2018年、ヴォーカル&ギターのRumi Nagasawa、そしてベース&コーラスのEmi Sakumaによって結成された、LIGHTERS。全編英語のリリックと、90年代の洋楽からの影響を感じさせる音数の絞られたサウンドを鳴らしているが、そこに潜む人懐こいポップなメロディがクセになるのだ。このたび完成したファーストフルアルバム『swim in the milk』は、サポートドラムにHAPPYのSota Hayashida、サウンドプロデューサーにDYGLのKohei Kamotoを迎えて制作された意欲作。歪んだギターの音色が響く中、耳なじみのいいメロディがすっと染み渡り、何度も聴きたくなる作品だ。架空の映画のサウンドトラックというテーマを掲げて作られた今作は、彼女たちが心の赴くままに好きなことをやろうとする、そんな自由な雰囲気もまとっている。だが、詞曲を手がけるRumi Nagasawaに話を聞くと、今作に至るまでの間、音楽にストイックすぎるがゆえにある葛藤を抱いていたことがわかった。頑張ることと、力を抜くこと。そのバランスがとれてこそ、視野が広がり次に繋がっていくのだろう。今作を経て、ひと皮剥けた彼女たちには、新たな可能性が宿っている。
バンド結成の経緯を教えてもらえますか?
「大学4年生の春ぐらいに始めた飲食店のバイトで、ベースのEmiと知り合って。当時私が大学で音楽制作のゼミに入っていたんですけど、そこで曲作りをしたり、ギターや歌をやっていたんですね。Emiとは音楽の趣味は全然違ったんですけど、お互いにちょっとパンクスっぽい精神があるというか、そういう似ている部分があったのと、彼女がたまたまベースをやっていたと知ったので、私が作った曲を聴いてもらったんですね。そうしたら『あ、いいね』って言っくれたので、じゃあ一緒にバンドやろうか、みたいな感じになりました。お互いちゃんとしたバンドをやるのは今回が初めてで」
もともとどういう音楽をやりたいとイメージしていましたか?
「バンドを組んでいなかった時から、andymoriの影響で3ピースのバンドセットを前提に曲を作ってました。最小の人数でこんなにカッコいい音楽をやっているのはすごいなと憧れたんですね。あとは90年代以降の海外のバンドもすごく好きなんですけど、例えばPavementとかダイナソーJr.、オアシス、ストロークスみたいな、その辺りのバンドから今なお影響を受けています」
そういった憧れを今ようやく実現できていると思うのですが、今回のアルバムはどういうものにしたいと思っていました?
「今回の作品は、架空の映画で流れるサウンドトラックのアルバムというのをテーマにしていて。制作に入る前、最初に脚本を作って、そのうえでこの映画を観ている時に流れてくるならどういう曲がいいかな?と考えてデモを作っていったんです」
ちなみにその架空の映画はどういう内容なのでしょうか。
「主人公は、気の弱い高校生の男の子で。彼が一匹狼の女の子のことを好きになってしまって、彼女に振り回されつつも、最終的にはもしかするとお互い思い合っているかも?みたいなところで終わるっていう。それぞれの受け取り方次第で、その先を想像できる映画をイメージしていました。今回初めて脚本を書いたのですが、自分は書く作業が好きなんだなって気づきましたし、曲作りも大変でしたけど全部楽しくできたなと思っています」
Rumiさんはバンドに本腰を入れる前から、そうやって自分で考えて表現することに対して興味は強かったですか?
「もともと中学、高校、大学の前半まではフレンチホルンをやっていて、プロを目指していたんです。当時、例えばモーツァルトの曲を演奏するとしたら、彼がどんなことを考えてこの曲を作ったのかであったり、時代背景を調べて。それを知ったうえで、自分の身体でどう表現したり演奏すればいいのか考えるのが面白いなと思っていました。だけどクラシックってアウトプットの仕方が繊細すぎるので、そこにめげてしまうこともあって」
譜面通りにしっかり弾かないといけなかったりしますもんね。
「はい。それに表現するのは楽しいけれど、ホルンを吹かない、練習しない日があるとそれだけで罪悪感を感じてしまうこともあって(笑)。だからけっこう疲れてしまったんですね。その時期にライヴハウスに行くことにハマったり、バンドに興味を持ったのも重なってホルンを辞めたんですけど。でも、ホルンを弾いていた頃に学んだ、ある感情を表現するために具体的に何をしたらいいかであったり、基礎練習が大事だっていうのは今バンドの練習をする時にも生きていますね」
ホルンを演奏していた頃と、バンドをやっている今で違う部分はありますか?
「うまく伝わるかわからないですけど、バンドって常に100%全力で頑張らなくても、力を抜いている時にこそ、曲だったり何かに繋がるものがあるんだなって気づいたところですかね」
必ずこうしなきゃいけない、みたいなものよりも、ある程度自由に表現できる余白があるというか。
「それに気づいたら心が軽くなって、純粋に楽しめる部分が増えたなと思っています。ホルンを演奏していた時は、楽しいよりも苦しいっていう感情のほうが強くて。振り返ると、力みすぎてて大変だったなと思います」
自分の話ですけど、仕事をする時に、前は〈頑張らなきゃ!〉と思いすぎて気を張っていて。そのせいで苦しかったし、うまくいかないこともあったなと思うんです。
「私も肩の力が入っていていいことはないんだなって思いますね(笑)。それはとくにこの1年ぐらいで気づいたことで。バンドを始めてからも、ずっと音楽に対して正直でいなきゃ、とか、真摯に向き合わなきゃみたいな気持ちが強すぎて、それこそ練習をしていないと罪悪感を感じていたりしたんですけど」
バンドに対しても最初はそう思っていたんですね。
「はい。でも頑張るところは頑張るけど、休む時はしっかり休むみたいなふうにメリハリをつけて頑張ればいいんだと思えるようになりました。一時期同じ曲をずっと練習し続けていたこともあったんですけど、力が入りすぎていたかもしれない、とふと気づいて。そこで力を抜いたらすんなりうまくいくようになったこともあったんです。何でもっと早く気づかなかったんだろうとも思うんですけど(笑)、自然と気づく時期がくるんだなとも思って」
そんな時期を経たからこそ、今作は楽しみながら、新しい挑戦をできた部分も大きいのではないでしょうか。
「そうですね。今までレコーディングする時も、上手に演奏しなきゃ、ピッチをちゃんととらなきゃと思っていたんですけど、そうするとどうしても力が入っていちばん表現したい部分が出せなくて。今回はただやりたいことをやろうという気持ちで臨んだら、いい感じに力が抜けて柔らかさが出てうまくいった気がしています。それに制作中、サウンドプロデュースをしてくださったDYGLのKamatoさんにいろいろアドバイスをいただいたり、サポートドラムとして叩いてくださったHAPPYのBobさん(Sota Hayashida)からいろいろと学んで。私、これでも力が入っていたんだ、と気づくこともありました」
そういう気づきを得て、徐々に楽しみながら、より自由に音を鳴らせるようになっていったんですね。
「はい」
あと気になったのが、「Leave me alone」で。〈わたしの歌を受け入れなくていい/ただステップを踏んで!〉とありますけど、自分の歌を聴いてほしい、ではないんだなって。
「もちろん聴いてほしいんですけど、100人全員が好きになってくれるわけではないなって思うんですね。だけど〈あ、いい曲だな〉って身体が勝手に動いたり、そういうふうになったらいいなっていう思いを込めています」
これって、かつて頑張らなきゃと自分に言い聞かせていたRumiさんが、音楽を純粋に楽しめるようなったからこそ書けたフレーズでもあるんじゃないかなと思って。
「ああ、なるほど。そういうのもあるかもしれないですね。私はもともと気にしいですし、周りよりバンドを始めたのが遅かったのでその焦りもあったんです。でも今は聴いてくれる人が増えたのもあって、自分たちがいちばんカッコいいんだっていう気持ちを絶対に持っていたいなとも思っているんですね。今作では、そういう強気な部分とか負の感情も表現できましたし、いろんな表情を感じられるものを作れたなと思っています」
だからこそ人間味を感じるし、聴く人の日常に寄り添ってくれる作品だなって私も感じました。
「ありがとうございます。誰かの生活になじんで、ずっと聴いてもらえる作品を作りたくて。これまでも意識してきた耳ざわりのいいグッドメロディを大切にしつつ、それができたかなと思っています。それに、今作を作る段階で1ステップ上がれたなっていう実感もあったので、次どんな作品を作れるか今からワクワクしています」
ここからいろんなことができそうですよね。それこそ今作のようなコンセプトにあわせて、映像やZINEみたいな読み物とコラボすることだってできるでしょうし。
「そうですね。音楽だけではなく、いろんな方面とも関わってみたいですしこれからも挑戦していきたいです」
文=青木里紗
FIRST FULL ALBUM『swim in the milk』
2021.08.25 RELEASE
01 Little me
02 black moon
03 could be
04 you and me
05 Date at IKEA
06 coffee
07 milkshake
08 eternal sunday
09 Leave me alone
10
swim in the milk