社会派ミステリーのヒットメーカー・真保裕一が手掛けた同名小説を中島健人主演で映画化。政治家一族の宇田家の次男・晄司(中島健人)は、経営していた建築会社が倒産し、やむなく国会議員の父・清治郎(堤 真一)の秘書を務めていた。そんなある日、妹・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が、何者かに誘拐されてしまう。犯人の要求は身代金ではなく、「明日午後5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」という父への脅迫だった。晄司は24時間という限られたタイムリミットの中で、”罪“に隠された真相を暴き、家族の命を救うことができるのか――? 水田伸生監督に、本作の見どころやキャストの魅力、撮影秘話などを伺いました。
(これはQLAP!2023年11月号に掲載された記事です)
本作は“政治の闇”と“家族”を巡るサスペンス作品。映画化する上でこだわった部分とは?
原作小説は、現行政治への批判や政治家の世襲制度への風刺がしっかりと描かれた真保裕一先生の作品。しかし、エンターテインメント映画にかじを切ろうとしたときに、主題が世襲批判ではドラマチックになりません。そこで僕が焦点を当てたのは“家族”。代議士の父親・清治郎、その秘書である次男・晄司という、普段は心の交流のない旧態依然とした親子が、孫であり姪である柚葉が誘拐されることによって、感情をむき出して交流することになる。そこにドラマが生まれるわけです。
上映時間100分というのも最初から決めていたこだわりで、もともとテレビ畑にいた僕にとっては、ラップタイムを考えながらのほうが撮りやすい。そのために、原作では柚葉の母親である麻由美は晄司の姉ですが、無条件に守りたい存在の妹にしたり、清治郎の妻はすでに亡くなった設定にしたり、端的に伝わるように脚色をしています。健人くんと堤 真一さんという鮮度の高い父子像、そして事件性というのも相まって、息つく間もなく見てもらえる映画になったと思っています。
主演の中島健人くんのキャスティング理由や魅力は?
プロデューサーとの打ち合わせで晄司役は誰がいいかと聞かれ、一番最初に「中島健人くん」と伝えました。一緒に仕事をした経験はなかったのですが、以前から健人くんに興味があり、お会いしてみたいと思ってドラマ『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』の現場に遊びに行ったことがあって。そのときにあいさつした印象が、とてもクレバーでエンターテイナーだなと思ったんですよね。その日以来、余計に興味が湧いてきて、歌番組を見ていても自然と目がいくんです。そうやって見ていると、「セクシーサンキュー!」と言っている彼に“影”が見えてくる。悪い意味や暗さとかではなく、アイドルなのにふっと後ろに引く瞬間がある。その“距離感”がすごく演出家的な気質を感じて。
今作の晄司も同じで、誘拐事件への対応を見ても、全体を見る力や先読みする力が備わっている。俳優は役を演じていても本来の人間性がこぼれ出るものなので、晄司は健人くんにぴったりな役だなと思ったんです。それから健人くんは、カメラに対する皮膚感覚も強い。常に意識が全方位に向いていて、撮影環境や共演者の動きに瞬時に対応できる。それはアイドルとしてたくさんのステージに立ち、周りを見てきた経験から得た感覚なんだなと感じましたね。本当に魅力的で素晴らしい俳優です。
堤 真一さんの役者としての魅力や父子を演じた堤さんと中島くんの現場での様子を教えてください。
父親・清治郎役の堤さんは、芝居が極限までシェイプされていて、その役が何を考えているのか、声の震えや目線だけで表現できる素晴らしい俳優。最初は、健人くんの父親であり大物政治家を演じるには自分はまだ若いと考えていたようで、この役を受けるかためらっていたんですが、「ニュースで見るこの政治家は堤さんと同じ年齢ですよ」と口説き落としました。
物語の主役となる父と息子は対立するシーンも多く、健人くんは真正面から大先輩に挑んでいましたね。芝居では火花が散っていましたが、カットがかかれば驚くほど2人は仲良し。実は堤さんはシャイな方なのですが、心を開いたのは、きっと健人くんが役者として優秀だから。役者にとって共演者のレベルが高いことは、一番の喜びですからね。フレッシュな組み合わせの共演という部分でも楽しんでいただけたらと思います。
撮影で印象的だったシーンや驚いたことなど、撮影秘話はありますか?
僕は、俳優が芝居でリアリティーを生むには体の反応がすべてだと思っていて。役について取材したり台本の一言一句を調べたり、周到に準備をして納得した上で、目の前の共演者の動きにとっさに反応することでリアリティーが生まれる。そして優れた俳優は、その準備の質も高い。健人くんも、実際の議員秘書に取材をして、靴やネクタイ、カバンなどの持ち物から、先回りする議員秘書としての動きや心構えまで、相当細かく質問をしていたみたいです。
作中の晄司が罪の真相に迫るシーンの中で、国土交通省に乗り込んで官僚を押さえ込む場面があるのですが、そのときの体の反応もすごかった。官僚に立ちふさがり、壁に手を当て、胸ぐらをつかむ。でも高まる感情はぐっと抑えて、表情や動きもリアルな緊迫感で。事前に打ち合わせもせずに撮影したのに、我々スタッフが考えた通りの動きで驚きました。健人くんも「今までで最上の壁ドンだ」と言っていましたね(笑)。
撮影の合間のキャストの様子や現場の雰囲気はいかがでしたか?
空き時間は健人くんが堤さんとケータイで自撮りをしたり、食事のときに爆笑していたり、和やかなムードでしたね。「家族が誘拐されたのに、にこやかすぎだろ……」と思っていたら、エライザさんが「宇田家も麻由美や晄司が子供の頃は、家族でたくさん笑ったりしたはずです」と言うんです。なるほどな、と感心しました。
また、暑い真夏の撮影でしたが、晄司のバディ的な役割を担う刑事・平尾役の山崎育三郎さんはまったく汗をかかずにジャケットをビシっと着ていて。汗かきな健人くんは育三郎さんと会うときには、汗をかいているのをバレないようにしていたそうです(笑)。
文=室井瞳子
水田伸生監督
みずた・のぶお/1958年8月20日生まれ、広島県出身。日本テレビのドラマ制作からキャリアをスタートさせ、現在は映画、演劇の演出も手掛ける。近年の作品は、ドラマ『初恋の悪魔』、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』など。
映画『おまえの罪を自白しろ』
(松竹配給/公開中)
監督:水田伸生
出演:中島健人、堤 真一 ほか
©2023『おまえの罪を自白しろ』製作委員会