Lillies and Remainsがなんと6年半ぶりに音源をリリースした。藤井麻輝(minus(-),睡蓮)プロデュースによるこの2曲は、ニューウェーヴ、ポストパンクの匂いを強烈に放ちつつ、唄われている世界観は彼らにしては珍しく、今の心境が生々しく表れている。KENT(ヴォーカル&ギター)に聞いた。
めちゃめちゃいい曲なんですけど、6年半ぶりの新曲ってどういうことなんだと。
「ははははは。ですよね」
もうリリースする気ないのかと思ってました。
「いろいろ忙しかったんですよ(笑)。大学院行ってたんです。そのことばかり考えてたら、この日までに曲を作ろうって締切が、なかなか自分の中で設定できなくて」
じゃあ「Greatest View」のイメージが湧いたのはいつ頃だったんですか?
「2年前かな。曲はちょこちょこ作ってて、その断片はいくつかあったんです。その中で、みんな〈Greatest View〉を推してくれてたんですけど、曲をちゃんと形にしてない期間がすごく長くなってたんで、自分の中でめちゃくちゃハードルが上がって」
これだけやってなかったら、誰もが納得するいい曲じゃないとダメだ、と。
「そうなんですよ。最近もずっと作ってるんですけど、自分でなかなか納得できないんです。ダメだな、これじゃまだまだだなって、ずっと曲と向き合って、時間だけが過ぎていく(笑)」
このギターは完全にジョニー・マー(ザ・スミス)を意識していますね。
「間違いないです(笑)。ちょっとリズムをつけて、開放弦をいっぱい入れて弾いてます。僕たちの音楽を聴いてくれてる人は、スミスとかを通ってきてる人が圧倒的に多いから、その人たちへの思いもあるでしょうね。別に違うアレンジでもよかったんですけど、その人たちに〈ああ、このバンドは変わってないな〉って思ってほしかったというか(笑)」
あとシマーサウンドというか、リヴァーブも印象的です。ニューウェーヴ感が強い。
「80'sっぽい感じにしたかったんじゃないかな。だからあんまりパキパキしてないですよね。この6年半、攻撃的な曲を作ろうと思っても作れなかったし、むしろメロディが綺麗な曲を形にしたい衝動のほうが大きかった。だからその側面が出てると思います」
今はそういうのがあんまり出てこないですか?
「そうですね。さっき、変わってないって思ってほしかった、って言いましたが、俺、いいのかどうかわからないけど、全然変わらないんですよね。今の新しいサウンドも嫌いじゃないし、みんな変化していくものだって思うんですけど、全然変わらない。Spotifyの履歴を見ても、聴いてる曲の方向性が、昔とまったく変わってない(笑)」
じゃあ今Spotifyに残ってる履歴は何ですか?(笑)。
「えーとですね……(チェックしている)Boy Harsher(アメリカのダークウェーヴ系)でしょ。あとGirl Band(アイルランドのポスト・パンク)とか……」
ブレがないです(笑)。
「で、Killing Joke(笑)。なんかそういう、自分の根っこというか、核にあるようなものに、どんどん向き合うようになってますね。何故だかわからないですけど」
6年半という長いタームになってしまったことで、その間で流行りも変わるから、今っぽさを意識することもなかったんじゃないかと。
「そうかもしれないですね。あと〈Greatest View〉の反響が、僕の予想を遥かに超えてたんですよ、6年半ぶりなのに(笑)。そこは、変わってないことを喜んでもらえたんじゃないかな、って実感しました」
でもこの曲で唄ってる内容は、少し変わりましたよね。観念的じゃなくて、KENTくんが感じたことを、すごくわかりやすく言葉にしていると言うか。
「普通のことを唄ってますよね(笑)。〈Greatest View〉って、ステージから見た光景のことなんですよ。一昨年、ツアーで中国を廻ったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったんですね。音楽やるってこういうことだったな、と思って。たぶん歳をとって、そこで感じた気持ちを、みんなに聴いてほしくなっちゃったんじゃないかな(笑)」
何を感じたんですか?
「ここから見える景色はなかなかないもんだな、って。こういう経験はなかなかできないし、僕が探してたのはこういう景色を見ることだったのかな、って」
中国ツアーはそんなに印象深いものだったんですね。
「2019年に2回行ったんですけど、お客さんの前のめり感がすごいんですよ。ライヴハウスに500人くらい来てくれたんですけど、好きな音楽を貪欲に求めてる。それが新鮮だったし、ポストパンクについてやたら質問してくる(笑)。もちろん日本でもそういうのはあるんですけど、そこに勢いとか、人の活力みたいなものを感じたんですよ。僕らの世代って、社会人になって以降、国自体は決して良い方向に進んでないじゃないですか。景気も体感的には良くないし、なんとなく諦めムードが蔓延してるというか。それとは真逆で。みんな、与えられるものを受け取るだけじゃなくて、もっといい音楽、面白い音楽を自分から探そうとしてる。その活力が印象に残ってて。久々に刺激されたんです」
悩んでた曲作りが、それで背中押されたような。
「そうです。めちゃくちゃ大きなきっかけになりました」
対照的に「Falling」は、ニューウェーヴなシンセが印象的な1曲で。
「ソフトシンセを買ったんですよ。まさにニューウェーヴ全盛の頃のシンセで、出す音出す音、あんな音ばっかり(笑)。それだったらこの際、Depeche Modeのあのシンセの音をまんま出そうと思って。わかる人にはわかるから(笑)」
シンプルというかチープというか、あの音がいいんですよね。
「そう。あのシンセの音を今まで何回聴いてきたか(笑)。完全に先人たちへの敬意です」
でも、いい意味で日本的な情緒というか、儚さみたいなものを感じます。
「この曲は〈Greatest View〉と対極に、コード進行をあんまり動かさず、どこまで曲の抑揚をつけられるかに挑戦してみたんです。でもこれも、意識しないで出てくる僕のニューウェーヴ感というか(笑)」
藤井麻輝のプロデュースはいかがでしたか?
「やっぱり頼っちゃいます(笑)。音作りも、何においても、すさまじいレベルなので。シンセの音選びもそうですし、僕のイメージしてるゴールの音像みたいなものを全部わかってるから、何でこんな音入れるんだろう、と思うようなアプローチも、最終的になるほどそうでしたか!とひれ伏す(笑)。やっぱりすごかったです」
とにかくもう少しコンスタントにリリースしてほしいですけどね。
「頑張ります。今はあと1曲、攻撃的で強めなインパクトを与える曲を形にしたくて。それがなかなかうまくいかないんですけど」
また6年半待つのは勘弁してほしいです。
「出したいですよ。だからもう、録ることを決めておいて、曲作りを始めようと思ってて。〈Greatest View〉も、ほっといたら中途半端なままで放置されてたと思うし(笑)。あとこんなご時世ですけど、ライヴも考えているので、それやったらまた、曲に向き合える気もするし」
そうですね。
「コロナになる前までは、イベントとかライヴって、客としてはそんなに好きなほうでもなかったんですよ。でも、ああいうのができてた時代は幸せだったんだなって、初めて思いましたね。サッカーの試合でスタジアム行って、あんまり人がいない状況を観て、なんだかすごく寂しくて。〈Greatest View〉で書いた、ステージから観たあの風景を、また観れたら……いや、観ようって気持ちですね。今は」
文=金光裕史
DIGITAL SINGLE「Greatest View」
2020.5.14 RELEASE
DIGITAL SINGLE「Falling」
2020.6.11 RELEASE
Lillies and Remains One Man Show
"Greatest View"
2021年8月9日(月・祝)
表参道WALL&WALL
開場 17:00 / 開演 18:00
【チケット情報】
■ADV ¥4,500(+1D) <販売期間:6/23 18:00~8/8 23:59>
■STREAMING ¥2,000 <販売期間:6/23 18:00~8/12 18:00>
※アーカイヴは8/12 23:59まででご覧いただけます。
・チケット販売会社「ZAIKO」による有料ストリーミングサービスとなります。
・チケット購入決済終了後に視聴用URLがご購入者様みなさまにご案内されます。
・配信後に再配信処理を行いますので30~60分程度あけてからのご視聴を推奨いたします。
購入先:
ZAIKO(前売り入場券 / 配信チケット)
Livepocket(前売り入場券)