【LIVE REPORT】
〈SUPER BEAVER 都会のラクダ SP ~真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち~〉
2023.07.23 at 富士急ハイランド・コニファーフォレスト
都心からのバスを降りて触れた空気は、カラッとしていた。都心特有のジメジメ感がなく、山間に来たことを実感する。SUPER BEAVER史上、最大キャパシティの野外ワンマン2デイズの最終日。舞台は山梨。富士急ハイランド・コニファーフォレストだ。
今回、ライヴエリアとは別に〈ラクダランド〉というアミューズメントエリアを設け、キッチンカーが並び、メンバーがプロデュースしたご飯やパブスペース、フォトスポットや縁日コーナーまで用意されていた。そこは通常、アーティストが単独公演を行う際には駐車場などとして利用されるスペースらしく、こういった使い方は珍しいんだとか。当然、準備に時間と労力がかかるから、簡単にできるものではない。それでも、来た人に、よりたくさんの〈楽しかった〉を持ち帰ってもらいたい、というSUPER BEAVERらしいおもてなしの姿勢。まるで小さなお祭りのような雰囲気で、夏の暑さとその賑わいに浮足立ってしまう。
しかし、ライヴが始まれば、全身全霊を削り出すような、いつも以上に地に足をつけたSUPER BEAVERがそこにはいた。
本編の前にステージに触れておきたい。アリーナと違って、一番うしろまで平坦に座席が広がるコニファーフォレストの会場。しかも集客は1日2万人。一番うしろのブロックからステージを眺めると、さすがにかなり遠い。だからこそ、前方への花道とは別に、サイドへの花道がとにかく長く作られていた。全長200mくらいはあっただろうか。端に行くだけで体力をかなり消費されそうだが、ドラムである藤原以外のメンバーは何度も何度も端まで行き、後ろの後ろにいる1人にまで音楽を届けようとしていた。渋谷は、〈会いにきたんだ “端っこまで” 会いたいあなたに〉と「予感」の歌詞を変えて唄い、どれだけ長さがあっても足りない、と言いたいくらいに身体を半分乗り出す場面も。遠いことはわかっている。だからといって諦めるのではなく、できるだけ距離を縮める、誰一人置いていかない。すべての1人1人が、今日を作る当事者なんだ、という士気がいつも以上に見えた。
そして、ライヴ本編。オープニングナンバーの「→」「361°」で、〈再会と 今 始まりを。富士急にて〉と宣言。ゴールでも通過点でもないが、ようやく踏むことができた到達点だと渋谷は言っていた。ただの野外2デイズではない。この日、ここで何かを打ち立て、その先へ行こうとする気概が初っ端からあふれている。コロナ禍の規制が緩和され声出しOKな状況も、それを後押しした。2万人の歓声、「美しい日」の合唱とハンドクラップ、メンバーを呼ぶ声にすら圧倒される。ちなみに、「irony」ではギターソロの前に柳沢のギターの音が出なくなるという機材トラブルが発生。どうするのかと思ったら、2万人にオイコールさせることでさらなる盛り上がりを作ったシーンには、さまざまな逆境を乗り越え、〈あなた〉と共に歩み続けてきたバンドのバイタリティを垣間見た。
ハイライトだったのは、ピアノと渋谷の歌だけで披露された「人として」から、ストリングスを交えた「グラデーション」「儚くない」の流れ。野外のこれだけ広い会場のセンターステージに、鍵盤と歌の2人だけ。そのミニマムな潔さは、曲と歌に圧倒的な自信がないとできないだろう。360°を人に囲まれ、偽ることのできないシンプルな状態が、〈信じ続けるしかないじゃないか〉〈愛し続けるしかないじゃないか〉〈人として かっこよく生きていたいじゃないか〉と唄う「人として」の飾らないメッセージをどこまでも増幅させる。さらに、空が薄暗くなっていく中、ヒグラシの激しい鳴き声と、命について描いた「儚くない」の歌が混ざり合った瞬間は、息を飲むのも惜しいほど幽玄な時間だった。生のピアノとストリングス隊が繊細に寄り添い、曲の情景とポピュラリティが飛躍する。
きっと、SUPER BEAVERのバンド力があれば、4人だけでも十分なパフォーマンスを見せられたはずだ。でもそうしなかったのは、この日だけのスペシャル感を打ち出すと同時に、音楽を一番よく届けるにはどうすればいいか、という強い意識があったからだろう。彼らは細かい部分までこだわるが、けっして固執はしない。その時、もっともいいもの、もっとも楽しいものを柔軟に選択していく。だからライヴハウス出身の誇りは持ちながらも、ホールでもアリーナでも野外でもワンマンをやるし、ライヴでシーケンスは使わないが、4人だけの音に固執しているわけではないから、ゲストプレイヤーを交えて披露する曲もある。そういった自分たちにとって最良で柔軟な選択がバンドの可能性を広げ、〈あなた〉という存在に届く楽曲になり、SUPER BEAVERはここまでやってきた。
だからこそ、「こっからライヴハウスにします」というMCのあと、ステージと客席の一体感は圧巻だった。4人だけじゃない演奏を経たことで、4人のプレイの力強さ、熱量高いパフォーマンスが際立ち、歌詞のひとつひとつがこの日の気持とリンクしていく。〈僕らの歓びは 絶えず歌い続けた歌を/あなたまで口ずさんでる今日で〉「嬉しい涙」、〈いつだって今日が人生のピーク 超えていけ〉「ひたむき」。流行り廃りではなく、どこまでも純粋に楽曲に思いを投影してきたからこそ、時間を超えて思いが交差し、胸に響いてくる。まっすぐ放たれる渋谷の歌、柳沢のギター、上杉のベース、藤原のドラムに呼応するように、客席からはたくさんの両手と合唱が上がる。それには、普段は饒舌な渋谷も思わず「すごいです」しか言えなくなるほど。
自分が信じる道をまっすぐ進めるのが一番いい。でもそれは意外と難しい。周りを意識したり数字で評価されたり、そういう中で芯がブレていく。もしくは、周りから捻じ曲げられることもあるかもしれない。最初にメジャーデビューした時のSUPER BEAVERのように。でも、それゆえ、彼らは4人だけになってから、自分たちが信じる道をただひらすら前を向いて進んできた。もっと楽できる道だってあったはずだけど、その時やれる最良を、固執することなくやってきた。それに同意してくれる〈あなた〉という存在が少しずつ表れて、100人、1000人、1万人とゆっくり数が増えて、この日、彼らは2万人を前にオンステージしている。4人だけで作ったSUPER BEAVERの楽曲を2万人と共に奏でる。その音楽と光景は、これまで見てきた中でもとびきり美しいものだったし、彼らの地道な歩みが間違えてなかったことを証明しているようでもあった。
アンコール。武道館3デイズ公演を発表し、再びステージに戻ってきたメンバー。渋谷が「グッと来ました。これからもカッコよくいますんで、どうかよろしくお願いします」と伝えると、「ありがとう」「愛する」という2曲で、とびきりの愛を、今日集まってくれた人たち、関わってくれたスタッフ、そして自分たち自身へ送った。「カッコよくいる」。言葉にすればたったひと言だが、それを貫く信念は生半可なものじゃない。でもこの2日間、4万人とともに打ち立てた証明を胸に、地に足をつけて一歩一歩進んで行くだろう。そして、きっとまた、まだ見ぬ〈楽しかった〉を見せてくれる。最後に打ち上がった美しい花火を見ながら、そんな期待に満ちあふれた。
文=竹内陽香
写真=青木カズロー(★)・浜野カズシ(▲)
【SET LIST】
introduction
01 →
02 361°
03 青い春
04 予感
05 美しい日
06 らしさ
07 irony
08 名前を呼ぶよ
09 自慢になりたい
10 人として
Strings Interlude
11 グラデーション
12 儚くない
13 秘密
14 嬉しい涙
15 ひたむき
16 東京流星群
17 アイラヴユー
18 ロマン
19 最前線
ENCORE
01 ありがとう
02 愛する
NEW SINGLE「儚くない」
2023.06.28 RELEASE
■初回生産限定盤(CD+Blu-ray)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※全形態共通
01 儚くない
02 グラデーション -Acoustic ver.-
〈Blu-ray〉 ※初回生産限定盤のみ
・「儚くない」Music Video
・「儚くない」Music Video -Behind The Scenes-
・「グラデーション」Music Video
・「名前を呼ぶよ」 SUPER BEAVER×東京リベンジャーズ2 Music Video
・SUPER BEAVER×東京リベンジャーズ2 Music Video -Behind The Scenes-