【LIVE REPORT】
ポルノグラフィティ〈因島・横浜ロマンスポルノ’24 〜解放区〜〉
2024.09.08 at 横浜スタジアム
デビュー25周年を迎えたポルノグラフィティの野外ライヴ〈因島・横浜ロマンスポルノ’24 〜解放区〜〉は、岡野昭仁(ヴォーカル)、新藤晴一(ギター)の地元の広島県因島で2日、横浜スタジアムで2日と、計4日の開催を予定していた。しかし台風10号の接近により、因島の初日公演が中止に。因島ではライヴだけではなく様々な催しがあり、島全体で盛り上がっていたから、メンバーもファンも無念だったろう。そのぶん、開催が叶った2日目は大いに盛り上がったと聞く。ライヴ写真を見ると、ステージセットは骨組みのみ。予測できない天候の中でもチームとして最善を尽くし、どうにかライヴを実現させたのだろうと想像するとともに、このライヴに懸けるポルノの思いの強さを感じ取った。
この記事でレポートする〈因島・横浜ロマンスポルノ’24 〜解放区〜〉の最終公演(横浜スタジアム2日目)は、ポルノグラフィティのデビュー記念日、9月8日に開催された。彼らは雨バンドとして知られているが、この日はライヴ中「こんなに穏やかな横浜スタジアムは初めてです。こんなに晴れたこと、ある?」(岡野)、「ない!」(新藤&観客)というやりとりが生まれたほどの快晴。開演時刻になると、岡野と新藤が、潮風にシャツをなびかせながらやってきた。2人の後ろには、完全版のステージセットがそびえている。
ライヴは、〈Welcome!横浜!〉と歌詞を替えたヴァージョンの「おいでよサンタモニカ」からスタート。最初のブロックで早くもデビュー曲「アポロ」が披露され、曲中には岡野が「25年間ありがとう!」とファンへの感謝を叫んだ。それにしても、左右へ伸びる花道をけっこうなスピードで走っているのに、歌声がまったくブレないってどういうことだろう。岡野が自分の歌が高く評価されていることを、わりと最近まで自覚していなかったという話を以前聞いた時、「嘘でしょ?」と思った記憶があるが、やっぱり、どう考えても、とんでもないヴォーカリストだと思う。
色褪せるどころか輝きを増すデビュー曲にハッとさせられつつ、〈彼らがメジャーデビューした頃、私は何をしていただろう?〉と回想した。1999年はちょうど小学校に入学した年。CDショップライヴハウスもインターネットもまだ知らず、音楽に触れる手段といえばテレビぐらいしかなかった子供の頃、まさにテレビからよく流れていたのがポルノグラフィティの音楽だったように思う。このライヴに向かう道中、ベストアルバムを聴いていたら、知っている曲、なんなら〈カラオケでみんなでよく唄ってたから、歌詞全部憶えてるんだよな〉という曲ばかりで驚いた。25年前の記憶なんて薄れつつあるけど、聴いていた音楽は身体に染みついているみたいだ。私と同じような人は、きっと全国にたくさんいるだろう。
その上でもっと驚きなのは、数々のヒット曲を世に送り出してもなお、すごろくで言う〈あがり〉の状態に落ち着こうとしないバンドの在り方である。例えば今回のライヴだって、シングル曲メインで、わかりやすくエンタメに寄ったライヴにすることもできたはずだ。しかし彼らはそうしない。むしろ最新シングルからの「解放区」や、リリース前の「ヴィヴァーチェ」といった新曲を中心にライヴを構成し、今の自分たちの姿を見せていた。しかもその新曲たちはアニバーサリーを華やかに祝うものではない。同時代を生きる人への力強いメッセージソングだ。人は歳を重ねるほど、失敗を恐れて安牌を選ぶことが増えたり、程よく手を抜く方法を覚えたりする。その逆を行くように「あんたらの心は熱くなってますか!」と繰り返し投げかけながら、目の前の人を音楽で奮い立たせようとする2人の姿が、大人になった自分の目には勇敢に映った。
何が彼らを突き動かすのかというと、やはりファンの存在だろう。先述の「こんなに晴れたこと、ある?」「ない!」のやりとりの時にも思ったが、ポルノとファンはタッグ感が強い。例えば「アゲハ蝶」で、難しいリズムで手拍子し、転調にも対応しながらコーラス部分を歌う観客とバンドが〈合奏〉を繰り広げる様子は、初めて観ると感動もの。岡野が「ヒトリノ夜」で観客に「ここも唄える?」と尋ねた際、見事なシンガロングが返ってきたため、「すげー」と呟いていたのも印象的だった。
鉄板曲にしっかり反応しつつコアな曲だとさらに沸くファンのことを、2人も頼もしく感じていたことだろう。「洋楽ロックバンドのスタジアムライヴに憧れて、因島を出て旗を上げた」とデビュー前を振り返っていた岡野のMCに続き、新藤とサポートミュージシャンによる4分に及ぶインスト曲「螺旋」でたっぷりギターを響かせる。「デビューしてバンッと行ったじゃん、俺たち。いろいろな人たちに力を借りて、それはそれでいい経験だったんですけど、25周年でこんなたくさんの人たちに祝福してもらいながらライヴができるなんて、意味が違うんだよね」と語っていた通り、自分たちの足でここまで歩いてきたという実感や、そこについてきてくれたファンへの信頼があるからこそ、今、開放的な気持ちでプレイできているのだろう。
一方、岡野は、ライヴの終盤に「個人的な話なんだけど……」と前置きしてから、「みんながここまで背中を押してくれたけえ、25年で今日が一番いい歌が唄えました」と打ち明けた。全然個人的な話ではない気がするが、バンドではつねに〈ポルノグラフィティの岡野昭仁〉としてステージに立っているという彼からすれば、歌の手応えの話は個人的ということになるのかもしれない。そんな繊細なニュアンスも含めて温かく見守るファンに対し、「5年後も、10年後も、みなさんといい景色を見続けられたら」と伝えたのだった。
ライヴから透けて見えたのは、薪をくべ合い、共に炎を大きくしていくポルノグラフィティとファンとの絆だ。互いの存在を感じられる限り、炎はまだまだ燃え続ける。だから彼らは広いところに漠然と曲を投げ込むのではなく、つねにファンをイメージし、目の前のあなたに届け!という一心で、メロディや歌詞を紡いでいるのだろう。本編のフィナーレを担った「解放区」では、岡野が〈この国は終わらない 私とお前が/ここにいる限り 終わりはしない〉と唄ったのと同時に花火が打ち上げられた。夜空に浮かんだ花束は、ポルノとファンの関係を祝福しているようだった。
文=蜂須賀ちなみ
【SET LIST】
- おいでよサンタモニカ
- ネオメロドラマティック
- メジャー
- アポロ
- 狼
- OLD VILLAGER
- FLAG
- カメレオン・レンズ
- シスター
- 愛が呼ぶほうへ
- むかいあわせ
- ギフト
- THE DAY
- 螺旋
- Zombies are standing out
- 今宵、月が見えずとも
- ひとひら
- ヒトリノ夜
- Jazz up
- ミュージック・アワー
- アゲハ蝶
- 解放区
ENCORE
- ヴィヴァーチェ
- Ohhh!!! HANABI
- ジレンマ