【LIVE REPORT】
SUPER BEAVER〈20th Anniversary 都会のラクダSP at ZOZOマリンスタジアム〉
2025.06.21 at ZOZOマリンスタジアム
結成20周年を迎えたSUPER BEAVERのZOZOマリンスタジアム単独公演。バンドとしては初のスタジアム公演だが、そこにはいつもと何も変わらない彼らがいた。ここに来るまでに自分たちは何を大事にしてきたのか、そしてどうありたいのか。集まった3万人以上とともに、あらためてその答え合わせをするかのようなライヴだった。

満員御礼の2デイズ、2日目。18:30を過ぎた頃、SEもない中で柳沢、上杉、藤原が登場し、軽く音を鳴らすと渋谷がステージに現れた。渋谷は穏やかそうに微笑んでいて、リラックスしているのが伝わってくる。「やりますか」。ひと言だけそう放つと、〈愛されて〜〉のフレーズに続いて自然と合唱が起こり「東京」でライヴはスタートした。まるで呼吸の延長のような始まり。かましてやろうとか緊張というものは一切感じない。こんなにも丸裸で自然体でスタジアムに立つアーティストは初めて観たかもしれない。
このライヴに向かう姿勢からしてそうだった。バンドにとっては挑戦となる初のスタジアム公演だが、〈20周年だからなにか面白いことやりたい〉〈そうだ、スタジアムでワンマンやったことなくない?〉というのが出発地点。記念公演とか、今後への通過点とかではない。来てくれる人と一緒にその日のライヴを作るというのが彼らにとっては第一。だからこそ、いつもどおり全身全力でステージに立ち、来てくれた〈あなた〉と向き合うだけ。そうしたらきっと特別なものになる。それを彼らはこの20年で経験してきた。

「美しい日」の〈特別は そうだ 普遍的な形をした 幸せだ〉というフレーズが、何度も聴いてきているはずなのにより染みた。普遍的な幸せを作るのに、自分たちだけでは成り立たないから、彼らはフロアに手拍子や歌声を求める。さらに、フロアも全力でそれに応えようとするから、SUPER BEAVERの音楽が成り立ち、まさしく美しい光景が広がっていく。そして、この時間が永遠でないことも彼らは知っている。時間はあっという間に過ぎていく。そのあとに披露された「閃光」は、胸ぐらを掴むように距離を縮めてくるアグレッシヴなプレイで、今日という日を一瞬も見逃すんじゃないぞ、と訴えているようでもあった。

ステージセットも演出もとにかくシンプル。セットリストもこの日だけの特別というよりは、ライヴ定番曲が中心に据えられているように感じた。これまで愛する〈あなた〉と作り上げてきた楽曲たちを、あらためてこの場でデカく打ち鳴らしたいという思いもあったかもしれない。結果として、彼らの楽曲が持つ普遍性をより感じる場面が多かった。「青い春」で唄い続けてきた未来への希望、「突破口」や「ひたむき」で見せてきた誠実で愚直な姿勢も、〈どうあれたら幸せか〉〈こうありたい〉という理想や願望を歌にすることで一歩ずつ進んできた。その結果として、3万人以上の人を前にライヴしている。その事実があるから、1曲1曲、1フレーズ1フレーズが確かな実感と説得力を持って耳に身体に飛び込んでくる。

自分たちが歩んできた道のりを曲で提示し、あなたと一緒に音楽を鳴らす。普段どおりに全力を出す、と言葉で書いてしまえば簡単だが、それを実行するのは並大抵のことではない。大きな舞台に立てば誰だって肩に力が入ってしまうもの。でも彼らのステージングは気合こそ入っていたが、重心はしっかりしていた。4人がそれを成し遂げているのは、日頃から自分がどうあるべきかに意識を向けているからだろう。そのうえでつねにベストパフォーマンスを発揮するという意味では、もはやアスリートに近いのかもしれない。花道を練り歩く渋谷龍太も堂々たるもの。このキャリアのバンドマンで花道をゆっくり歩かせたら右に出るものはいないだろう。彼自身そういう姿が似合う自分に憧れて、そのための努力もしてきた。花道の真ん中で3万人の視線を一手に引き受ける姿が堂に入っているのは、まぎれもなく自分というものと向き合い続けてきたから。どこまでいってもブレることがない。彼らがどれだけ丁寧に1日1日、1ステージ1テージに全力をかけてきたのか。想像すると畏怖の念すら抱いた。

楽曲の中でも、彼らはつねにそれを歌にし続けてきた。この日も演奏された「人として」や「正攻法」もそのひとつ。バントマンとして、ひとりの人間として、地に足をつけてここまでやってきた。「自他ともにスマートな道のりじゃなかった」と渋谷はMCで語っていたが、立ち止まりそうな時でも、立ち止まったほうがツラいことを知っているから止まることなく進み続けてきた。人との出会いが〈こうありたい〉という思いを育み、それを音楽にして、その歌に共鳴するように集まった人たちと共にこの場にいる。カッコいい自分でありたい、悔し涙より嬉し涙を流せる人生でありたい、そんなふうにもがき続ける人同士のエネルギーがぶつかり合って大きな渦になっていく。「東京流星群」や「名前を呼ぶよ」はスタジアムがよく似合っていた。曲がもともと持っていたポテンシャルもあるだろうが、ステージだけでなくフロアの1人1人も含めてこの日を作り上げる、という意思があるSUPER BEAVERのライヴだからこそ成し得る光景だったと思う。

「俺たちの音楽は全力で鳴らして明日につなげる。一過性の安心感ではなく、俺たちの音楽が止まってからも胸張って生きられますように」「誰かのための音楽じゃない。自分のための音楽だ。自分自身に見せてやろうぜ」
渋谷がこう叫んだあとに「小さな革命」が鳴らされる。クラップで会場がひとつになっていく。うまくいかない日々だってあった。自分の限界を知り、それを越えようと必死に現実を塗り替えてきた。そんな日を繰り返した先にたどり着いた今日という日。そんな彼らが〈さあ何がしたい?どう在りたい?〉と全力で訴えかける。自分たちの足でしっかり歩いてきたからこそ、誰かの背中を力強く押せる。そして、その先で一歩を踏み出すのはいつだって自分自身であり、その人生のそばには必ずSUPER BEAVERの音楽が鳴っている。スタジアム内に起きた絶叫のようなシンガロングは、明日へと踏み出す人の希望を打ち鳴らしていた。
「アイラヴユー」で花火があがる。もうすぐライヴの終わりが近づいている。楽しいことも悲しいことも永遠には続かない。人生はそれほどに儚いし、一瞬で過ぎてしまうし、終わりもいつか必ずくる。でもこの日見た景色はきっと一生忘れない。それが明日からを生きていく一筋の光になる。そんなことを思いながら散っていく花火を目に焼き付けていた。そして、最後には新しいツアーが発表された。生きていれば同じ日なんて一度もないし、困難も苦しみも哀しみも必ずまたやってくる。だから彼らはこれからも音楽を鳴らし続けるんだ。今の時代を生きる、〈あなた〉と共に。
文=竹内陽香
写真=青木カズロー
※8月5日(火)発売の音楽と人9月号にて、渋谷龍太のソロインタビューを掲載! ZOZOマリンスタジアム公演を経ての思い、そしてニューシングル「主人公」についてお届けします。

【SET LIST】
- 東京
- 青い春
- 突破口
- 美しい日
- 閃光
- ひたむき
- 主人公
- 人として
- 片想い
- 正攻法
- 秘密
- 東京流星群
- 名前を呼ぶよ
- まなざし
- それでも世界が目を覚ますなら
- 小さな革命
- アイラヴユー
- 切望