俺はでも、やっぱモノを考えるとダメなんだよ。休んでるとやることがないからさ。休んだら休んだで、別にどこにも行かねーんだ、結局(苦笑)



それってこないだのインタビューで言ってた「波紋がもっと広がればいいな」とか、そういうもの?
「ああ、そういう感じ」
その言葉からは「もっとそれぞれが強くなればいい」とか「もっと大きなものを持ってきてほしい」とか、そういう意味が取れると思うんだけど。
「ああ。ただみんな、その曲に対して完全に同じ景色を見てるわけじゃないとは思うから。それも要するに広がりのうちのひとつっつーかさ。そういうのはあったかな」
「赤毛のケリー」とか「シトロエンの孤独」は、元ネタからすごく大きく変わってるって聞いたけど。具体的にその前はどういう感じだったの。
「〈ケリー〉も〈シトロエン~〉も、もっと大っきい感じだったんだよね。リズムとか。〈ケリー〉は特に」
大っきい感じって……。
「……ま、デカイ感じなんだよ(笑)。最初の俺のイメージがそんな感じだったから」
前のインタビューでさ、次のアルバムはどちらかというと風通しの悪い感じになると思うって言っててさ。んで「暴かれた世界」を聴いたときに、そんな感じがあんまりしなかったんだよね。
「……うん」
だから、さっきの波の話じゃないけど、チバくんが持ってきたものに対して他の3人が鳴らす音が、今まで以上に大きくいろいろ変えていったんだろうなって感じたんだ。
「ああ、なるほどね……そうだね、その通りだと思うよ。曲が変わっていく瞬間とか見ててさ、実感したよ。〈暴かれた世界〉みたいにドンピシャなのもあったけど、なんか違うなぁと思ってた〈ケリー〉とか〈シトロエン~〉が形になってくのを見て……すげぇな、間違ってねぇ、と思った。とにかくセッションしたかったんだわ、きっと」
チバくんのほうから、曲のイメージは持ってくけど、具体的な形はあえて持っていかなかったって感じ?
「うん、〈シトロエン~〉に関してはまぁそういうことだろうな。なんかこう、ブルージーじゃないけど、そういう感じのことをやりたいなと思って。で、ここからリズムに入ってとかそういうことは結構やってたんだけど、うちのリフ番長があのリフを弾いて、もう『それだ!』っていう話になって。そこで一気に見えたって感じ。それが本チャンのレコーディングに入る2日前かな」
それまでは4人でアルバムの音を合わせてて、どんな感触を得てました?
「『これでキマった!』とか(笑)。『もらった!』(笑)」
ははははは! 敢えてそういう感覚が欲しかったんじゃないかなあという気もするけどね。
「うん。だからそれがやっぱり、俺が言ってる新しいものっていうことだと思うよ。新しく何か生まれる瞬間みたいな、その感覚」
ただなんかチバくんはその時……やっぱ迷ってて、「どういうふうにやっていこうかな」っていうところですごく逡巡してた部分が強いような気がしたんだ。
「うん……なんか、面倒くせぇなあっていうのがあったんだよな、たぶん。休みすぎで疲れた(笑)」
(苦笑)休みすぎて疲れた? だったら出てくるはずじゃん、バンドで「こういうことをやりたい」って。
「かと言ってまだそこにも行きたくないみたいなさぁ」
なんだそりゃ(苦笑)。
「そういうのもあるんだよ。〈どうしようかなぁ~〉と思ってたねえ。〈何やろうかなー〉っつーか」
やりたいって気持ちはあるわけでしょ? もちろん。ミッシェルでロックを鳴らしたいっていうさ、そういうのはすごいあるわけじゃん。
「今はもっとある」
だから新曲も出来るんだもんね。つい半年前まで「どうしよっかなー」って迷ってて疲れてた人がさぁ。
「休みすぎだよ」
やっぱりいろいろ抱えてることだったりさ、そういうのはバンドを演っていくに従って増えていくと思うんだよ。生活もそうだし、状況もそうかもしんない。で、やっぱりそういうのを音でも鳴らしていかなきゃいけないわけだし、そこに滲み出てくるわけだしさ。そういうところで疲れたり迷ったりしてたんじゃないかと思った。
「うん。そういう感じなんじゃないのかな。俺はでも、やっぱモノを考えるとダメなんだよ。休んでるとやることがないからさ。休んだら休んだで、別にどこにも行かねーんだ、結局(苦笑)。なんか車で街とか走るとさ、〈あ、レコード屋に行ってねぇなあ〉とか思うんだけど、いざ休みになって、レコード屋とか買い物に行くのかっつったら行かねぇんだ」
(笑)で、結局ギターを持ってポロロンと鳴らし。
「そうそうそう、ベランダに出てみたりさぁ(笑)。それぐらいしかねぇんだよ」
だから、今回のアルバムは、さっき「緊張感」とか「現実感」って言ったけど、生々しい感じがすごくした。めちゃめちゃそれが強いと思う。それは抱えてるものだったり、疲れっていうのもそうかもしれないし、それらがすごく表れてる気がしたんだよね。
「……や、でもそういうのはやっぱ出るよね、絶対。でも、その前のやつも……まぁ俺はいっつも現実感ってのがすごく大事なんだわ。毎回それが現実だと思ってやってる。そういう意味では、俺は全部一緒だよ。音楽っていうのはやっぱそういうもんだと思うよ」
あと同時にやっぱり、よく言われると思うけど、変化もすごく感じるし、あとバンドに対する覚悟を強く感じた。
「ん-、その〈変化〉っていうのは俺はわかんないけど、覚悟みたいなのは常にあるんじゃないかな。『じゃあアルバム作ろう』ってときに、作るとかそういう覚悟がなかったら……まぁ意味はちょっと違うかもしれないけど、やってく覚悟みたいのはあるよ……それはいつ終わるかどうか、俺にはわかんないけど」
そう、今回、続いてる感も相変わらず強いと思う。「ブギー」にあった〈続いてくんだろう〉、「ダニー・ゴー」の〈続くだろう〉と同じようにさ……。
「うん、変わんない……や、より強くなってると思うよ」
そうなんだよね。何だろう……歳を取った、じゃないけどさあ、いろんなことを経験して、抱え込んで、それさえもちゃんと認めた上で「続いてくんだ」っていうか。
「まぁでも、深くはなるよ。そんだけ歳取ってるし。いろんな経験も増える。そういうのがやっぱ音には出ると思うよ」
ヒリヒリしてて、現実感もさらに強くなってさ、緊張感ももっと張りつめた感じになってる、こういうアルバムになってくるっていうのは、やっぱりその間にいろんな経験だったり、いろいろ考えたっていうのがすごく強かったんじゃないかなっていう気が僕はしたんですね。
「…………そうかもしれないねぇ。答えは俺にはわかんねぇよ(苦笑)」
こういうアルバムを聴いてると、生きていく中でいろいろある葛藤だったりやりきれなさ、そういうものがあるからこういう音が出てくるんだなと思うんだよ。
「ふーん…………〈だからこういう音が出るのかな〉とは思わなかった。〈こういう曲とかこういう感じのことがやりたい〉っていうのしかないよ。例えばそれが、やりきれなさとか抱え込んでるものがどうのこうのっていう感覚だったかっていうと、たぶん要するにやっぱ『音楽をやりたい』って言ったり表現したりとかさぁ、そういうことでやるわけよ」
例えば純粋に、なんも葛藤がない、なんも抱えるものがない、まっさらな〈イッツ・オンリー・ロックンロール〉みたいな音楽だけ鳴らせばいいと思ったりします?
「んー……そういうのもありだと思うよ。ただ、それだけやりたいとは思わないよ」
