2019年に広島で結成された4人組のbokula.。昨年12月に渋谷クラブクアトロで彼らのライヴを観た時、フロントに立つえい(ヴォーカル&ギター)は、目の前にいる人たちを威勢よく引っ張ったり、時に本音をこぼしたりしながら、その場にいる人たちとガッツリと手を組んでステージを盛り上げていた。ライヴの中でトイズファクトリーからメジャーデビューすることを発表し、今回リリースされるのがメジャー初EP「涙 滲むのは心の本音です.」だ。そこに収録されている楽曲には、キャッチーなギターロックに乗せて、人との関わりやそこで生まれる葛藤や未練のようなものが滲んでいる。ライヴからも音源からも感じる、誰かと深く繋がり合いたいという思い。作詞作曲を担うえいは、どんなふうに人と向き合い、音楽に何を求めているのか。それを探るべく初めて膝を突き合わせてみた。
(これは『音楽と人』2024年5月号に掲載された記事です)
先日、SUPER BEAVERの武道館でたまたまお会いしまして。
「はい。すごくいいライヴでした。カッコよかった」
えいさんにとって、SUPER BEAVERや渋谷(龍太)さんは、どんな存在ですか?
「音楽的にも人間的にも、めちゃめちゃ尊敬できる人です。何度かご挨拶させてもらったこともあるんですけど、まだ対バンもしてない俺みたいな後輩にもすごく謙虚で、誠実に接してくれて。自分もこうありたいって憧れますね。実際の僕自身は、あんまり目を合わせづらいんですけど」
目を合わせづらい?
「なんか自信がなくて……」
自分自身にですか?
「そうそう。バンドやってたり、ステージに立ってる時はめちゃくちゃ自信持ってやってるんですけど、オフの時はもう……早く家に帰りたいです(笑)」
じゃあ、こうしてひとりで取材受けるなんて。
「もう、めっちゃ動揺してます。ひとりだとあまり喋れないんで」
ははは。SNSで、ライヴの終演後の関係者挨拶について投稿していたじゃないですか。
「……あぁ~! はいはいはい」
音楽業界の慣わし的なものに対する疑問と意見を綴ったものでしたけど、あれを見て、言いたいことがはっきりある人なんだろうなと思っていたんですが。
「あれは、そうですね。バンドをやってきて、今はいろんな人が僕らのことを見てくれたり、応援してくれたりするようになってきたんですけど……中には本当にいいと思ってくれてるのかな?って感じちゃう時もあって。心から応援してくれる人がいることもわかってるんですけど、どうしてもひねくれてるんで(笑)。人のことを疑っちゃうというか、いい言葉を言われても素直に受け取れないんですよね」
あの時はそういう思いを書かずにはいられなかったと。
「どうしても吐き出しちゃうんですよ、僕。ああいうことを世に発信してしまう自分はまだ未熟だなと思いながら。でも納得いかないことを我慢して自分を押さえつけて活動するのもバンドのスタンスとは違うから。そういう葛藤は日々あります」
去年、クアトロでライヴを観させてもらって、そこでも「17歳の時の自分はすごいひねくれてた」という話をしていて。昔からそういう性格だったんですか?
「当時は自覚なかったんですけど、メンバーが言うには、ほんとに誰のことも受け付けん人間だったらしくて。今はLD&Kやトイズファクトリーと一緒にやらせてもらってますけど、それも最初はやっぱり大人を信用できなかったし、受け入れるまでに時間がかかったし。とにかく大人と何かをするっていうのが苦手で」
それはどうして?
「どうしてなんだろう? わかんないですけど、人のことを信用しちゃいけないなっていうのはずっとあるんですよね……。まあでも1個大きな理由は、僕がめちゃくちゃ好きで、すごい聴いてたバンドがいるんですけど。ある瞬間から音楽性が変わっちゃって……それが当時の自分は周りの環境が変わったせいだと思ってたんですよね。バンドは絶対正義だから、バンドは悪くない。周りにいる人やいる状況のせいだって。それからそういうものに対して苦手意識みたいなものを抱くようになったのかもしれないです」
じゃあメンバーとか友達とか、自分の周りにいる人は信用できていたんですか?
「メンバーのことは信用できてたけど……友達はあんまいないからな(笑)。いや、好きな友達もいますよ。好きだけど、期待はしないようにしてます」
期待しないっていうのは。
「これも自分に自信がないのと繋がってるんですけど、この人は仲よくしてくれてるけど、自分がよく思われてるって思ったらダメだ、みたいな気持ちが昔からあって。相手に期待し過ぎて、裏切られた時がすごく悲しくなるんで。それが怖くて、つねに1個バリアを作ってるのはありますね。たぶん誰と接する時にもそれが癖になっちゃってるというか」
自己防衛のために人と接する時に壁みたいなものを作ってしまっていると。
「はい。だからまず疑って入ったり、マイナスなことを考えたり。いつからか、そういう癖がついてますね」
それだと他人とバンドをやるって大変じゃないですか?
「ああでも、メンバーにはそういう壁はないかもしれないです。『こうだよね』って具体的な話はしないけど、肌感で、僕がやってることを100パー正義と思ってついてきてくれてる感じがあるんで、そこは僕も信じてるというか。だからバンド内で揉めたりすることも今までないですね」
メンバーとはバリアなく付き合えていると。
「bokula.を組んだ時からそうだったかも。なんでだろうな……プライベートの僕になると、どうしても壁はできちゃうんですけど」
えいさんが壁を作らずに人と向き合ったり、素直に自分を出すためには、音楽やバンドっていうものが必要ってことなんでしょうか。
「ああ、どうなんですかね。でも音楽やってないとまともに生きてないだろうなっていうのは思います(笑)」
去年クアトロで観て、すごく自分自身をさらけ出してステージに立ってるなと思ったんですよ。
「最近、めっちゃそうなりました」
あ、最近なんですか?
「去年の頭に〈ULTIMATE ONE MAN TOUR〉っていうツアーがあったんですけど、その時は〈あのバンドマン、カッコいい〉〈あの立ち振る舞い、カッコいい〉みたいな、どっかで誰かの真似事をしてる自分がいたんですよ。で、観てもらったこの前の〈Phantom youth TOUR〉っていうのが、対バンもあったんですけど、みんな自由っていうか、自分らしくいるなっていうのを見てきて」
他の対バン相手とかが。
「そうです。そういう姿を見て、ちょっと自分を取り繕っていたかなって思うようになって。そう気づいてからは……弱音を吐きたい時はライヴ中でも吐くし、マナーが悪いって思ったら素直に怒るし。うん、ステージ上で遠慮することはなくなりましたね」
それができるようになったのは最近のことなんですね。
「そうです。たまにマネージャーから『MC長すぎ』って言われますけど」
それも、それだけ思いをちゃんと伝えたいってことでしょうし、人に対して壁を作っちゃうと言ってましたけど、クアトロのライヴでは、そういうものを感じることはまったくなくて。
「ああ、たしかに」