フルカワユタカのニューアルバム『YF 上』。タイトルに〈上〉とあるように、すでに今秋にリリースを予定しているEPとセットで完結する作品だという。ちなみに今回はどの過去作と比べても、フルカワのパーソナルスペースが聴き手に解放されたような距離感の近いものになっている。ムダを省いたシンプルなギターサウンドを饒舌に鳴らしながら〈愛〉をテーマに唄いあげる計6曲は、音楽家としての彼の信念と人生観のようなものが詰まっていて、とても味わい深い。DOPING PANDA時代はフラッシーなスタイルで自分を必死にアピールしていた彼が、ようやくたどり着いた音楽のユートピアがここにあると言えるだろう。彼は今、自分にとって一番大切なものがなんなのか、わかっている。そんな彼のことを〈ピュアの塊〉と慕うバンドマンが多いのも、当然のことなのかもしれない。
ちょっと会わないうちに、柴田くん(柴田隆浩/忘れらんねえよ)にだいぶ好かれてるみたいだけど(笑)。
「そうなんですよ(笑)。とくに今年に入ってからはよく会ってますね」
出会いのきっかけは?
「僕、オーディション番組で審査員みたいなのをやってるんですけど、そこにゲストで来たんですよ、彼が。で、彼と会った瞬間から波長が合って(笑)」
はははははは!
「忘れらんねえよのことはなんとなく知ってて、でも音はちゃんと聴いたことなかったんですけど、どこか自分と似てるところがあって」
自分の配信番組(音楽バラエティ番組「オンガクミンゾク」)にもゲストで呼んでましたね。
「アイツ、けっこう卑屈じゃないですか。でも自信あるじゃないですか。その感じがたぶん俺と近いんだと思う。ベクトルは同じというか。表現の仕方が違うだけで」
フルカワくんに会うのは久しぶりですが、意外と元気ですね。
「元気ですよ。やっぱり向いてるんじゃないですか? ひとりでいるのが」
去年はツアーも全部パーになって落ち込んでるんじゃないかと思ってたけど。
「ゼロではなかったけど、そうでもないですね。けっこうひとりでいるのが平気というか。一昨年ぐらいまではけっこう友達が増えたりいろんな人と交流が広がるような活動をしてたじゃないですか」
ベボベ(Base Ball Bear)のサポートから始まって。
「あれが5年ぐらい前かな。あとは市川さん(LOW IQ 01)のバンド(LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS)のメンバーとしてツアーしたり、イベントとかフェスにも出て、異様に友達が増えて。そんな感じでわりと人の中にいる活動が続いてたんで、いきなりそこから人と会えなくなってどうなるんだろう?とか思ったんですけど、意外と平気でしたね」
人に会わないで何をしてました?
「ギターの練習と歌の練習。あと、英語の勉強を毎日2時間と、ジョギングも毎日やってました。とにかく1日中、自分のために使える時間が増えたんで、スキルアップを目指して。おかげで歌もギターも上手くなったんですけど、ひとりで家にこもるのはそろそろ限界みたいで、最近はツアーをやりたくて身体がウズウズしてます(笑)」
今回の作品はその中で作ったものですよね?
「これはもともと〈Fanicon〉っていうコミュニティ型ファンクラブアプリっていうのがあって、去年の3月ぐらいから僕も始めたんですけど、そこに月1で新曲を配信してた中から抜粋したものを録り直して、自分でミックスもしたんです」
じゃあもともと作品として出す予定じゃなかったと?
「なかったですね。そもそもこれを出すことになったのもけっこう急だったというか。去年は弾き語りで47都道府県廻る予定だったけど飛んでじゃって、今年の6月ぐらいだったらライヴもできるだろうってことで、東名阪のツアーを組んだのが2月か3月ぐらいで。じゃあそれに合わせて音源出したほうがいいよねってことになって」
で、こういう形になった。
「ファンクラブのは自分の家で録ったやつなんで、それをスタジオで録り直して、自分で混ぜて。でも基本そんなに変わってないですね。あとから手を加える必要がないところまで最初から作りこんでたんで」
今までの作品とはかなり違うものになってるっていうのが第一印象でした。
「違いますね。やっぱり自分で混ぜてるっていうのは大きいのと、アレンジも違うし」
どうしてこんなに違うものができたんでしょうか。
「ひとりで作ったっていうのと、あとはファンクラブっていうクローズな場所に向けて作ってたっていうのが大きいですよね。特に歌詞は違うんじゃないかな」
使ってる言葉も唄ってる内容もフルカワくんのスッピンに近い感じがします。
「だから小っ恥ずかしいですよ(笑)。もともとコアファン向けに書いてたものだし、公の場を意識してないから。よく須藤くん(須藤寿/髭)に『フルカワくんって歌詞がドロっとしてるよね。濡れてるというか、濡れすぎてる』って言われるんです。恐らく彼が言ってるのはソロ初期あたりの僕の歌詞のことだと思うんですが、その頃に近いというか、ソロ一枚目の頃に戻ってる」
これってどの曲も〈君〉と〈僕〉の話だし、その真ん中にあるのは〈愛〉で。
「そうですね。でも、そういう自分を誰かに見せたかったわけじゃないんですよ。聴く人を意識しないで書いたらこうなったというか」
だから独り言に近いんですよ、このアルバム。
「あぁ。自分でも思いましたよ、お店に並べる商品っていう意識がないまま書くと、こういうことを言い出すやつなんだなって(笑)」
照れております(笑)。
「これを聴いてると、逆に2019年までの自分に照れちゃうんですよ。フェスのステージ横で友達のライヴをみんなで観て熱くなってる自分に」
わかります。フルカワくんにとっての音楽は、仲間と肩組んでワイワイすることよりも、どこか自分だけのものっていう感覚があるというか。
「もちろんどっちも本当の自分なんですけど、やっぱりコロナで人と会わなくなって、誰かに聴かせようとするわけでもなく、家でコツコツと曲を作ってるとこうなる。自分で言うのもアレですけど……図らずも純度が高くなる」
もともとフルカワくんはピュアですよ。柴田くんもそう言ってたし(笑)。
「それすごい言われるんですよ(笑)。確かに自分でも音楽に対してはすごく真面目なほうだと思ってます。練習もするし、曲もいっぱい書くし。真面目で何が悪いんだ?って思うぐらい」
そうやって1年間、ひとりで音楽と向き合ってみたことで改めて気づいたこととかわかったことってありますか?
「ありますよね。あるけど……これ、問題発言になっちゃうかな?」
とりあえず言ってみて。
「10年前の震災の時もちょっと思ったんだけど、今回のコロナで、より自分の中ではっきりしたことがあって。もちろん今ってみなさん大変じゃないですか。だから〈このままだと音楽がなくなってしまう〉とか〈音楽の火を絶やすな〉とか、とにかく音楽文化を守るためにいろんな人たちが声高にそういうことを言うのもわかるんだけど……どうしてもそこに馴染めない自分というのがいて」
馴染めないというのは?
「そういう声を否定してるとか批判してるわけじゃなくて。ただ、自分にはあんまりピンとこないんですよ。もしこのまま音楽で飯が食えなくなっても、たぶん僕は公園でもどこでも唄うと思うし、曲だって勝手に作ると思うし。自分の中ではなくならないものというか」
自分の中で音楽の火が絶えることはないと?
「それこそ若い人たちだってライヴができなくてもシコシコ家で音楽作って、ネットでそれを共有して、むしろそっちで盛り上がってるじゃないですか。例えばペストが流行ったあとにルネサンスが起こったように、新しい文化って生まれるもので。きっとコロナが終わった途端、ものすごくたくさんの若い人たちが新しいムーヴメントを作るはずだし、すでにそういう人たちがSpotifyとかにウヨウヨいる。だから僕の中で〈火を絶やすな〉って言われてもピンとこないんですよ」
そんな簡単に音楽はなくならないぞ、と。
「あと、〈音楽も生活必需品だ〉みたいなことも言われるけど、俺は必需品じゃないと思ってて。むしろ必需品じゃないのに、それでもみんなに尊いとされていることに誇りを持てばいいのにって思うんですよ。もちろん音楽業界っていう全体の話で言えば、それで飯食ってるわけだから生きてくための必需品であるのは間違いないんですけど」
今回の作品って、そういうフルカワくんの根っこにあるものが出てるんじゃないかと。特に1曲目の「October Chimpanzees」とか、音楽だったり他者に対する愛情表現みたいな歌だし。
「これ、自分でも好きな歌詞ですね。〈コンプ〉とか〈イコライザー〉とか出てくるけど、これって音をミックスする時の機材のことで。例えば大サビに出てくる〈マキシマイザー〉って、音をコンプして音圧を上げる機材なんだけど、それってやりすぎると音楽がつまらなくなるんですよ。で、それって僕の中で人との付き合い方とか愛に対する考え方でもあって」
〈このままがいい〉って唄ってますよね。
「そういうことで。もともと英語で唄ってた曲なんですけど、あえて日本語にしました」
これ聴いたらもっと柴田に「ピュアだ」って言われるような気がします(笑)。
「だからちょっと恥ずかしいんですよ。市川さんにも『新しい音源くれないの?』って言われたんですけどまだ聴かせてなくて(笑)」
文=樋口靖幸
NEW EP『YF 上』
2021.06.09 RELEASE
01 October Chimpanzees
02 GIRL
03 BOY
04 オールライト
05 深海
06 星が降る町
フルカワユタカ オフィシャルサイト https://www.furukawayutaka.com/