来年2月にデビューから30年を迎えるTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT。バンドの記憶を、可能なかぎり永遠に残したいという思いのもと始動したプロジェクト〈THEE 30TH〉に呼応し、本サイトでもこれまで彼らが発表したアルバムの記事で、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの歩みを振り返ります。今回は、これまでライヴに明け暮れていた彼らが、約2ヵ月のオフを挟んでレコーディングに臨んだ6thアルバム『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』リリース時の表紙巻頭特集から、チバユウスケのソロインタビューをお届けします。このインタビュー後に行われたのが、伝説のフリーライヴ〈TMGE YOYOGI RIOT! 2001523〉でした。



(これは『音楽と人』2001年7月号に掲載された記事です)
チャイナにも、マシンガンにも、キャンディーにもベイビーにも、そしてブルースにも、バイバイと別れを告げて、チバユウスケは叫ぶ。
「シトロエンの孤独は続く」、と。
悲痛なまでに、すべてを抱えて進んで行く覚悟。ミッシェル・ガン・エレファントの新作『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』からはその強さがひしひしと伝わってくる。
昨年、そう2000年は、ミッシェルにとっては決して歓迎すべきミレニアムではなかった。彼らの周りで、いろんなことがぐらりと揺れ動いた。『カサノバ・スネイク』というアルバムを引っさげたそのツアーは、次への方向性がはっきり見えないまま終わり、「ベイビー・スターダスト」というこれからのミッシェルを予感させる楽曲はあったものの、具体的な展望ははっきり見えないままオフに入った。ベスト盤とライヴ・アルバムがリリースされ、なんとなく〈区切り〉を感じさせる空気の中、チバはピールアウトやブルシットのレコーディングに参加し、アベ、ウエノ、クハラの3人はミック・グリーンとのレコーディング・セッションを行なった。そこでは確かに「TOUCH AND GO」や『KWACKER』という素晴らしい作品が生みおとされたが、それぞれがその場所で、はっきりと見える〈これから〉を探して、もがいていたように思えた。少なくともこの活動を通して、4人それぞれがミッシェルというバンドをあらためて意識したことは間違いない。
そして彼らはレコーディングに入った。ひとつの塊になってどこかに向かうのではなく、4人それぞれから起こった波紋が大きくなって、ぶつかりあう。そして生まれたのが『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』だった。全体から感じるヒリヒリとした肌触り、ピンと張り詰めた緊張感。どの曲も熱がじわじわと沸き上がってくるようなものばかりだ。
しかしここには3年前、〈錆びた風は続くだろう〉と叫んでいたあの、圧倒的な確信に満ちた高揚感はもうない。ドロップをなめつくした喪失感も消えた。そう〈シトロエンの孤独は続く〉のだ。それでも前に進んでいかなきゃならない、その苦しみも生きることなんだと知った、4人の姿そのままが映し出されている。
それでも逃げずにこの場所で生きていくんだ、と腹を括った覚悟と、4人でやっていけるという確信。このアルバムにある強さと優しさのわけはそこにある。
そしてたどり着いたのは、凍りついた海。ただただ彼方まで広がるこの海を、彼らがどう渡って行くのかはわからない。でも渡って行くんだ。幻想の中で生きることを拒み、リアルであろうとした4人の未来は悲しくなんてない。悲しいはずがない。人生のように不安を抱えながら、それ以上の喜びを手に入れるために。圧倒的なリアルを持って、どこまでも続いていく。ずっとずっと、ブルーズは鳴り続け、錆びた風は続くのだ。迷いはどこにもない。ミッシェルを信じていればいい。きっとそう思うはずだ。
ロフトのライヴ、めちゃめちゃ楽しそうだったよ。
「いや……普通に楽しかったよ。あ、でも〈KWACKER〉は特に楽しかった……なんか笑っちゃう感じだった」
あはははは。あの曲は、チバくん以外の3人がミック・グリーンとセッションして作った曲じゃないですか。実際それを演るのはどんな感じでした?
「うーん……いや、特に考えてないけどね。それよりやっぱ音デカイのはいいなあ。スタジオ入ってると、あの音のデカさっつーのがないから。やっぱりライヴのほうが音デカいじゃん? 俺らはステージだけど、楽器の音をモニターも返してるし。4人せーので出したときにいちばん大っきい音になってるわけだから、それは良かったかな。気持ちいいな、と思った」
前のインタビューで、「リハとかレコーディングも広いところでガツンと音が出せるほうがいいなあ」って言ってたのを覚えてるんですけど、それと似たような感覚ですかね。
「うん、かもしんない。チベタン(・フリーダム・コンサート2001)もすげぇ気持ち良かったよ。〈いいなあ、デカイとこ〉と思って(笑)」
終わったあとの打ち上げで、すげぇ嬉しそうに「あれで、やってけると思ったよ」って言ってたじゃん。それが頭にずっと残ってて。
「会ったっけ……あ、便所で会ったよなあ」
そうそうそう。その時、その時。
「…………やってけるよ(笑)。まあ、4人で音を合わせる作業をしていかないと、やっぱり見えてこないよ」
その「やってけると思った」って気持ちは、逆に言えば「音を出してみないとわかんない」っていう不安でもあったんじゃないですか?
「んー、まぁ、酒呑んでるときの話はダメだよ(笑)」
何言ってんだ(苦笑)。
「つーか、たぶんライヴを演っていける感覚だったんじゃないかな。ミッシェルを演る、演らないとかじゃないんだ」
そういえば、アルバム作る前から「ライヴは今演りたいとかそういう気持ちはあまりない」って言ってたよね。
「うん」
そういう気持ちがライヴを演ることで「ああ、やっぱ演りてえな」っていう気持ちに改めてなったと?
「あ、そういう感じかもしれない……こんだけ長い間演ってなかったのは初めてだったから」
今まではライヴを演っていく中で曲が生まれてきて、レコーディングして、ライヴのリハやって、ツアーやって、レコーディングやってっていう繰り返しの中でいろんなものが生まれてきたけど、こんだけライヴを演らないで、休みまで入れて、レコーディングに入ろうとしたのは何か意図があったの?
「や、単純に演りたかっただけだよ。音を出すとか、レコードを作るとか。それをやってないと……ポンコツだ(苦笑)」
ははははは、ポンコツですか(苦笑)。
「やっててもポンコツだけど(笑)」
じゃあ「俺はそういうのをやってないとポンコツなんだな」って、レコーディングに入る前に感じたわけだ。
「ああ、痛いほど感じたね(笑)」
で、このアルバムを聴くと、すげぇカッコいいと同時に、なんか緊張感や現実感の強さをびしびし感じて。
「うん」
同時にミッシェルというバンドでやる方向というか、そういうのがきちっと定まったんじゃないかと思ったけど。
「んー、まあでも、方向性みたいなのはやっぱないよ、最初っから。4人でロックンロールを、音楽を、ミッシェルをやるってこと。それだけ。今、もう新曲も出来上がりつつあってさ」
え? すげぇじゃん。合わせたりしてるの?
「うん。楽しいよ(笑)。レコーディングしようかな。歌詞も全部あるんだ。カッコいいぜ」
それはもうみんなで合わせたりしたの?
「セッションで作っていったからね。最近だよ。ついこないだ出来たばっかでさ」
アルバムのレコーディング前まで「今何もない。空っぽだ」って言ってた状況がウソみたいじゃない。
「や、空っぽっつーか、あれは空っぽじゃないんだよ。要するに……何も見えていないってことだね。曲が見えてないっつーか。フレーズとかそういう断片はたくさんあったし」
それって具体的に言うと、チバくんの中でのミッシェルというバンドが、そこでどういう風景を見るのかがハッキリしてなかったってことなのかな。
「うん、次にじゃあどういう曲を作ろうかっていうのがハッキリ見えてなかった。断片はあるけど。それはやっぱり4人で集まってやんないと出来ないからさ」
じゃあその何かを見えるようになるための、2ヵ月間の休みだったってことだよね?
「んー、そういうことなのかな。ま、いろいろやってたよ。セッションもやったし、ライヴにも出たしさ」
じゃあ普通に時間が流れてただけ?
「休みの間? 普通じゃなかったね」
どういうところが?
「……呑み過ぎた(苦笑)」
はははは! 何かいつものことのような気もするけど。
「いや、最近そうでもないような……気が……(笑)。まあ、やっぱり次のアルバムのことを考えるし。その時に俺はもう『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』っていうアルバムを作りたいなっていうのは思ってて。そのタイトルでいいのかなとかっていうのは思ってたよ」
『ロデオ~』っていうアルバムを作りたいのは見えてて、その間にイメージも膨らんでいったわけじゃないですか。
「うん。ただ、4人で合わせて曲を作ってなかったから、はっきりしなかったよね、自分の中で。だいたい今までタイトル決めるのって、3曲ぐらいはある程度出来上がってる段階で(タイトルが)見えてくることが多かったからさ。その時〈ベイビー・スターダスト〉しかなかったからね」
イメージがボンヤリしてたってことだよね。4人で音合わせてないから。で、レコーディングでそれがハッキリ見えたと。
「いや、レコーディングとかプリプロよりもっと前。4人で音を出したときに、もう見えた。だだっ広い、冷たい感じ」
違ったことをやろうという意識はあった?
「そういう感覚はやっぱないね。違うことをやろうとは思わない。新しいことをやろうとは思うけど」
新しいことってのは、どういうことになるの?
「新しくグッと来るもの。ただ、何が新しいのか俺にもわかんない。だからセッションしてて、新曲を作り始めて、いいなって思えること。それが俺にとっては新しいことなんだよ」
