2021年にソロとしての音楽活動を開始以降、3枚のEPをリリースしてきた鞘師里保。ついに、7月24日にファーストフルアルバム『Symbolized』をリリースすることが発表された。本誌では毎月音楽の話をほぼすることなく、彼女の趣味である散歩の魅力だけをゆるゆると語る連載『はじまりは吉島モデルハウス』を担当してもらっているが(註:8月号で最終回を迎えました)、今回は真面目にインタビューを敢行。ガラリと雰囲気を変え、アルバムのリリースに先立って、本作やこの3年間での心境の変化を探った。鞘師里保とは、つねに〈理想の自分〉を追い求めている人。それゆえ、知らず知らずのうちに自分を苦しめていたのが今までの彼女だった。しかし今は、以前よりも自分自身に寛容になれたことで、ここに掲載されている写真のように伸び伸びと創作活動に取り組めているようだ。鞘師里保という表現者には、まだまだ未知数の可能性がある。
(これは『音楽と人』2024年7月号に掲載された記事です)
満を持してのファーストフルアルバムですね。
「はい。ついに! えへへへ」
アルバムのタイトルは『Symbolized』ですけど、どんな思いがあるんでしょうか?
「シンプルに今の私を象ったもの、象徴しているものって意味があります。これからももっと表現の幅が広がっていけばいいなって思いつつ、ここで一度区切ることで、自分を見つめ直すのが今後のために必要なんじゃないかと思って。私には自分の理想像があるんですけど、今はまだその途中で。昔の私だったら、理想にたどり着くまでは歩みを止めて過去を振り返ることはしたくなかったんですけど、今なら立ち止まることも許せると思って(笑)。少しは自分に寛容になれた気がしますね」
ちなみに、その理想像ってどんなものですか?
「あの、ステージ上でもっと輝きたいんです」
今でも十分輝いてますよ。
「いえいえ! まだまだです」
鞘師さんが自分にストイックなままだったら、このタイミングでアルバムが出てなかった可能性もあるんですか?
「ありますあります。3年どころじゃなくて、何十年と時間がかかったかもしれないです」
そうならなくてよかったです(笑)。アルバムという形で今までの曲を聴いてみて、どう思いましたか?
「こんなに幅広くいろんなジャンルに挑戦してきたのかという気持ちもありますし、声の出し方とか、言葉のチョイスもこの3年間でだいぶ変わったんだなと思います。ソロとして活動再開してからあっという間でしたけど、ちゃんと成長できてるんだなって……自分でも感慨深くなりました(笑)」
1曲目の「BUTAI」は3年前にリリースされたファーストEP「DAYBREAK」に収録されているもので、〈大丈夫 自分に言い聞かすの〉と唄っているじゃないですか。この曲を聴き直して、まさにそんなふうに自分を鼓舞しながら歩み続けた3年間だったんじゃないかなと思いました。
「そうですね。今お話を聞いて、ソロで最初にステージに立った時、びっくりするぐらい緊張したことを思い出しました(笑)。グループとしてステージに立っていた時は、それはそれでチームで表現する難しさもあって。でも一人だと、ダンサーさんやアーティストの方と一緒にステージに立っていても、やっぱりすべての責任は自分で負っているような感覚で。不安に押しつぶされそうになった時もありましたけど、いろんな人に支えてもらってここまで来たんだなと実感します」
ステージに立つこともそうですし、楽曲制作も初めて経験することの一つでしたよね。特に作詞は大きな挑戦だったんじゃないかと思います。
「はい。作詞は今も勉強しながら取り組んでますね」
アルバムを聴いてると、さっきおっしゃったように、鞘師さんから出てくる言葉もどんどん変化してることがわかります。初期の頃は〈本当の私をわかってほしい〉って切実な思いが感じられましたけど、最近の歌詞はその先を行っているというか。思いを強く訴えるだけじゃなくて、楽曲ごとに詞の世界観がガラリと変わったり、以前よりも気負わずに書きたいことを書かれている印象があります。
「そうですね。初期の頃は、1から10まで自分が思っていることを自分で書かないと自分の曲にならないと思い込んで、全部自分でやらなきゃって使命感が強かったんです。でも最近は作詞もそうですし、音周りのことも含めて、一緒に作業してくださっている人たちと『こういうのがいいね』とか話しながら進めていて。少しでも自分が関わっているなら、それは自分の作品と言っていいんだなって、やっと気づくことができました」
そう思えたのはどうしてなんでしょう?
「うーん、自然とそうなっていったというか……やっぱり経験してきた時間とかがそう思わせてくれたんですかね。だんだん持ち曲も増えていって、ステージに何度も立って。まだ3年ではありますけど、ここまでやってこれたことが自信になっている気がします。あと、これまでの私は綱渡りしているような状態で、音楽だけじゃなくて人生自体もそんな感じで歩いてきたんですけど、周りの人たちが支えてくれることで落ち着いてきたから余裕が生まれたのかもしれないです(笑)」
綱渡りな感じですか? 全然そんなふうには見えないですけどね。〈自分らしく生きていくために〉という思いからグループを卒業して、留学を決意。それを実行して、アーティストとして活動再開。むしろ、ちゃんと地に足がついているなって思いますよ。
「振り返ってみると〈あ、私ちゃんとやってこれたな〉って思えるんですけどね(笑)。基本的には行き当たりばったりというか……あまり長いスパンで物事を考えるタイプじゃないんです。そのわりに、〈明日の自分がどういうふうに過ごしてるんだろう〉って不安になることも多かったです。そういう自分が今も私の中にいるはいるんですけど」