【LIVE REPORT】
音楽と人LIVE 2022〈浅草クロッシング〜肥後もっこす編〜〉
2022.11.18 at 浅草花劇場
約3年ぶりとなった編集部主催のライヴイベント〈音楽と人LIVE 2022 浅草クロッシング〜肥後もっこす編〜〉。中田裕二と柴田隆浩(忘れらんねえよ)を迎え、下町・浅草にある日本最古の遊園地・花やしきの敷地内のホール、浅草花劇場にて行われた。〈スタート地点も辿って来た道のりも違う2組のガチンコ対バン〉というテーマで行われてきた〈クロッシング〉シリーズの第3弾。今回は、現在『音楽と人』にて連載コラムを持つ、雑誌とも非常にゆかりの深い両者による弾き語りイベントとして開催された。
まず最初に、『音楽と人』編集長の金光がステージに現れ、開催にあたっての挨拶をしたあと、中田と柴田の2人を呼び込み、しばし3人でのトークへ。先の編集長の挨拶によると、この日は2人の歌だけでなく、トークも楽しめる、まさに〈弾き〉〈語り〉な夜となるようだ。
柴田いわく「運命的な出会い」から、意気投合するまでのエピソードを語っていく2人。詳しくは、本サイト内にも掲載されている2021年1月号の対談記事にあるので割愛するが、共に熊本県出身の同世代、また、たまたま近所に住んでいたというのもあり、出会ってすぐさまサシ呑みに相なったのだという。しかも、その場所がここ浅草だったというのだから、柴田の「運命」という言葉も、あながち間違いじゃない気になってくる。その後、直近の呑み会でヘベレケになった柴田を中田がタクシーに押し込んだ話など、ひとしきり両者の親交について語られていく。ちなみに中田のなかで、シラフの時はできた男だが、呑むと途端に面倒臭くなる柴田との酒席は2時間まで、と決めているのだとか(笑)。
リラックス・ムードのゆるりとしたトークコーナを経て、出演順を決めるじゃんけんへ。事前に出演順を決めず、ステージ上で決定するという段取りのようで、編集長立ち合いの元、いざ勝負。まずは、お互いグーを出しあいこ。続いてチョキ、さらにパーと、まるで示し合わせたかのように同じ手を出し、なかなか決まらない。やはり運命の2人、ということか(笑)。再度仕切り直した結果、勝利したのは柴田。「先攻でいきまーす!」と告げ、ようやくライヴがスタートした。
客席からの一気コール代わりのハンドクラップに合わせて、ノンアルコール・ビールが入ったグラスを飲み干すと、エレキギターをかき鳴らし、〈明日には名曲が/浅草に生まれんだ〉と冒頭の歌詞を変えての「この高鳴りをなんと呼ぶ」で、初手から全力の歌声を届けていく。曲が終わるごとにトークを挟みながら、「だっせー恋ばっかしやがって」で、自分に似た誰か、はたまたダメな自分自身へのエールを送り、また大人になってできた友達=中田へ贈る歌として「俺たちの日々」を披露。もちろん曲の終わりには、いつもの決め台詞「サンキュー、セックス」も忘れない。
続いて、忘れらんねえよをデビュー当時から取材し、現在、自身のコラムを担当する編集者からのお願い(本人いわく「脅し」・笑)で、この日のために作ってきたという音楽と人の社歌へ。マイナー調のミディアムナンバーなのだが、〈俺とお前、繋げてんのは/心揺れたこの音楽だけ〉というフレーズといい、哀愁感漂うメロディといい、グッと胸に染みる楽曲に大きな拍手が沸き起こる。そして「裕ちゃんと『音楽と人』という雑誌、そしてこの週末にここに来てくれるような人たちを俺は愛してるので、それを歌にして終わりたいと思います」と言い、「アイラブ言う」と自身のバンド名を冠したナンバー「忘れらんねえよ」を唄い放って、中田裕二にバトンを渡したのだった。
柴田と入れ替わるように、ステージに現れた中田。「柴ちゃんとはここ2、3年仲良くさせてもらってるんですけど、共演することはなくて」と、プライベートでの親交はあれど、実はステージで交わるのは今日が初めてであることを明かす。そして、「短い時間ですがよろしくお願いします」と言ってギターを爪弾き、「Terrible Lady」からライヴをスタートさせた。続けて「正体」、「愛の摂理」をプレイし、アコースティックギターの豊かな調べと甘く艶やかな歌声で、一気に中田裕二ワールドを構築していく。
「経験を経てしか得られないオーラみたいなものを感じて、いい年の重ね方をしてるなと思った」と、改めて柴田のステージについて触れたあと、かれこれ20年近い付き合いとなる編集長とのエピソードを、愛あるいじりを交えながら語り、彼もまたここで音楽と人の社歌として書き下ろした「へん集長のうた」を披露。そこから「海猫」でメロウな歌声を会場中に響きわらせ、最後は、パーカッシヴなギターに導かれるように自然とハンドクラップが沸き起こるなか、「誘惑」でライヴを締めくくったのだった。
アンコールは、柴田のライヴで名前が出た、編集部・樋口の司会進行のもと、ふたたび2人のトークコーナーからスタート。まずは、お互いのライヴの感想を語り合う。「彼みたいな弾き語りスタイルの人は往々にしてリズム感がよくないけれど、柴ちゃんはすごいグルーヴがいい」と中田が言えば、柴田も「ほんとギターうまい! あと〈へん集長のうた〉から、スイッチ入った感じがして、すごかった!」と互いを褒め合う2人(笑)。さらにこのあとのセッションのために、中田が柴田の家を訪れリハーサルした話や、酒席での言い合い(というか柴田の一方的なダル絡み)から、雨の中、胸ぐらを掴み合う喧嘩をしたエピソードなどが語られた。
そしていよいよ2人のスペシャルセッションへ。まずは、柴田の青春時代の楽曲であり、地元・熊本市の繁華街、上通(かみとおり)と呼ばれるアーケード街にあるモスバーガーの店内BGMでよく聴いていたという華原朋美の「I’m proud」をセッション。なんとも意外すぎる選曲ゆえに、曲タイトルが告げられた時、一瞬〈ウケ狙いか?〉と感じたフロアから「ふふふ」と笑い声も起きたのだが、「実は弾き語りすると、すげえ歌詞が染みて」と力説する柴田。その言葉通り、メロディに寄り添った中田のアレンジによるアコギの調べと、言葉を大事に丁寧に唄っていく2人の声が、この曲に描かれた孤独な少女の心を浮き上がらせ、優しく切ない歌として届けられたのだった。
ラストは、中田と柴田が敬愛し、2人が意気投合するきっかけにもなったアーティスト、ASKAの「けれど空は青~close friend~」。1コーラスずつ交互に唄い、サビで2人の声が重なった瞬間、有機的なハーモニーが会場いっぱいに広がっていく。よく声には人となりが表れると言うが、見事な調和を見せた2人の声は、異なる色を持ちながらも共鳴し合う両者の関係性を雄弁に物語っているかのよう。そして最後のフレーズを唄いきると、この日一番の大きな拍手が2人に送られた。「楽しかったー!」と声を上げた柴田に、笑顔で同意する中田。「みなさん、すてきな浅草の夜をお過ごしください」という言葉を残して、2人はステージを去ったのだった。
楽器ひとつ、歌ひとつでのステージ。「俺とは、全然曲のタイプが違うのだけど」とMCで中田は話していたが、スタンディングでエレキギターをかき鳴らした柴田に対し、椅子に腰掛けアコギを巧みに操る中田と、曲だけでなく弾き語りのスタイルも違っていた両者。しかし、「どちらも自問自答や葛藤、生きてる中で感じる切なさや哀しみを歌にしている」と柴田がライヴ中に言っていたように、表現の仕方はまったく違えど、2人の音楽に根底にあるものは、実によく似ていることを感じることのできた夜となった。
なお、現在発売中の『音楽と人』2月号のそれぞれのコラム(『柴田コーヒー牛乳』『東京ネオントリップ』)でも、初めてライヴという場で、互いのストーリーを交差させたこの日のことに触れているので、こちらもぜひチェックいただければと思う(もちろん、打ち上げでも〈柴田呑み2時間ルール〉が適用されました・笑)。
文=平林道子
撮影=笹原清明_えるマネージメント
【SETLIST】
柴田隆浩(忘れらんねえよ)
01 この高鳴りをなんと呼ぶ
02 だっせー恋ばっかしやがって
03 俺たちの日々
04 音楽と人社歌
05 アイラブ言う
06 忘れらんねえよ
中田裕二
01 Terrible Lady
02 正体
03 愛の摂理
04 へん集長のうた
05 海猫
06 誘惑
SESSION
01 I’m pround
02 けれど空は青~close friend~