平安時代の最強の呪術師・安倍晴明の活躍を描いた夢枕 獏の小説『陰陽師』が実写映画化。本作は、安倍晴明が陰陽師になる前の知られざる学生時代を描く完全オリジナルストーリー。脚本と監督を務めた佐藤嗣麻子さんに、映画の見どころや主演を務める山崎賢人くんをはじめとしたキャストの魅力、呪術シーンのこだわりなど、撮影裏話をたっぷり教えてもらいました!
(これはQLAP!2024年4月号に掲載された記事です)
本作は、学生時代の安倍晴明の物語を描く完全オリジナルストーリー。制作の経緯や映画化する上で大切にしたのはどんなことでしょう?
本作の原作小説は、平安時代に活躍した天才陰陽師である安倍晴明を主人公とした夢枕 獏さんの作品。私は19歳の頃から獏さんのファンで、『陰陽師』の大ファン。人間の本質や悲しみが描かれているところが素晴らしく、何より安倍晴明と貴族の源 博雅の関係性がとてもおもしろい。獏さんとも40年くらいの仲で、「いつか陰陽師やってよ」と言われていたこともあり、2016年ごろから脚本に取り掛かりました。とは言っても、『陰陽師』はいろいろな媒体でメディア化されていて、すでにやり尽くされた感がある。そこで、原作にはない陰陽師になる前の学生時代の晴明が博雅と出会い、友情を築くまでを新たに描くことにしました。2人の“バディ感”を最も大切に心掛けたのですが、完成品を見た獏さんも「あの2人が僕の作品につながるんだと思ったら泣けた」と言ってくれてうれしかったですね。
獏さんに脚本を確認いただいた際、「言葉が現代語すぎるのでは?」と気にされていたのですが、幅広い世代の方に見ていただきたく、冒頭に「ここからは現代語で」とナレーションを入れることで快諾いただきました。また本作では、“フェイクニュース”を取り入れていて、人の心を操る催眠術的なものを“呪”と定義しています。“呪”から逃れる方法も作中に示しているのでぜひ探してみてください。
主人公・安倍晴明を演じた山崎賢人くんのキャスティング理由や初めてお会いした時の印象は? また、晴明を演じてもらう上で事前にどんな話をされましたか?
主演の山崎賢人さんは、キャスティングを考えているときにプロデューサーから名前が挙がって。映画『キングダム』シリーズなど、陽のイメージがある方という印象があったので最初は意外だったんです。でも実際にお会いしたら、とても不思議な方で。半分どこかの世界に置いてきたような浮世離れしたオーラがあり、それが人間離れした晴明のようで。原作の晴明も背の高い美青年の設定なので、そういう面でもふさわしいなと思いました。
演じてもらう上で山崎さんとお話ししたのは、晴明はあまり感情を表に出さないけど、無表情ではないということ。内面に何も感じられないようにはしたくないとお願いしました。それから、あまり瞬きをしないでほしいと伝えて練習してもらいました。また、山崎さんと雑談をしていたときに、片眉を上げるしぐさをされていて、それが晴明っぽかったので演技に取り入れたりもしています。
呪術シーンでは、手で印を結ぶしぐさも多いのですが、空き時間も指を柔らかくするためのストレッチをしたり、何度もテイクを重ねたシーンでも文句一つ言わずに挑んでくれて、とてもストイックな方です。晴明の静かな怒りを表現した表情なども本当にステキなので、強くて美しい晴明をぜひ楽しんでください。
晴明と共に、都を襲う凶悪な呪いと強大な陰謀に立ち向かう源 博雅役を演じる染谷将太さんや、博雅の従姉妹である徽子女王役の奈緒さん、帝役の板垣李光人くんの魅力とは?
晴明と博雅は“凸凹コンビ”がいいなと思っていて、博雅はコメディーパートもシリアスパートもあるので、両方できる役者さんにお願いしたいなと。それで山崎さんよりは少し背が低く、確かな演技力がある染谷将太さんにお声掛けしました。若い頃の晴明と博雅の友情を描く上で大事にしたのは、 ボケとツッコミのような2人の関係性。その関係性を深く知ってもらうために、撮影に入る前に一度あえて役を交換して演じてもらったんですが、おもしろい芝居をしていて、お互いの立場や呼吸も感じ取ってくれたと思います。お二人自身のほんわかした雰囲気が似ているので、最初から相性も良かったですね。
博雅を慕う徽子女王を演じるのは、奈緒さん。 今作のキャストは実年齢に近い方が多いのですが、奈緒さんは19歳の徽子女王よりも実年齢は少し上。ただ、顔立ちが愛らしく演技も素晴らしいのでぜひとお願いしました。また、 晴明の噂を聞き興味を抱く帝(後の村上天皇)役は板垣李光人さん。帝は10人以上の妻がいたプレイボーイなのですが、 板垣さんの中性的な雰囲気がとても合っていましたね。芝居に対する思いも強く、魅力的に演じてくださいました。
自らを“呪術オタク”と名乗るほど呪術に精通している佐藤監督。呪術シーンを撮る上で特にこだわったことは? また、監督お気に入りの見どころシーンを教えてください。
呪文やお札といった呪術は、呪術監修の加門七海さんと作ったもの。 これまでの陰陽師の作品に出てきた呪術は真言密教をもとにしたものが多いのですが、今回は古文書や道教を参考にしました。ただ実際に昔から言い伝えられている内容でもあるので、万が一のことがないように、フェイクを取り入れています。長い呪文には山崎さんも苦戦していて、何度も練習されていましたね。本来、呪文は感情的に唱えるのではなく、脳の周波数を変え、心の静寂を保った状態で唱えなくてはいけません。山崎さんには特に伝えていなかったのですが、自然と本来の唱え方に似た演技をされていて、さすがだなと感心しました。
作中には呪術のこだわりをたくさん詰め込んでいますが、特にラストシーンの晴明のセリフは、呪術が好きな方には響くセリフになっていると思います。呪術戦の見どころは、 都に襲い掛かる火龍のシーン。晴明が烏帽子を脱ぎ、長髪を振り乱しながら戦うカッコいいシーンになっているので注目してみてください。
晴明の人間離れした動きを表現したアクションも見どころ。アクションシーンの撮影で印象に残っていることはありますか?
今作は人を殺めるアクションではなく、敵から逃れるためのアクションになっています。晴明は“ 狐の子”という伝説がある人物なので、重力を感じさせない、舞うような動きをイメージしました。アクション監督の園村健介さんは、フィギュアスケーターの羽生結弦選手の演技を参考にしたとおっしゃっていましたね。山崎さんはアクション経験も豊富な方なので、 園村さんも信頼して遠慮をせずに動きを作っていて、山崎さんだからこそ実現できた美しいアクションシーンになったと思います。
それから山崎さんは、足がとっても速いんです。逃げるシーンでは誰も追いつけず、走る速度を落としてほしいとお願いするほどでした(笑)。本当に身体能力が高く驚きましたね。
平安時代を再現したロケ地や衣装で、特にこだわった部分や苦労したこと、注目ポイントを教えてください。
平安時代を再現するためのロケ地探しは大変な部分もありましたが、晴明にゆかりがある仁和寺と大覚寺に特別に撮影の許可をいただくことができたのはすごくうれしかったですね。特に仁和寺は、今作にも登場する僧・寛朝が実際にいらしたお寺なので、絶対に撮りたかった場所。国宝の金堂で撮影させていただいたのですが、本物だからこそ持つパワーがあって、映像の重みがまったく違いました。
また衣装は、平安中期という時代を研究して制作しました。現代人が考える平安の衣装は、実は源氏物語絵巻で描かれた平安後期のもの。調べてみると晴明の時代の平安中期は、細くて軽い日本産の絹糸が使われ、衣装にのり付けもされず、さらっと羽織っている感じだったようです。晴明の狩衣は高野山の霊木から作られた生地を採用して、実際に残されている晴明の絵に近いシルエットに仕上げているので、ぜひ衣装も楽しんでいただけたらと思います。
※山崎賢人の「崎」は、正しくは「たつさき」が正式表記です
文=室井瞳子
佐藤嗣麻子監督
さとう・しまこ/1964年生まれ、岩手県出身。ロンドンの映画学校で学び、1992年に監督デビュー。多数の映画、ドラマの演出、脚本を手掛ける。近年の監督作品は映画『アンフェア the end』、脚本作品はドラマ『ハイエナ』など。
『陰陽師0』
(ワーナー・ブラザース映画配給/4月19日より全国ロードショー)
脚本・監督:佐藤嗣麻子
出演:山崎賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、 板垣李光人、國村 隼/北村一輝、小林 薫 ほか
(C)2024映画「陰陽師0」製作委員会