素朴でピュアなメロディと、温かくも優しい歌声。そんなサウンドを鳴らすのが、平均年齢20歳の4人組、インナージャーニーだ。シンガーソングライターとして活動していたカモシタサラ(ヴォーカル&ギター)が、10代限定フェス〈未確認フェスティバル2019〉に出場するため現在のメンバーをサポートとして迎えたのち、正式にバンドとして始動した彼ら。今年3月には4作目となるデジタルシングル「グッバイ来世でまた会おう」をリリースした。たとえ二度と会えなくなっても、巡り巡っていつか会えるはずだという願いが綴られるこの曲には、どうしても拭えない悲しさがにじむ。その気持ちとどう向き合ってきたのか、詞曲を手がけるカモシタに話を聞いた。人の心は日々変わっていくけれど、変わらないものも存在する。それを実感し音を鳴らす今、彼女は少しずつ外の世界と繋がり始めているのだ。5月に行われたバンド初のワンマンでも、「この歌を届けたい!」という気概にあふれるパフォーマンスを見せてくれたが、彼らの音楽はこれからいろんな人の心に響き、寄り添うものになるはずだ。
ワンマン、素晴らしかったです! バンドで音を鳴らせる喜びがあふれていて、観ていてすごく元気が出ました。
「ありがとうございます! 嬉しいです」
実際にやってみてどうでしたか?
「自分たちを観に来てくれたお客さんしかいない状況だったので、すごく嬉しかったしありがたいことだなと思って。だから何やっても大丈夫みたいな感覚でしたし(笑)、ホーム感のある雰囲気の中で楽しくやれたなと思います」
変に気負ったり緊張している様子もなく、とにかく楽しい!っていう気持ちが伝わってきました。でも、サラさんはもともとシンガーソングライターとして活動を始めたんですよね。
「そうですね。その前に高校生の頃、軽音部でバンドを始めたんですけど、当時はギターで。唄うことは好きじゃなかったんです(笑)」
自分で唄ってみたいと思ったことはなかった?
「うん。ないですね(笑)。舞台の真ん中に立つのがすごく恥ずかしいなと思っていたし、どっちかっていうと作る側というか、舞台に立つとしても端のほうで弾いてるのがカッコいいと思ってました」
脇役みたいなのがいいなっていう。
「そうですね。あんまり自分のことを見ないでくれって思ってた(笑)。でも気づいたらインナージャーニーで真ん中に立っているし、今はやったるぞ!っていう気持ちがだんだん芽生えてきて」
でもどうしてシンガーソングライターとして活動を始めたんですか?
「よく聴いてたラジオ番組が募集していたコンテストに、自分で作った曲を応募したことがあって。そのコンテストでライヴ審査まで通ったら、サポートを入れた形でバンドとして演奏したいと思っていたんですけど、最初は自分の曲がどのぐらい評価されるのか知りたかったのと、いろんな人に聴いてほしいっていう気持ちがあったので応募したんですね。そしたら審査に通って人前で唄えることになって。それがシンガーソングライターとして唄い始めるきっかけではありました」
自分で唄い始めてみて、どんなふうに感じました?
「シンガーソングライターとして唄っていた時は〈私が唄っていていいのかな?〉ってよくわからないままやっていて。でも、今のメンバーとやっていく中でバンドで唄うのは楽しいなと感じるようになってきたんですね。自分の曲を信頼して、この音楽をやっていこうって一緒に鳴らしてくれる人がいるから心強いというか。すごく幸せだなと思って」
だからサラさんも自信を持って唄えるようになっていったと。
「そうかもしれないです。私が作った曲とか歌詞を伝えられるのはやっぱり自分しかいないと思うので、自分なりの表現で歌にすることが大事だなとも思えるようになりましたね」
そんなシンガーソングライター時代に作られた曲が、「グッバイ来世でまた会おう」なんですよね。
「はい。デモで作った時はへんてこな音だったんですけど(笑)、それをやっとバンドとして鳴らせたのが嬉しかったですし、いちばん鳴らしたい音に近づけたなとも思うのでめちゃくちゃ納得のいく形になってます」
そういう達成感もあったと思うんですけど、歌詞には誰かと二度と会えなくなることへの思いや、死生観みたいなものがにじんでいて。これはどういうきっかけでできたんですか?
「3年前に作った曲なんですけど、その前に祖母が亡くなって。そこから死ぬことや生きることについて考える時間が増えて、死っていうのはいつか自分にも巡ってくるものなんだなとか考えていたんですね。で、いろいろ調べたんですけど、最終的に仏教的な考え方にたどり着いて。亡くなってもまた巡ってくるみたいな考えがいちばん納得いくものではあったので、それを信じるっていうわけではないんですけど、こういう考えもあるんだよって自分に言い聞かせるために作った部分はありますね」
曲にして、自分の気持ちに区切りをつけたかったというか。だから前を向こうとしているのは伝わってきます。
「そうですね」
でも悲しさや割り切れない感情もこの曲にはある気がして。そういう自分の中にある思いや考えについて、普段から頭の中でグルグルと考えちゃいます?
「考えちゃうタイプです(笑)。あんまり人に相談とかもできないし、相談したとしても人からのアドバイスを100%信じることがなかなかできなくて〈いや、そうなのかな?〉ってまた自分の中でグルグルしちゃうっていう(笑)」
でも人にうまく相談して、楽になれたらいいのになって思ったりしませんか?
「めちゃくちゃ思います。悩みだけじゃなくて、自分をさらけ出せたり、甘えることができる人のことがうらやましくて。私は誰かに会っても最初にバリアを張っちゃうんですね。それは〈本当の自分を人に見せてたまるか!〉みたいな反抗期的な気持ちもあるからだと思うんですけど(笑)」
本当はわかってほしいけど、わかられてたまるかみたいな(笑)。
「そうです(笑)。だから思ってることを言える時と言えない時があって。でも自分の作った曲に対して、聴いてこう思った、すごく良かったみたいにいろんな人が言ってくれるようになってから、音楽ならばみんなに自分の気持ちをちゃんと伝えることができるんだなってすごく思うようになったんです。自分のために作ったものが人にちゃんと届いているのがわかったし、感想をもらって〈みんなもそういうことを思ってたんだ〉って気づくことも増えたので、だんだん人のことを信頼できるようになってきました」
音楽をとおして、誰かとわかり合えた感覚があったんだ。
「そうですね。だから言いたいことは音楽に全部入ってるぜっていう気持ちがあります(笑)。それに対して共感してくれる人もいるから、曲をたくさん作る中で、〈言ってることが前と違うな。矛盾してるじゃん!〉って思うこともあるけど、それも含めて自分の思ったことを全部曲にしちゃえばいいかっていう。そうすることで自分自身の心を整理できるし、音楽が人と繋がるための道になってくれてるなって思うんです」
でもそういう矛盾してる自分のことがイヤになったりはしませんか?
「します(笑)。ああ、自分は最低だ!って思ったりすることはあるんですけど(笑)、私は気分屋だし、今日思ってることと明日思うことが違うみたいな感じで、毎日心がクルクル変わるんですよ。だからその時に自分が言いたいこと、本当に思ったことを書くようにしているから、曲によって言ってることが違ったとしてもそのどれもに対してわかるなって思うというか」
曲を作ることで、自分の気持ちに正直になれるし、素直に出せているっていうことなんでしょうね。
「そうだと思います。それに昔作った曲を今唄って〈なんかいいこと言ってるな! そうだよね〉って気づかされたり、励まされることもあるんです。例えばこの曲はもう唄いたくないみたいなこともあるかもしれないですけど、私は昔作った曲を唄いたくないとは思わないし、そう思うのはきっと歌の中には私の根本的なところというか、芯の部分が詰まってるからなのかなって。だから毎日思うことが変わったり、表面的なところが矛盾していても、芯の部分が揺るがないからこそ唄い続けられているのかなって思います」
自分の話ですけど、昔の日記を読み返した時に私の性格って昔も今も変わらないんだなって気づいて(笑)。だから私は私のままでいいんだって思えたことがあったんですけど、サラさんも自分の歌詞に対してそういう感覚を抱いたりするのかな。
「ああ。そうかもしれないです」
だからこの曲でも〈時が経ってボロボロになっても/ただ歳をとっただけでいつもあの頃のままさ〉とあったりするのかなと。
「あ、ほんとだ! 確かに! 今気づきました(笑)。ちゃんと曲に出てますね」
そうだね(笑)。でもそう思えるのは、本当に思ったことを素直に書いているからだろうし、だからこそ時間が経っても自分の力になったり、いろんな人に共感してもらえるんじゃないかな。
「そうだといいなって思います。今作った曲が何年後かの自分を励ますことになるかもしれないし、自分以外の誰かにも何かを伝えることができるかもしれないのでウソはつきたくないんです。だからこれからも本当に思ったことを書きたいし、そうやって作り続けて、唄い続けていたら絶対に誰かに届くはずだと思うので頑張ります!」
文=青木里紗
DIGITAL SINGLE「グッバイ来世でまた会おう」
2021.03.24 RELEASE
インナージャーニー オフィシャルサイト https://innerjourneytheband.wixsite.com/officialsite