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tacica20周年記念ライヴ〈水母の骨〉。この日、彼が言葉にできなかった思いとは

text by 樋口靖幸

【LIVE REPORT】
〈tacica 結成20周年記念公演「水母の骨」〉
2025.04.06 at ヒューリックホール東京




アンコールの拍手に迎えられ、再びステージに姿を見せた3人。ギターを手にした猪狩が「えっと……」とシリアスな面持ちで口を開いたんで思わず身構えた。彼のMCといえば「ありがとう」と「曲やります」のふたつのワードだけでやりくりするのが常だが、さすがに今日はちゃんとしたメッセージを伝えたかったのだろう。しかし数秒間の沈黙の末、彼の口から出てきたのは「ありがとう」というお決まりのセリフだった。それでも客席からは優しい拍手が送られていた。


20周年記念ライヴ。メンバーはもちろんファンにとっても特別な公演だ。いつもは奥ゆかしく開演を待つ客席からも、今日は汗ばむような熱気がじんわりと伝わってくる。ちなみにホールライヴはコロナの影響により1年延期の末に中野サンプラザで開催された15周年公演以来となる。ハーフキャパと配信でどうにか開催をこぎつけた前回とは打って変わって、本公演はソールドアウト。バンドもお客さんも晴れ晴れとした気持ちでこの日を迎えたことだろう。


ファーストアルバムの「HERO」で幕を開けたステージ。スリーピースの乾いた音がホール特有の折り目正しい音響システムによって届けられる。続く「冒険衝動」は音の歯切れのよさに加え各楽器のバランスも絶妙で、やはり今日が特別なライヴであることを実感する。しかしサポート中畑を含む3人の佇まいはいつも通りだ。記念ライヴだからとよそ行きをまとうわけでもなく、平然とした面持ちでトライアングルを紡いでいる。猪狩が気持ち良さそうに声を張る「デッドエンド」。小西のリードするベースラインが優しい「ハイライト」。「命の更新」では小西と中畑の力強いコーラスがドラマチックなアウトロを演出する。決して彼らはサービス精神が豊富でもないし親切心に溢れているわけじゃない。それでも彼らの音楽には陽だまりのような温もりがあるだけでなく、人との繋がりを求めずにはいられないひたむきさがある。そんな彼らの思いを、いつも以上に感じられるパフォーマンスが続く。


5曲披露したところで猪狩のMC。楽屋には〈床が揺れるのでお客さんを煽らないように〉という注意書きが貼ってあったという。それをネタに「今日はモッシュとかダイヴとかできなくてごめんね」というジョークをかます。もちろん彼らのライヴではモッシュもダイヴも起こることはない。お客さんが笑ってくれたことに安心したのか「曲やります」とすぐにギアを切り替えて披露した「ミカラデタサビ」と「アロン」。どちらもセッションを思わせる3人の激しいぶつかり合いが炸裂する。トリオバンド特有のグルーヴに乗って、猪狩は感情の蓋を開け放つように歌を轟かせる。そんな彼の姿を観ながら、初めて出会った時のことを思い出した。


彼らのライヴを初めて観たのは渋谷クラブクアトロでのワンマン、2008年の東名阪クアトロツアーの最終日だ。線の細い神経質なバンドかと思いきや、ザラついたバンドサウンドとダイナミックなヴォーカルが意外だったのと、口下手なりに感謝の気持ちを伝えようとしているフロントマンが印象的だった。初対面はそのライヴ後の楽屋で、猪狩はとても不安そうな顔で関係者の挨拶に応じていた。きっと社交辞令のライヴの感想なんて聞きたくもないのだろう。そこで順番が自分に回ってきたと同時に、動物の話をすることにした。たしかインコの話だったと思うが詳しいことは覚えていない。ただ、その時になんとなく〈いいヤツだな〉という彼に対する印象と、さっき観たばかりのライヴの余韻が重なったのはよく覚えている。シャイで人見知りが激しくて面倒くさそうだけど、いったん心の蓋が開いたら一気に相手との距離が近くなってしまうような、そんな男がやってるバンドなんだと。あの日以来、その認識が変更されたことは一度もない。そして、今日のライヴでも彼は相変わらずいいヤツで、今もステージでは心の蓋がパカっと開いていた。


ライヴ中盤以降はバンドのプロデューサー&ギタリストとして関わりのある野村陽一郎を迎え、4人編成にアレンジされた楽曲が続く。その中で特に印象的だったのは野村がギターソロで華を添えた「ホワイトランド」。激しい彼のギターソロの背後で、猪狩がジャーンジャーンと鳴らすギターの大らかさが、北海道の雄大な自然やのんびりとした時間を表現しているようだ。もし東京ではなく彼の故郷でライヴを観たら、そこにはどんな彼がいるんだろうと想像した。さらにライヴ終盤では「aranami」「象牙の塔」とコロナ禍に書いた曲を立て続けに演奏し、本編を締め括った「キャスパー」では猪狩がアカペラを披露。ドラマチックだけど仰々しくならず、エモーショナルだけど押し付けがましくない。そうやって20年をファンとともに過ごしてきた日々を象徴するようなエンディングだった。


そして、冒頭で触れたアンコールでの一幕。きっとあの時の彼は、心の蓋が開いたり閉まったりしてるうちに、言い淀んでしまった自分のことが面倒くさくなったのだろう。言いたいことがあるなら言えよ。でもそれってちゃんと伝わるのか?みたいに逡巡しまくる自分のことが。でもたぶん、彼があそこで言いたかったことは「ありがとう」とそんなに変わらない感謝の気持ちだったと想像している。アンコールのラストを締めくくった「アースコード」の歌がいつも以上にデカく聴こえたのは、本人がその時の鬱憤を晴らしたかったからなのもしれない。


文=樋口靖幸
写真=大参久人


【SET LIST】

  1. HERO
  2. 冒険衝動
  3. デッドエンド
  4. ハイライト
  5. 命の更新
  6. ミカラデタサビ
  7. アロン
  8. 夢中
  9. YELLOW
  10. WAKIME
  11. ホワイトランド
  12. name
  13. 煌々
  14. ordinary day
  15. aranami
  16. 象牙の塔
  17. キャスパー

ENCORE

  1. DYING SONG(未発表曲)
  2. アースコード


※記事初出時、本文中に誤りがありました。お詫びして訂正します。


tacica オフィシャルサイト

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