【LIVE REPORT】
〈GRAPEVINE TOUR 2025 extra show〉
2025.08.30 at 日比谷野外大音楽堂
8月末の土曜、野音で、というのは「夏休み、最後くらいビアガーデンでも行く?」といった誘いのように捉えていた。しかし事態はそんな呑気な状況ではなくなった。ただでさえ酷暑の2025年、週末の関東地方は過去に経験したことがない暑さになるという。関東甲信越や東海地方の内陸は40度を超えるという予報も出た。大丈夫なのか? もはや納涼といったお祭り気分では済まされそうにない。ある意味命がけの、こんな緊張した心境でGRAPEVINEのライヴに向かうなんて初めてだ。
実際ライヴ会場に足を踏み入れると、空調服を着て作業しているスタッフが何人もいた。ステージ左右には冷風機が置かれ、楽屋にはかき氷器と氷もある。リハーサル中、田中和将はタオルで汗をぬぐい、金戸覚は冷風機で腹を冷やしていた。しかし時折風が吹く。気温は昼間で36.4度。これならなんとかいけるかもしれない。

「はいこんにちはー、日比谷ー。水分持ってるかー。塩分持ってるかー」
GRAPEVINE@日比谷野外音楽堂。夏の野音、さらに〈extra show〉と銘打たれていることもあってこの日のライヴは派手曲多めの特別仕様かと思っていた。しかしフタを開けてみるとそうではなかった。現在彼らは5月に発売したアルバム『あのみちから遠くはなれて』のツアー中。6月からはじまったツアーは7月末にいったん中断し、今月からまた再開となるが、この野音はあくまで〈ツアー後半戦の1本目〉という位置づけらしい。前半からの違いにしても高野勲いわく「曲順の流れがいいので構成は変えず、過去曲を差し替えたくらい」だという。

1曲目、意外な曲からはじまった。田中はのっけから手拍子を誘い、西川弘剛はステージ前に出てソロを弾く。客席も片手にビール、片手に扇子で喝采を浴びせかける。開放感のある演奏に開放感のある観客。それは夏の野外だからではない、バンドの今の空気感がそのまま出たものだ。
ライヴは新譜の曲に過去曲を混ぜて構成されている。〈ここでこの曲が来るか〉〈この流れでそれやるか〉という意外性と裏切りは彼らにとってお手のもの。今回もデビュー29年目選手ならではの懐深いフラッシュバックには感じ入るものがあったが、それより今回の主役はやはり『あのみち~』だ。デビュー29年目にもかかわらず新たな金字塔を打ち立てた『あのみち~』の破壊力をまざまざと見せつけられたのが今回のライヴだった。

ライヴではアルバム収録の全10曲はすべて披露された。しかし曲順はシャッフルされていた。この時点で音盤のストーリーは解体され、組み直されている。過去曲によって奥行きを加えた、『あのみち~』ワールド拡張版に進化している。
それにしても「天使ちゃん」の盛り上がりはどうだろう。金戸のタフなベースに亀井亨のリズム。ハンドマイク&ブルースハープで田中が舞台をうろつき回ることで空間に動きが生まれる。サビで手を挙げる客も多く、音楽ファンを騒然とさせたこの曲がここではウェルカムで受け入れられていることを実感する。むしろ今後のGRAPEVINEライヴ定番曲に名乗りを上げるほどの強烈な存在感である。

レコーディングならではのギミックを駆使した「ドスとF」のような曲をどうステージで表現するかも見どころのひとつだった。いくらスタジオで遊んでも、最終的には彼らはそれをナマで、人力で演奏する。その際に引き起こされる、枠に無理やり身体を押し込めるような軋轢がむしろバネになって未知のグルーヴを生む。これまでなかった演奏を呼ぶ。こうしたどこか被虐的な〈もらい事故〉こそアルバムツアーで彼らが求めているものだ。
「カラヴィンカ」「猫行灯」あたりはアルバムで聴いた時からライヴ映えする様子が想像できたが、ここまで化けているとは思わなかった。ツアー半分でこれなら、最後は一体どうなっているのか。5人のアンサンブルだけで実現する暴力的で変態的なサイケデリア。この日はマカロニえんぴつ・はっとりなど若いバンドマンも会場にいたが、このあたりのバンドの仕上がりをどう見ているのか? 率直に訊いてみたいものである。
さらに高野が「ライヴでニール・ヤングみたいなイ短調の曲があったらいい」と西川に作曲を依頼した「my love, my guys」。削ぎ落とされた構造が逆に多くを語りかける豊潤。音の渦に溺れていく恍惚。ありそうでなかったGRAPEVINEの真骨頂。高野が見たかったのはこんな風景だったのだろうか。

ステージを見ながら改めて思う。『あのみち~』の曲はどれも強い。一曲一曲、どれもが切り札になりうる強い光を放っている。今回ライヴの色合いが大きく変わったように思えたのは、それだけ『あのみち~』が革新的だったからである。過去の手法を更新した楽曲が多数を占めたからである。まさしく、あのみちから遠くはなれて。個人的には、過去のヒット曲がどこかノスタルジックで純朴に聞こえたほどだ。
今回の会場となった日比谷野外大音楽堂は改修工事のため今月で営業を停止する。アンコールの最中、ふと気になって外を覗くと、木立の陰でひっそりと〈借演〉している人が何人もいた。蝉時雨、ビルの灯、後ろの売店の列。今回が何回目の野音か、メンバーに訊いても誰も憶えていなかったが、何度もここでGRAPEVINEを観たことを思い出す。
「じゃあありがと、またなー。改修後に会おうぜー」
野音の再整備完了は2027年末の予定。これからもここで彼らと集まれる日々が続けばいい。
文=清水浩司
写真=Kazma Kobayashi








3人の撮り下ろし写真&最新インタビューが掲載された音楽と人10月号が発売中。ツアー前半戦を振り返りつつ、今後のツアーが楽しみになるような内容となっています。ぜひ誌面をチェックしてください。
〈GRAPEVINE TOUR 2025〉
9月6日(土)福岡DRUM LOGOS
9月7日(日)鹿児島CAPARVOホール
9月13日(土)札幌ペニーレーン24
9月15日(月)仙台Rensa
9月20日(土)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
〈GRAPEVINE TOUR 2025 extra show〉
9月21日(日)名古屋市民会館ビレッジホール
9月23日(火・祝)大阪城音楽堂
NEW ALBUM
『あのみちから遠くはなれて』
2025.05.28 RELEASE

■初回限定盤(CD+DVD)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※全形態共通
- どあほう
- 天使ちゃん
- ドスとF
- わすれもの
- my love, my guys
- NINJA POP CITY
- カラヴィンカ
- はれのひ
- 猫行灯
- 追憶のビュイック
〈DVD「LIVE AT UMEDA TRAD 2024」〉 ※初回限定盤のみ
「GRAPEVINE The Decade Show : Trad Gala」よりライブ映像6曲収録。
- 吹曝しのシェヴィ
- Time is on your back
- Through time
- 君を待つ間
- 覚醒
- Alright