瞬の静寂に包まれたフロアをまっすぐ見つめ、スッと息を吸い込んで峯田がアコギをかき鳴らすと、冒頭から自然発生的にフロアに大合唱が巻き起こる。人間が持つ醜さに直面した時の悲しみや、人間の力ではどうにもできないことに対するやるせなさ。それでも生きていく、生きていかなくてはいけない人間――〈僕等は もがき苦しんでるだけの 人間様さ〉というフレーズが胸に刺さる。そして弾き語りパートからバンド演奏に突入した瞬間、真っ赤なライトに照らし出されたフロアに浮かび上がる無数につきあげられる拳。繰り返す日々を生きていく中で心に沈澱する思いを乗せて、ぎゅうぎゅうのフロアで汗や涙にまみれた顔で声を張り上げる人たち。また、ノイズに塗れたカオスな音像の先にある、透き通った何かを掴もうとするかのように楽器やマイクに食らいつき音を鳴らす5人がステージ上にいる。
〈ああ、これが、これこそが銀杏BOYZのライヴだ〉
その日、その場で感じたままに話す峯田の言葉やステージ上の照明、フロアに集う人たちが生み出す声や空気と、バンドが発する爆発的なエネルギーが混然一体となり、その中に身を委ねることで、どこまでも自分の心が裸になっていく感覚。物理的にも、演者とオーディエンスとの心の距離も、濃厚接触の極みのような銀杏BOYZのライヴにまた出会うことができた。そんな気持ちになった瞬間だった。

ふたたびUCARY & THE VALENTINEが合流した終盤。「GOD SAVE THE わーるど」から「BABY BABY」、「ぽあだむ」とポップでキラキラしたナンバーを続け、「僕たちは世界を変えることができない」で本編を締め括った。アンコールでは、「最後に1曲だけ」と言って「少年少女」を披露。しかし山本と藤原がステージを去るも、おもむろに岡山がビートを刻み出し、さらに加藤がカッティングギターを重ねはじめた。そして、それに合わせて峯田がラップ調で唄い出したのは、「DO YOU LIKE ME」。『ねえみんな大好きだよ』の1曲目であり、リリース時に公開されたアルバムの覚書に「聴衆との物理的な濃厚接触が多分にみられる銀杏BOYZのライブにおいて、現時点で最も演奏不可能な曲であり、また逆説的にみれば2020年作品の1曲目に配されるにはこの曲の誕生は必然でした」と綴っていたハードコアパンク・ナンバーだ。それが、フロアライクなミニマムでダンサブルなサウンドにアレンジされ、ライヴのラストに届けられたのだった。つまりそれは、当時峯田が欲してやまなかった、そしてここに集まる銀杏BOYZ好きが長らく求めていたものを、ようやくこのツアーで取り戻した。そういうことなのかもしれない。

最新号では、幕間の映像にもあったカート・コバーンゆかりの地を訪れた際のエピソードをはじめ、アメリカツアーや国内ツアーで感じたことを中心にたっぷりと語ってもらった。今現在の峯田和伸の言葉を、そして音楽への思いをぜひ確認してもらえたらと思う。今回のツアーで披露された新曲しかり、銀杏BOYZの新章の幕開けは、そこまで遠くはなさそうだ。
文=平林道子
写真=まかないひとし

【SET LIST】
- アーメン・ザーメン・メリーチェイン Remix ver.
- 若者たち
- NO FUTURE NO CRY
- 大人全滅
- SKOOL PILL
- エンジェルベイビー
- 夢で逢えたら
- 恋は永遠
- 夜王子と月の姫
- 二回戦
- 漂流教室
- 新曲
- 金輪際
- ナイトライダー
- 新訳 銀河鉄道の夜
- 人間
- GOD SAVE THE わーるど
- BABY BABY
- ぽあだむ
- 僕たちは世界を変えることができない
ENCORE
- 少年少女
- DO YOU LIKE ME